企業のテレワーク実施率は13・2%から27・9%に倍増

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 巷で話題のCMでは“がんばるな”と視聴者に訴え、通勤が諸悪の根源であるかのようにテレワークを推奨してくる。生産性向上、自由な働き方だと聞こえはいいけれど、安易な導入にはさまざまな難題が……。ともすれば、大量クビ切りに繋がりかねないその実態とは。

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〈がんばるな、ニッポン。〉

 ひとたび会社に入れば、家庭を顧みず、長時間残業は当たり前、終身雇用ゆえ、定年まで会社に身を捧げるのが鑑とされてきた。

〈24時間戦えますか?〉

 バブル真っ盛りの頃、モーレツサラリーマンをそう鼓舞していたのもいまは昔。

〈経営者のみなさまへ 通勤をがんばらせることは、必要ですか?〉

 昨今、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ソフトウェア開発のサイボウズ株式会社が流すCMがある。その終わりには、

〈がんばるな、ニッポン。〉

企業のテレワーク実施率は13・2%から27・9%に倍増

 かつての企業戦士からすれば、“がんばるな”には隔世の感を覚えるだろうが、そう呼びかけるサイボウズの青野慶久社長は、同社でかねて進めていたテレワークをコロナ禍でほぼ100%実現したという。過去のインタビューでも、

「テレワーク環境の確保が企業存続のベースライン」

 とまで発言する“テレワーク推進論者”である。

 確かに春以降、世間では猫も杓子もテレワークといった観がある。人事や人材育成に関するシンクタンク、パーソル総合研究所によれば、4月の緊急事態宣言後、企業のテレワーク実施率は13・2%から27・9%に倍増している。

各社の対応は

 解除後はオフィスへ回帰する傾向が強まっているものの、7月に入ってから、東京都を中心に全国で感染者が急増。それを受け、現下、西村康稔コロナ担当相は、社員の7割をテレワークとするよう改めて経済界に呼び掛けている。

「Go To トラベル」で地方への旅行を推奨しながら、一方で在宅勤務を要請するという政府のちぐはぐさにため息が出るばかりだが、実際、大企業ではテレワークを積極導入しているところが多々見受けられる。

 例えば、富士通。緊急事態宣言後、国内の約8万人の従業員を対象にテレワーク勤務を基本とし、解除後も出社率を25%に抑える意向を明らかにしている。

 富士通広報によれば、

「7月から順次開始しております。“通勤定期代を支給せず実費精算に”“テレワーク環境整備費用として月5千円を補助”“単身赴任を解消する”などの取り組みになります」

 テレワークを進めることで、2022年度末にオフィス面積を半分にするという力の入れようだ。

 またカップラーメンでお馴染みの日清食品ホールディングスでは、同じく25%の出社率に抑えるため、「予約出社制」を導入している。

 同社広報担当者は、

「工場など生産部門は別として、予約出社制でソーシャルディスタンスを確保した新しい働き方を推進しています。部署ごとに2、3週間に1度、所属員の意向を確認、出社人数が25%以下になるよう調整しています。もし、それを超える日があれば、『Aさんは出社しないといけないから、Bさんはテレワークで、代わりに〇日に出社して』と臨機応変に対応します」

 出社したくてもできない、とは、なんとももどかしいだろうに。

 こうした企業が多いのも、通勤や会社での3密を避けられる、という緊急避難的な意味合いがあるのに加え、家族との時間が増えるといった点でも導入のメリットがあるからだろう。

言語のみのコミュニケーション

 しかし、コロナ禍が過ぎ去った後も永続的に実施するとなれば、どうだろう。

 本当にテレワークを推進しなければ、企業は生き残れないのか。顔を合わせず、膝詰めでの議論が長期間行われないことによる弊害はないか。それこそ企業や従業員の未来を左右する問題になりはしないか。

 テレワーク環境下でも勤勉に働く諸兄はそんな大げさな、と思うかもしれないが、実際に多くの企業の現場で混乱を招いているのもまた事実なのだ。

 まずは、人材研究所代表で人事コンサルタントの曽和利光氏が、

「テレワークは“オンラインコミュニケーションでの仕事”と言いかえることができます」

 と、分かるようで分かっていない「テレワーク」という働き方の特徴を解説する。

「オンラインでは非言語によるコミュニケーション、すなわち身振り手振りや阿吽(あうん)の呼吸、同調圧力がなくなり、言語のみでコミュニケーションを図ることになります。日本人が得意とする“物言わずして伝える”コミュニケーションが失われ、すべての仕事を言語化して伝えなくてはならない。阿吽の呼吸で進めてきたものを言語化するというのは簡単なことではありません」

突然辞める若手社員

 そこで障壁となるのは社員教育をどうするか、という問題である。

「簡単に言えば、“見て学ぶ”ことができなくなります。自転車の乗り方を例にとれば、乗って見せたり、自転車を押したりして感覚的な部分を伝えることができず、“この時右足を45度に曲げて……”などと、いちいち言語化しなくてはなりません。動画を使って説明することはできるかもしれませんが、これは非常に難しい」(同)

 実際、今春入社した新入社員からは不安の声が聞こえてくる。

 さるメガバンクに入行した新人銀行員が言う。

「銀行に入ってまず、研修で教えられるのは融資先の審査の方法です。本来は社外秘のマニュアルで一気に覚えるのですが、データ流出防止のため、オンラインでその資料を共有できず、研修で学ぶことができませんでした。そのオンライン研修自体も人事部が突貫工事で作ったようで、経済とは何かといった大学の経済学部1年生が授業で学ぶみたいな薄い内容となっていました」

 大手人材派遣会社の中堅社員も職場の雰囲気についてこう漏らすのだ。

「新入社員もテレワークなので、会社で新人をあまり見かけません。なので、新人がどうやって営業をしているのか全く分からない。会議の場で若手育成について話題になっても、若手の働きぶりが分からないので、育成方法も良い案が浮かばないのです」

 さらにこんな懸念もある、と、この社員が続ける。

「会社で会うことがほとんどないので、若手や新人が何に悩んでいるのかも気づけない。1年目や2年目の若い社員が突然辞めてしまうと、テレワークじゃなければ、相談に乗ったり、ケアできたのではないかと……」

 不安になる新人・若手と彼らのことを気に病む中堅・ベテラン社員。

単純接触効果

 また、来年入社となる2021年3月卒業の新卒採用では例年より内定辞退率が高い会社もあると、人事ジャーナリストの溝上憲文氏が指摘する。

「今年は五輪が行われる予定だったので採用活動を前倒しする企業も多かった。ただ、夏にかけて行われているオンライン面接では会社の雰囲気が見えてこず、学生が“本当にこの会社に入って大丈夫なのか”と不安を覚えてしまうようです。コロナ流行前に早期に内定した学生も、入社前に会社に行く機会がありません」

 こうした現象の背景について先の曽和氏は、

「テレワークでは社員同士の親近感と信頼を築きにくくなります。人は接触回数が増えると相手に対して好ましい印象を持ちます。例えば、あるヒット曲について最初は“微妙だな”と思っていても繰り返し聞いているうち“やっぱりいい曲だ”と思うようになる。単純接触効果と言いますが、人間関係でも同様のことが言えます」

 オンラインでミーティングを頻繁に行えばいいというわけではなく、

「やはりリアルでの接触の方が親近感は生まれやすいし、メンタル面のケアなどサポートだってしやすい。すると、会社に一体感が生まれ、会社を誇りに思う気持ちも生まれてくるでしょう。これは組織にとって非常に大きな財産です。それがなければ、会社に愛着のない優秀な人材がより条件の良い会社へ流出してしまいます」(同)

「週刊新潮」2020年8月6日号 掲載