福岡への加入が内定している福岡大の重見。チームのリズムメーカーとして存在感を示す。写真:安藤隆人

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「この1年で本当に『人生何があるかわからないな』と身に染みてわかりました」

 こう振り返るのは福岡大のボランチ・重見柾斗だ。来季からアビスパ福岡に加入が内定している彼は、大学最後となるインカレの準々決勝で京都産大に敗戦。4年間の大学生活に幕を閉じた。

「あっという間の4年間でした。でも、僕にとってはかけがえのない4年間。高卒プロになれなくて福岡大に来て、今年はアビスパで何試合もスタメンで起用してもらえて…。本当に福岡大に来て良かったなと心から思っています」

 大分高時代から、卓越したボールキープ力とスルーパスの精度の高さは抜きん出ていた。視野が広く、ボールを落ち着かせられ、かつ決定的な仕事もできるボランチは、湘南ベルマーレの練習に参加をするなど、注目の存在だった。しかし、プロからオファーは届かず、進路に同じ九州の福岡大を選んだ。

 屈強なフィジカルとパワーを持った選手たちの中で、1年時から高い技術レベルを評価され、福岡大のリズムメーカーとして君臨。さらに「自分もフィジカルをつけないといずれは通用しなくなるし、自分で奪ってから展開するなど、プレーの幅を増やさないといけないと思った」と筋トレや球際の攻防にも意欲的に取り組んだ。
 
 そして今年に入り、九州選抜の攻撃の中枢としてデンソーカップチャレンジプレーオフに出場。チームはそこで敗れたが、プレーオフ選抜として本戦に出場し、3位に輝いた。ここで、「全国でも十分通用すると自信がついたし、何より中村憲剛さんに教えてもらえたことが大きかった」と語ったように、プレーオフ選抜では中村憲剛コーチの指導を受けた。

「最初に見る場所やボールの置き所、ポジショニングなどの細かい部分を教えてもらえたし、何よりお互いを知らない状態でも当事者意識を持ってチームのために戦う気持ちを持てるかなど、選手として大事なことを教えてもらえました」

 プレーに自信と責任が芽生えた重見は、さらに成長のスピードを早め、デンソーカップチャレンジ本戦後の3月24日に福岡加入内定。すると、4月5日のルヴァンカップ・鹿島アントラーズ戦でプロデビューを飾り、4月29日のJ1第10節・川崎フロンターレ戦でベンチ入り。翌11節のFC東京戦では、Jデビューをスタメンフル出場で飾った。

 そこから、第15節の横浜F・マリノス戦まで5試合連続スタメンを果たし、トップ下の位置から福岡大と変わらぬリズムメイクで大きな存在感を放った。

「実際にJ1のレベルを経験して思ったのは、もし高卒でJリーグに行っていたとしても、活躍できる力はなかったということでした。福大で走力だったり、球際の部分だったり、スピード感を相当鍛えてもらい、戦うという部分ではかなり成長をできたからこそ、今年プロの練習や試合に加わってもスムーズにやれたと思っているので、本当にここに来て良かったと思っています」

【PHOTO】選手たちと共にクラブの歴史に星を刻んだアビスパ福岡サポーター!
 前期はほぼアビスパで過ごし、後期は福岡大メインでリーグ戦に臨んだ。そのなかで10月の第19回アジア競技大会にU-22日本代表の一員として出場。初めて日の丸を背負ってプレーし、グループリーグ第2戦以外、決勝まですべての試合に出場。韓国との決勝戦ではスタメン出場を果たした。

 だが、この大会のU-22日本代表は大学生が多かったのも事実で、まだパリ五輪を目ざすチームの中核ポジションまでには至っていないことは誰よりも理解している。

「まだ胸を張って代表と言えるレベルではないと感じたので、大学とプロでさらに成長をして選ばれるようにしたいと思った」

 悔しさを胸に帰国し、そこからは大学サッカーに専念。そして11月4日に行なわれたルヴァン杯決勝の福岡対浦和レッズは、九州大学リーグ1部の第20節、アウェーの日本文理大戦に出場して勝利をした後、福岡に戻るバスの中で見ていた。

「もちろん勝って欲しいという気持ちでしたが、どこかでこの舞台に自分がいない悔しさもありました」

 一時期はレギュラーポジションを取っているだけに、自分にもこの舞台に立てる可能性はあった。そう思うと悔しさがこみ上げてくるのも無理はなかった。

「初タイトルを掴み取る場に立てなかった悔しさだけじゃなく、これからタイトルを掴んだクラブに行くという責任感、来年以降は自分の手でタイトルを取らないといけないという覚悟が芽生えました」
 
 大学サッカーでのタイトルは、リーグ優勝のみで終わってしまったが、来年は福岡でクラブ2個目のタイトルを掴む、さらにパリ五輪を目ざすU-23日本代表の主軸へ名乗りを上げることが重見の至上命題となった。

「大学サッカーが終わってしまう寂しさはありますが、素晴らしい4年間を送らせてもらったことに対する恩返しをこれからしていきたいと思います」

 そう語る重見の右手には、試合中にしているヘアバンドがあった。「これ、祐也さんにもらったんです」と嬉しそうに語ったように、福岡のエースでヘアバンドがトレードマークになっている山岸祐也からもらった『山ピースヘアバンド』を大切に使っている。

 山岸を真似たわけではなく、「高校時代からヘアバンドをしたいなと思っていたけど、大学1年生までは怒られると思ってできなかった」と口にしたように、大学2年生から念願叶ってヘアバンドをつけてプレーするようになり、今では自分にとって大事なルーティーンになった。

「祐也さんから『ヘアバンドつけているなら、これをあげるよ』と言われていただいてから、ずっとつけさせてもらっています。祐也さんにあやかっています」

 福岡のエースからもらったヘアバンドとともにプロの世界へ。重見は1年目からチームを牽引するつもりで、星が1つ刻まれたアビスパのユニフォームに袖を通す。

取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)