何かの作業中や勉強中、スポーツに取り組んでいるときなど、完全にのめり込んで最高に集中が高まる状態を「フロー」と呼びます。フローに入ると作業がはかどったり高いパフォーマンスを発揮できたりしますが、さらにフロー状態は精神衛生上良いものであり、フローに入ることでメンタルヘルスが改善する可能性があると研究によって示されました。

Can flow proneness be protective against mental and cardiovascular health problems? A genetically informed prospective cohort study - PubMed

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38480692/

Flow: people who are easily absorbed in an activity may have better mental and cardiovascular health

https://theconversation.com/flow-people-who-are-easily-absorbed-in-an-activity-may-have-better-mental-and-cardiovascular-health-227696



フローとは心理学の用語で、通常は「多少困難ではあるものの、自分のスキルレベルを満たしている活動中」に経験できます。以下の画像は、過去にフローに関する研究で示された図で、横軸が自分のスキル、縦軸が課題の難しさを表しています。自分のスキルが低く簡単な課題は無関心(Apathy)、スキルは高いのに課題が簡単だと退屈(Boredom)、スキルが低いのに課題が難しいと不安(Anxiety)を引き起こしますが、課題が難しくかつスキルがそれに伴っていると「フロー」に入ることができるというメカニズムです。フローを経験すると、非常に効率的になり、コントロールできていると感じ、時間を忘れる傾向があります。



フローに入っている間は、集中力が上がって高いパフォーマンスを発揮できるため、ポジティブな状態だと言えます。それに加えて、フロー状態は一時的なポジティブ効果だけではなく、より広く精神衛生に良い影響を与えることはできるのかについて、スウェーデンにある医科大学のカロリンスカ研究所で行動遺伝学を研究するミリアム・モシング氏が解説しています。

モシング氏によると、フロー状態に入りやすいかどうかは遺伝的要因が関係あるそうです。それに加えて環境要因も影響していますが、フロー状態の経験しやすさは個人差があり、2020年に中国の研究者らが発表した論文では、「フロー状態になりやすいことは、精神面や心臓血管の健康状態の改善など、多くの良い結果につながる可能性がある」と示されました。



ただし、従来のフローに関するほとんどの研究では、サンプルが小規模だったり自己申告データに基づいていたりするため、フローが及ぼす因果的影響について結論を出すことはできないとモシング氏は指摘。また、フローに入りやすい遺伝的要因が、フローに関係なく精神衛生に直接良い影響を与えている可能性も考えられます。同様に、「フローに入った人は精神的健康が良化する」という傾向が見えたとしても、それは「フローに入れない原因となる心配やストレスの多い神経症傾向の人は、精神的健康を良化できない」ということの裏返しでしかない可能性があります。

そこで、モシング氏らはスウェーデンの患者登録簿に登録されている9300人の実際の診断結果を使用し、神経症傾向がフロー状態と精神的健康状態との関連性に影響を及ぼすかどうか、また遺伝や幼少期の家庭環境などの家族要因がフローに何らかの役割を果たしているかどうかを調査しました。加えて、精神的健康問題がフロー状態の低下につながるかどうかも、初めて検証しています。

結果として、フロー状態を体験しやすい人ほど、うつ病、不安障害、統合失調症、双極性障害、ストレス関連障害、心血管疾患など、特定の病気にかかるリスクが低いことがわかりました。神経症傾向や家族要因を考慮した場合には、フローはうつ病や不安症とのみ、比較的低い関連を見せると判明しています。モシング氏は「この発見は、フローがこれらの精神的健康の結果に対して何らかの保護効果を持つ可能性があるものの、その関係は考えられているよりも複雑であることを示唆しています」と述べています。



フローに入ることで精神的に良い影響を得ることができるということが示されましたが、うつ病や不安のリスクを減らすためにフロートレーニングに取り組むべきだということにはならないとモシング氏は指摘しています。フローに入る方法のアイデアはいくつかありますが、「フローを正しく操作できるかどうか、操作して意図的にフローに入るとどのような結果になるかという研究は、現時点では不足しています」とモシング氏は語りました。

集中力が最大に高まって作業がはかどりまくる「フロー」状態に入る方法とは?



フローに関して明確になっていない点は多いですが、フローを経験すると将来への不安を一時的に忘れたり、好きなことに夢中になって空間と時間の感覚がなくなるほど没頭したりします。

「少なくともその瞬間は、自分にとって良いことである可能性が高いです」とモシング氏は述べています。