悪質なクレーマーにはどんな特徴があるのか。クレーム対応研修講師の津田卓也さんは「これまでクレーマーと言えば、60歳以上の定年退職した男性が多かったが、15年前と比べて若返っている」という――。(第3回)
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■「教育的指導型クレーマー」という厄介な存在

私がクレーム対応の研修を続けてきたこの15年間で強く感じたのは、日本はどの領域においてもサービスの質が高いということです。

企業が完璧に近いサービスを提供し、顧客から絶大な信頼を寄せられているからこそ、ちょっとしたミスでクレームが発生してしまう、というのがいまの日本の状況だと私は感じています。

そのように企業が信頼されている状況だからこそ、自分の能力を誇示しようと「上から目線で企業を指導する」というタイプの悪質クレーマーが存在します。彼らは特定の企業に電話をかけ続け、「お前らはもっと勉強しろ!」「前よりサービスが悪くなったんじゃないか!」と長時間にわたって説教するのです。

この「教育的指導型クレーマー」の主流は、以前は圧倒的に60歳以上の定年退職後の男性でした。たとえば、元大企業の役員や元大学教授、廃業した医師など、社会的地位の高い人たちが、クレーマーになるケースが多かったようです。なので、クレームの内容もよく聞いてみると論理的な内容が中心でした。

しかし、クレーム対応の現場から話を聞いていると、現在はこの「教育的指導型クレーマー」が40代から50代の現役世代の男性へとシフトしているのです。

■なぜ現役世代はクレーマーになったのか

現役世代の彼らは、社内で管理職の立場にあることが多いにもかかわらず、なぜ社外で怒りを爆発させるのでしょうか。

その背景にあるのは、社内のパワーバランスの変化です。

現代の企業では、「ハラスメント研修」が徹底され、部下や若手社員から訴えられるリスクが高まっています。社内で自分の要求を通したり、怒りを爆発させたりすれば、自分の立場を失うことになりかねません。

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その結果、彼らは鬱憤やストレスの矛先を、抵抗しない、あるいは抵抗できない社外の接客従事者に向けているのです。彼らにとって、店舗や役所の窓口は、社内で抑圧された感情を安全に吐き出せる「はけ口」になってしまっているのです。

これまで主流だった定年後男性の場合は、上から目線であったとしても論理的なクレームが多かったのに対して、現役世代のクレーマーは理不尽で感情的な要求をしてくる場合が多いです。年齢層が若くなっているだけでなく、クレームの内容にも変化が起きているのです。

■画期的なカスハラ対策が進んだワケ

悪質クレームやカスハラの内容もさまざま変化してきていますが、クレーム対応の現場も大きく変わってきています。

のちほど詳しく説明しますが、市役所では「偽名の名札」が採用され、電話対応においてもクレーム電話を一方的に“ガチャ切り”できるようになるなど、10年以上前では考えられないような対策が行われています。

組織的な防御策がここ数年で一気に加速し、従来の常識を覆す対策が進んでいる背景には、二つの理由があります。

一つは、深刻な人手不足です。

サービス業や公的機関において、クレーム対応のストレスで離職する従業員が激増した結果、慢性的な人材不足が常態化しました。企業は、既存の従業員を守らなければ、サービスの維持自体が不可能になるという危機に直面しています。もはや「お客様は神様」と従業員の心身を犠牲にする余裕は、企業には残されていません。

従業員の安全を最優先するためのカスハラ対策は、サービス継続のためのリスクマネジメントとして不可欠な経営判断となりました。

そして、もう一つが、2026年中に施行されるカスハラ対策の法制化(改正労働施策総合推進法)の動きです。

政府は、事業者にカスハラ対策の義務を課す法整備を進めており、これにより企業は、単なる道義的な責任としてではなく、法的義務として従業員の安全確保に乗り出さざるを得なくなります。この法制化は、今後のカスハラ対策をさらに加速させる決定打となるでしょう。

■「偽名の名札」でカスハラに対抗

現代のクレーマーは、自身の要求を通すために、スマートフォンを使う場合があります。

接客している従業員を動画で撮影し、それをSNSで拡散し、個人名や顔を晒すというデジタルハラスメントが常態化しています。この行為の恐ろしさは、一時的な業務上のトラブルを、従業員個人の私生活を破壊する永久的な被害へと変貌させる点にあります。

この種のデジタルハラスメントに対し、従業員が「個人的な接客スキル」や「忍耐力」だけで対処するのは不可能です。あるいは、従業員の名前と顔を覚えることで個人情報を詮索し、ストーカーになるケースもあります。これは、組織が全社を挙げて防御しなければ解決できない、構造的な問題です。

このような、個人の尊厳を脅かす行為に対し、組織は従業員を守るための、かつてはあり得なかった防御策を導入し始めています。その象徴が、公務員の「偽名の名札(ビジネスネーム)」の導入です。

大阪府の寝屋川市役所が2025年4月、全国に先駆けて職員を誹謗中傷から守るため、ネームプレートを本名から偽名(ビジネスネーム)に変更できるようにしました。この事例は、その典型です。公的機関は「公務」という性質上、本名を公開することが半ば義務とされてきましたが、個人への攻撃があまりに深刻化した結果、「本名を隠す」という極めて強い防御策が、社会的に受け入れられ始めました。

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■「住民の感情」よりも「職員の安全」が優先

もう一つ、組織の意識が大きく変わった例として、「役所は住民の電話を職員側から切ってはいけない」という慣習が変わりつつあることです。

公的機関では長年、「住民からの電話を先に切るのは失礼にあたる」「逆上して怒鳴り込まれるのが怖い」という理由で、職員は暴言や業務に無関係な話を聞かされ続けても、相手が電話を切るまで何時間も受話器を耳に当て続ける必要がありました。これは、職員の精神衛生にダメージを与え続ける、長年の「クレームあるある」でした。

しかし、人手不足と従業員保護の機運の高まりから、いまでは自治体がマニュアルを改定し、「業務に支障をきたす場合は、毅然とした態度で切ってよい」というルールを導入し始めています。これは、「住民の感情よりも、職員の安全と業務継続を優先する」という、行政における大きな転換点です。

■クレームは「ストレスの具現化」

ただ、悪質クレーマーやカスハラに対する対策が強化されたからといって、理不尽なクレームがなくなるわけではありません。

津田卓也『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(あさ出版)

たとえば、あるカフェで「自分でこぼしたコーヒーで火傷した! クリーニング代と慰謝料を払え!」と騒いだクレーマーがいました。このクレーマーは、自らの不注意で熱いコーヒーをこぼして火傷を負ったにもかかわらず、店側に「カップの温度が高すぎる」「提供の仕方が悪い」と責任を転嫁し、最終的に数十万円という高額のクリーニング代と慰謝料を請求してきました。

これは、自身に非があるにもかかわらず、企業側が「お客様」という地位に無条件に屈するという期待のもと、不当な利益を得ようとする過剰要求の典型例です。

これらの理解不能な暴言や行動は、記事の冒頭で紹介した「クレーマー化した現役世代の管理職」のように、さまざまな社会的不安やストレスの「はけ口」として、最も弱い立場にある接客業の従業員に向けて「クレーム」という形でぶつけられていると私は考えています。

国民の不平不満、社会のストレスが具現化したもののひとつが、悪質なクレームやカスハラだと言えるでしょう。

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津田 卓也(つだ・たくや)
クレーム研修担当講師
キューブルーツ(Cube Roots)代表。1965年生まれ。京都府出身。1995年ブックオフコーポレーション株式会社に入社し、2000年にはブックオフコーポレーションの年間MVP獲得。2005年にセミナー&研修会社キューブルーツを設立。メディアでも活躍し、フジテレビ『バイキングMORE』、テレビ東京『解禁!暴露ナイト』、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」、NHK「あさイチ」等に出演。執筆活動にも力を入れており、雑誌では『日経ビジネスアソシエ』等にも寄稿。著書に『どんなクレームも絶対解決できる!』、『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(ともにあさ出版)、『なぜか印象がよくなるすごい断り方』(サンマーク出版)などがある。
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(クレーム研修担当講師 津田 卓也)