一方、これまでの生成AIの主流だった企業はどこに向かうのだろうか。例えば、オープンAIがこれまで調達した資金は数百億ドル規模に上り、今後もそれ以上の資金調達需要があると伝えられている。その資金需要に応えるのは、エヌビディア、大手クラウド・サービス会社、大手投資ファンドなどだ。うがった見方かもしれないが、エヌビディアや大手クラウド・サービス会社からすれば、AI開発の効率化が進み、高性能、高単価のAI半導体が売れなくなったり、貸せなくなったら困るからだろう。

 結局、行きつくころは、中東案件のような、数百億ドル、数千億ドル規模の大規模プロジェクトを進め、AGIの実現を目指す道しかない。だがAGIが具体的にどのような姿となって現れるかはまだ見えていない。場合によっては、開発の効率化を進める中国がこの分野でも逆転するかもしれない。AIの国際競争がどうなるのか、投資する側は注視する必要があろう。

 いずれにせよ、AI開発競争は、莫大な投資をしてAGIを目指す方向と、効率的な特化型AIを企業に導入していく方向の間で多極化していく。ただし、この1年のパフォーマンスを比較すれば、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ 、ブロードコム などのAI半導体セクターにGAFAM5社を加えた大型投資企業と、特化型AIのパランティアや、生成AIを事業に取り入れて成果を挙げているスポティファイ・テクノロジー 、ネットフリックス 、生成AIとはいま一つ縁がなさそうだが実際にはゲーム、音楽、映画の各所でAIが使われ始めているソニーグループ<6758> などを比較すれば、後者の方が断然、良いパフォーマンスを出している。要するに、これまでのような"生成AIど真ん中"ではなくとも、パフォーマンスの良い銘柄はあるのだ。

 この結果は株式需給の関係も影響している。前者が昨年までに高値で購入した投資家が多いのに比べ、後者は注目が薄かった分、高値で購入した投資家が少ない。つまり上値にしこりがないために、株価の上昇余地も大きいのだ。昨年の相場では「一生一緒にエヌビディア」などという標語が持てはやされたことがあった。アメリカ人の多くの投資家たちはいまでもそう信じているかもしれないが、長年、成長株専門のアナリストとして活動してきた立場としては、もはやそうした楽観的なシナリオを描くことはできない。

◆自由を失いつつあるアメリカでどう投資をしていくべきか?

 最後に「ディープシーク」やトランプ関税によってその底力が改めて再認識されつつある中国企業への投資についても簡単に触れてみたい。中国への輸出規制は、トランプ政権次第なのだが、少なくとも規制の有無にかかわらず、中国のAI開発は今後も急速に進んでいくことは間違いない。したがって新たな投資対象として、中国企業を検討してもいいのだが、問題なのは、成長企業の情報を得る手段が少ないことだ。

 そこでお勧めしたいのは、中国のAI関連の主要企業をポートフォリオに組み込んだETF(上場投資信託)だ。「グローバルX ハンセン・テック ETF」や「グローバル・X・チャイナ・クラウドコンピューティングETF」といったインデックスETFなら、百度(バイドゥ) 、阿里巴巴集団(アリババ・グループ) 、テンセント、中芯国際集成電路製造(SMIC)といった中国の代表的なハイテク企業が必ずポートフォリオに組み込まれているし、中国のAI関連の成長企業にも投資をすることができるだろう。

 中国のAI需要拡大を念頭に置くなら、今期予想PER(株価収益率)が20倍を切るという割安水準にある東京エレクトロン <8035> にも投資妙味がありそうだ。26年3月期のガイダンス(業績予想)では、対中輸出規制の影響もあって、中国への輸出は減少するとしているが、いまの中国の勢いを考えれば、これは控えめな見方なのではないだろうか。最先端製品は輸出できなくても、それ以外の製品の需要が増加する可能性が高いからだ。

 いずれにせよ、トランプ政権になってアメリカは大きく変わりつつある。トランプ関税は「アメリカを偉大にする」どころか、国民を苦しめる結果になることが明らかになってきた。何と言っても、人の移動の自由を制限しようしているところが愚の骨頂だ。不法移民だけならまだしも、合法移民や留学生まで制限しようとさえしている。アメリカの経済成長は、世界最高の頭脳がGAFAMなどのハイテク大手企業に集まったからこそもたらされたものだ。その流れを遮断してしまったら、アメリカがこれまで同様の成長を続けていくことができないことは自明の理のはずなのだ。

 2000年代以降続いた米国株の上昇サイクルが終わったのかどうかはまだ分からない。だが、トランプ的な価値観が支配するアメリカを見ると、少なくとも、ひたすら主力銘柄を保有していればいい、という時代ではなくなったのではないかと感じる。昔の日本の証券業界では、「株は売らなければ儲からない」と言われた。株は買い場を探すことも重要だが、同時に売り場を探すことも大切という意味であり、投資におけるマネタイズ(現金化)の重要性を指摘したものでもある。10年、20年の長期投資を否定するつもりはないが、今後は「安いところで買って、ある程度上がったら売る」という投資も考えてみてもいいのではないか。米国株もひょっとしたら、そうした相場に突入したのかもしれない。


【著者】
今中能夫(いまなか・やすお)
楽天証券経済研究所チーフアナリスト 

1961年生まれ。大阪府立大学卒業。岡三証券、シュローダー証券、コメルツ証券などを経て2005年より現職。1998-2001年、日経アナリストランキングソフトウェア部門1位、2000年、同インターネット部門1位。ハイテク業界、半導体業界を対象にした綿密な企業分析に定評がある。楽天証券の投資家向けサイト「トウシル」で注目企業の詳細な決算分析動画およびレポートを随時、公開中。

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