近年、アフリカではユーザーがアプリで簡単に融資を受けられるローンアプリが人気を集めており、多くの人々が生活費の不足を借金で補っています。ところが、依然としてローンアプリに関する法規制が十分に整っていないそうで、あるローンアプリは支払いが滞った場合、スマートフォンの連絡先に登録された人々に「この人は借金を踏み倒している」と通知する恐ろしい仕組みで取り立てを行っていることが報じられています。

This lending app loves you until you’re late on a payment. Then the shaming begins. - Rest of World

https://restofworld.org/2020/okash-microlending-public-shaming/

ケニアのナイロビにある国際非政府組織(iNGO)で働くDavid Kiraguさんは、2018年の3月に家賃の支払いが間に合わない事態に陥ってしまったとのこと。家族や友人に借金を申し込んで「身の丈に合っていない生活をしている」と思われたくなかったKiraguさんは、Facebookで見かけた「OKash」というローンアプリをダウンロードし、15ドル(約1600円)の融資を受けました。

Opera Softwareが運営するOKashは2012年からケニアで事業を開始したローンアプリであり、スマートフォンにアプリをダウンロードし、財務状況を入力してアルゴリズムが信用格付けを生成したら、お金を借りることができる仕組みとなっています。Kiraguさんはアプリをダウンロードしてわずか数分で融資を受けられたそうで、届いたお金で家賃を支払い、余裕がある時に返済を行いました。そしてKiraguさんはその後もOKashから借金を行い、2回目は35ドル(約3700円)、3回目はそれ以上の額を借りたそうです。Kiraguさんは2回目のローンを順調に返済したものの、3回目のローンを期限までに返済できませんでした。

3回目のローンの返済期限が近づいてくると、OKashの借金取りがKiraguさんに電話をかけてローンの返済を迫ったとのこと。そして返済期限の1時間前になると、「何度か通知したにもかかわらず、まだOKashローンの支払いを受けていません。午後4時までに支払われない場合、利用規約第8条に従い、お客様のプライバシーが侵害されることに注意してください」というメッセージが送られてきたそうです。利用規約第8条には、「お客様または緊急連絡先と連絡が取れない場合、あなたは連絡先リストの全ての人に連絡することを明示的に許可します」と記載されていました。

そして返済期限を過ぎると、OKashはKiraguさんのスマートフォンに登録されている連絡先から、家族や友人、職場の同僚にも「Kiraguさんが借金を踏み倒している」というテキストメッセージを送りました。中にはKiraguさんに同情してくれたり、笑い飛ばしてくれたりする友人もいましたが、メッセージが実家がある村の中で出回ったため、父親からは「お前は家族に恥をかかせた」と非難されたとのこと。また、母親にはどうしても本当のことを言えなかったそうで、「これは詐欺だから無視してくれ」とうそをついてしまったそうです。



ケニアでは2007年に通信プロバイダーのSafaricomがMペサと呼ばれる送金・決済サービスを開始して以来、金融とテクノロジーを組み合わせたフィンテック分野が急成長しています。Mペサが登場した当初の売り文句は、「家を離れなくても実家に送金できる」というものだったそうです。

ほとんどのケニア人が持っているスマートフォンを基準にした金融システムは、銀行の口座を持っていないケニア人を金融セクターに取り込むことに成功しました。Mペサのユーザー数は予想を上回るスピードで増加し、2019年9月時点でケニアの人口のほぼ半分に当たる600万人がMペサを定期的に利用しているとのこと。また、フィンテックの高まりにより、銀行口座を持たない低所得のケニア人に向けたローンアプリも多数登場することとなりました。

ローンアプリの利用について調査したビジネスジャーナリストは、「ローンの3分の1は午前3時から午前5時の間に行われます。ほとんどは24時間以内に返済されます」という傾向を指摘しました。この奇妙な傾向は、ローンアプリを使用する典型的なユーザーが「市場の売り手」だったことが理由だったそうです。市場の売り手は朝早くに起きてお金を借り、市場に出て働いてお金を稼ぎ、夕方になるとその稼ぎで朝に借りたお金を返済していたとのこと。

2006年の時点で、金融システムに組み込まれたケニア人の割合は27%に過ぎませんでしたが、2019年には83%へと急増しました。また、2018年9月には主要なアプリストアで110ものクレジットアプリがケニア人向けに提供されていたそうで、多くの企業が「高金利の短期ローン」を提供して収益を挙げているそうです。



しかし、デジタルの世界で融資を行う貸し手にとって問題となるのが、「借り手がお金を支払わなかった際の対抗手段が乏しい」という点です。ユーザーは支払いを滞納したらローンアプリを削除し、別のローンアプリをダウンロードして融資を受けることも可能です。

解決策の1つが、ケニアにある3つの信用実績照会局(CRB)に債務不履行者として登録し、クレジット市場から締め出すというもの。ケニアでは2014年〜2017年に270万人もの人々がCRBに否定的な理由で登録されており、そのうち2%はわずか2ドル(約210円)未満のローンを支払うことができずに債務不履行となっていたとのこと。CRBに登録されると就職が難しくなるなどの不利益があるそうで、「CRBステータスを確認する方法」は「人生で成功する方法」「妊娠する方法」と並び、2019年にケニア人が最も多くGoogleで検索した言葉となっています。

また、OKashは「連絡先のリストに登録された相手に借金を踏み倒したことを知らせ、債務不履行者に恥をかかせる」という取り立て方法を2018年から使用し始めました。インターネット上では、借金を支払えなかったことが周囲に知られたことで、「人間関係に支障が出た」「会社から解雇された」といった報告も相次いでいます。あるOKashユーザーは、確かに融資を受ける際に「連絡先のリストから通知が行く可能性がある」という利用規約を読んだそうですが、まさか家族を含む全ての人に通知が届くとは思わなかったと述べています。

OKashが行う取り立てはインターネット上で強く批判されており、Google Playストアの規約に違反しているのではないかとの指摘もされています。この批判を受けて、OKashはローンの支払期間をGoogle Playストアが定めるローンアプリのルールに準拠させ、アプリの利用規約更新にも取り組んでいるとのこと。

「社会的な恥」を利用しているのはOKashに限ったことではなく、東アフリカ全域でOKashと同様の手法で取り立てを行うローンアプリがリリースされているとのこと。また、ロシアでは「駐車マナーがなっていない車」の写真を撮ってオンライン上で共有するアプリが登場しているほか、中国では「借金している人が近くにいると通知を送るアプリ」も登場しています。

「借金している人が近くにいると通知を送るアプリ」が中国で登場 - GIGAZINE



ケニアではローンアプリを規制する法律が十分に整備されていないそうですが、2019年6月には12社のデジタルローン企業が「Digital Lenders Association of Kenya(DLAK)」を設立し、業界の慣習を規制する動きも進んでいます。OKashはDLAKに参加していませんが、DLAKは債権回収サービスの活動を監視し、消費者の権利が侵害された事例について調査することをメンバー企業に求めているとのこと。

一方、消費者側もローンアプリの取り立てに対して抵抗する動きを見せています。OKashユーザーの中には、返済期限が迫ると「スマートフォンが盗まれたので、変なメッセージが届いても無視してください」と知人に伝えてアプリを削除したり、債務取り立ての電話をかけてきた相手に強く怒鳴り返したり、どれだけ知人に借金をバラされようが借金の返済を拒否し続けたりする人もいるそうです。

また、Safaricomは2つの金融パートナーと協力し、口座残高が底をついても一定額を立て替える「Fuliza」という当座貸越サービスを2018年から導入しています。Fulizaではユーザーがローンの支払いを滞らせている場合、モバイルウォレットにお金が入金されると自動で返済が行われる仕組みです。しかし、一部の人は「Fulizaと連携したデジタルウォレット」と「Fulizaと連携していないデジタルウォレット」を所有し、ローンの滞納時には収入をFulizaと連携していない口座に入金することで、Fulizaの取り立てを逃れる方法を編み出しています。

規制の欠如はケニアのフィンテック業界に打撃を与えており、金融分析企業のHindenburg Researchは2020年2月のレポートで「Operaの金融プラットフォームは多くのユーザーを失っている」と指摘。DLAKの創設企業であるAlternative CircleでCEOを務めるKevin Mutiso氏は、「私たちは規制を受けたいのです」と述べ、規制が緩いままではケニア人がデジタル信用情報を完全に放棄する危険があると指摘。フィンテック市場を健全に保つには、最低限の資本要件・顧客の検証・CRBへのデータ提出といった慣行が必要なるとMutiso氏は訴えました。