『サユリ』『THE HAND』『ヒロシの心霊キャンプ』 怖さで残暑を吹き飛ばす必見ホラー3作
命の危険を感じるほどに暑い。こんなときは、怖い思いをして肝を冷やすのが一番だ。とっておきのホラーを3作を送りつける。
参考:白石晃士監督の問題作『サユリ』の独自性 日本のホラー映画界において異色作となったわけ
■『サユリ』
まず1本目は、『サユリ』である。2024年に公開された、白石晃士監督の作品だ。白石監督といえば、最新監督作『近畿地方のある場所について』が絶賛公開中である。この作品での菅野美穂のフルスロットル演技にハマった方ならば、ぜひこの『サユリ』を観てもらいたい。いや本音を言うと、老若男女問わず全人類に観てもらいたい。それぐらい、この作品は面白い。厳密にはR15+指定なのでローティーンの少年少女は観られないが、15歳の誕生日とともに観てほしい。
まず本作は、ホラー映画として容赦なく恐ろしい。そこはなにしろあの『ノロイ』(2005年)の白石監督なので、間違いない。『ノロイ』は、できることなら記憶から抹消したいぐらいに恐ろしかった。本作の前半部も、一切妥協のない恐怖と絶望感にあふれている。もうちょっと手心というか手加減というか侘び寂びというか、そんな日本人的な忖度も欲しいところだが、白石監督にそんな気遣いはない。ノンストップの恐怖演出に、こちらはついていくのがやっとである。
本作は、中古の一軒家にある幸せそうな家族が引っ越してくるところから始まる。夢のマイホームに一家が浮かれたのもつかの間、怒涛のように家族が死んでいく。父→祖父→次男→長女→母と、約1時間の間に息つく間もなく不審死を遂げていく。次男・神木俊役の猪股怜生がとてもかわいいので、この子が高所から転落し、Jホラーによくある手足が折れ曲がった死体になるシーンは、さすがに目をそらした。
この家には、この世に深い深い恨みを残して死んだ「サユリ」という女性の怨霊が取り憑いていた。残ったのは、中学3年生の長男・則雄(南出凌嘉)と、認知症のばあちゃん(根岸季衣)だけである。絶望に崩れ落ちそうになる則雄を、突然ばあちゃんが腰の入った前蹴りで蹴り跳ばし、喝を入れる。突然のばあちゃん覚醒!
このばあちゃんがめちゃくちゃカッコいい。元々太極拳の師範であり、戦闘力も高い。おせっかいお隣さんがつれてきたうさん臭い霊媒師も、あっさりと撃退する。掌底でアゴをかち上げ、そのまま同じ腕でみぞおちへヒジを入れる。アゴを上げられると腹筋が伸びてゆるむ。そこへの打撃は強烈に効く。中国武術は、映画だと無駄に派手に描かれがちだが、この地に足のついた描写には好感が持てる。近年でこそおばあちゃん役が多くなった根岸季衣だが、昔はつかこうへいの芝居でヒロインを張っていた、カッコいい女優さんだったのだ。
ばあちゃん曰く、怨霊に対抗できるものは、人間の生命力らしい。よく笑い、太極拳で体を鍛え、命を濃くする。死んだ家族たちは、みな疲れたり気弱になったところを突かれたのだ。ばあちゃん曰く「よく食べ、よく寝て、よく生きる。毎日走り、外気に触れ、心の臓を動かす」ことが肝要だ。サユリの霊はちょくちょく現れるが、ばあちゃんは動じず、則雄に「命が乗った言葉を叩きつけろ」と促す。則雄は、とてもここには書けないド直球の下ネタを叫ぶ。
本来なら眉をひそめるようなド下ネタに、まさか感動してしまうとは思わなかった。下ネタ=性および生殖行為=生命力である。新たな命を作り出す生殖行為は、人間の生命力の最たるものだ。怨霊を撃退するには、もっとも効果的だ。
だからこそ、則雄の同級生・住田(近藤華)がサユリに取り込まれたときの、則雄の叫びが胸に突き刺さる。「住田、好きだ! 住田とくっつきたい! 住田とやりたい! 一緒にやりたい! 俺たちはな、お前と違って生きてんだよ!」。
上品とか下品とか、もはやそんな些末なことはどうでもいい。本作は、究極の人間賛歌だ。ホラーが嫌いでも、下ネタが苦手でも、騙されたと思って一度は観てほしい。
■『THE HAND 恐怖のお手洗い』
『サユリ』で相当にHPを消費したことと思うが、続いて紹介する『THE HAND 恐怖のお手洗い』は、58分のワンシチュエーションホラーだ。サクッと観てほしい。
舞台は、韓国の高そうなマンションのやたら広いユニットバス付きトイレである。ある日、その部屋の住人が酔って帰宅すると、便座から腐った人間の手が生えていた。妻や駆けつけた警備員や救急隊員らを巻き込んでの、顛末を描く。
ホラーの巻き込まれ型主人公といえば、絶叫し、怯え逃げまどうのが定番である。そこから勇気を振り絞って、逆襲に転じるパターンもアリだ。だが本作の主人公は、一切怖がらない。便座から突き出た手を見ても、「ああ、手だね」って感じで、眉ひとつ動かさない。感情がないのかと、観てるこちらが心配になる。日本でリメイクするなら、ぜひ松田龍平にお願いしたい。UQ mobileのCMみたいなテンションで頼む。
本作は58分しかないため、さぞやソリッドに無駄を省いた構成だと思うだろう。実は、非常に無駄が多い。駆けつけた救急隊員が、手を見て気絶した若い妻を見て、「その女性はお前の嫁か?」と聞く。「母さんです」と答える主人公。驚く救急隊員。「冗談です。妻です」と訂正する主人公。もちろん終始無表情。そのくだり、いる?
他にも、化け物に効くのではないかと思われる漂白剤を投げ渡す際も、無駄にスローモーションになり、無駄にいいBGMが流れ、無駄にエモくなる。ただ漂白剤を渡すだけのシーンである。エモい要素は1mmもない。だが、この無駄な演出がだんだんクセになる。
本来の本作は、謎の手に掴まれた人間がどんどんゾンビ化していくという、パニックホラーである。だが鑑賞後に思い出すのは、主人公のシュールな無表情と、無駄が多い演出だ。それらを思い出しながら、自然とにやけている自分に気づく。おそらく、監督の術中にハマってしまった。くやしい。
■『ヒロシの心霊キャンプ』
最後に紹介する本作は、2024年にBS日テレで放送されていたドラマ『ヒロシの心霊キャンプ』である。近年ではソロキャンプYouTuberとしての印象が強い芸人・ヒロシが、山の中で心霊体験をした人々をキャンプに招き、そのお話を聞くというのが、番組の趣旨だ。
公式サイトには、「主演・ヒロシ×キャンプ飯×山の怪談」との文言が踊る。文言通り、冒頭から野外で手際よく野菜を切る手元が映し出される。「さすがソロキャンパー・ヒロシ。料理も得意なんだな」と感心していたら、作っているのはベアーズ島田キャンプ(元・芸人、現・野外料理研究家)であった。「ヒロシちゃうんかい」と、小声でツッコミつつ観ていると、どうやら作っているのはカレーのようだ。美味しそうだが、炒めた野菜にたらしたトマトピューレの赤が血の色に見えて、一気に不穏になる。
キャンプファイヤーを囲んでの怪談話は、再現ドラマとして観せられる。そのドラマがしっかりと怖い。ヒロシは、『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のタモリのような冷静なストーリーテラーかと思っていたら、ただの怪談を聞かされて怯えている人だった。「そのときの写真見ます?」と言われても、「いやいや、見せなくていいです!」と本気で拒否する。そしてほんとに見ない。「いやそこは見せろよ」と、また小声でツッコむことになる。
今なら、YouTubeで第1話を無料配信している。怖くて美味しいという珍しいドラマだ。おすすめしたい。
以上3本、全て観たならすっかり肝が冷えたと思う。まだ足りないなら、個別に相談に乗ります(費用別途請求)。
(文=ハシマトシヒロ)

