第88話:ポルシェ930で夜に、長距離を。
もくじ
ー とりあえず、西へ。
ー 回転計より燃料計
ー あれ‥‥? うん、あれ‥‥?
とりあえず、西へ。
手に入れたばかりの930型ポルシェ911で
どこか遠くに行ってみたいと思っていた。
相棒は、もちろんI君だ。1台で移動した。
僕たちは仕事終わりの22時に集合して、
特に目的があったわけでもなかったから、
とりあえず西のほうまで行くことにした。
時間だけがたっぷりとある男っぽい夜だ。
起き抜けのエンジン音は思った以上に大きい。
シャカイチ号(996型の911)よりも
2.5倍くらいの音量に感じると言っていい。
東名高速を名古屋へ、ひたすら走りつづける。
1日を余分に楽しんでいるような得した気分。
時間に縛られぬ、とても自由な気持ちになる。
I君の反応は意外だった。(993と比べると)
「インパネとかシフトノブが軽トラみたい」
というセリフが、最初のひとことであった。
あらためて見ると、たしかに簡素だなぁ。
いっぽうで、ふかふかのシートについては、
クルマを乗り降りするたびに満足げだった。
そう、僕はかなりクルマを乗り降りした。
PAで夜ごはんを食べるために、
PAで缶コーヒーを買うために、
PAでトイレ休憩、といった具合いに。
「めちゃくちゃ休んでんじゃん!」
I君が指摘するまで、
僕は、まったくもって無意識だったけれど、
言われてみればまったくそのとおりである。
考えてみれば、I君がボクスターに、
そして僕が996にかつて乗っていたころは、
どこへ行くにもノンストップで超特急だった。
はたと気づく。
「このクルマ、つかれるぞ?」
気がつけば肩の筋が硬くなっているし、
左の太ももも張っている。手のひらにも、
小刻みな振動が伝わってくるから、
時に手首をグリグリと回してやらないと
少しずつ感覚がなくなっている気がする。
40年たっても最高のグランドツアラーだ
なんて言えるとよいのかもしれないけれど
実際には、硬派さも明確に感じたのだった。
給油した際にも驚いたことがあった。
回転計よりガソリン計
給油した際にも驚いたことがあった。
スタンドの店員さんの給油時間が長い。
店員さんが、疑問の表情を浮かべながら
車体下を覗いたのにはさすがに笑うしかい。
いつまでたっても満タンにならないから、
ガソリンが漏れているかと思ったらしい。
そのとおりと言えば、そのとおりなのだ。
なんと930型911(SC)には70ℓも入る。
言うまでもなく、金額にも驚くばかり。
レシートには1万2118円と記されていた。
これをみてI君は不敵な笑みとともにいった。
「空冷ポルシェ、ガソリン地獄へようこそ」
さらにこう付け加える。
「お前の言葉を借りると
『軽やかに舞う回転計の針』に、
うっとりしてたかもしれないけど、
今日からは燃料計の残量に釘付けやで」
なかなかしびれることを言うではないか。
でも、まさにそのとおりで、給油以降、
燃料計をみる頻度が増したのだった。
ここからはI君と運転を代わった。
987/981型のボクスターこそMTだったが
993型のカレラは空冷×ティプトロニック。
だから彼はとても興味があったのだという。
「こんなにエンジンが軽々と回るのか!」
というのが一貫した感想だった。
どうやら3.0ℓのSCのエンジンのほうが、
軽くエンジンが回るのだそうだ。
MTだから、完全に自分の裁量で
エンジンを回せることにも喜んでいた。
「次に空冷のポルシェを買うことがあれば
おれもぜったいMTにするなぁ。」
ともいっていた。
と、ここまでは、平和な休日ドライブ話。
どうして平和に終わらないんだろう‥‥。
問題が生じたのだった。
あれ‥‥? うん、あれ‥‥?
僕とI君の共通の意見だから
間違いないと思うのだけど、
930型911は、ドアパネルのヒンジ
(つまり膝のあたり)から風が入ってくる。
一般道を常識的な速度で走っていると、
もちろん気になることはないのだけれど
高速道路を100km/h前後で走っていると
冷たい風がスースーと入ってくるのである。
いまのクルマより簡素だから?
密閉度が高いこともあってか
車内が冷えたら冷えたで
律儀にその寒さは維持され
(いつも空気が澄んでいるかんじ)
気温が低いと、冷蔵庫のなかみたいになる。
気がついたら僕とI君の口から、
会話するたびに白い蒸気がでていたのだった。
ちなみに930型911はヒーターが抜群に効く。
シートのあいだのロータリースイッチを回し、
そばの赤いレバーが上がってくるのを待つ。
‥‥。
‥‥。
あれ‥‥?
うん、あれ‥‥?
いつまでたっても上がってこないのだ。
「大丈夫! ほら、俺の実家さぁ、
寒くてもヒーターあまりつけないのよ」
という謎のフォローを
引きつった顔でするI君は
なかなか素敵だったなぁ、と、
いま思えば冷静に振り返られるけれど、
当の僕は、「さっそく故障?」とパニック。
ヒーターの修理って高くつくのかな‥‥。
などと暗い気持ちになりながら、
ぼくは膝にブランケット、コートを着込み
マスクをし(顔があたたかくなる)、
I君は手袋をしてマフラーを巻いて
腕や足をさすって摩擦熱をありがたがりながら
あたたかいラーメン屋さんを探したのだった。
※今回も最後までご覧になってくださり、
ありがとうございます。
いきなりキマシタね‥‥。
書きながらさらにブルーです。
あした主治医の「シンリュウ」に行きます。
今後とも、inquiry@autocar-japan.comまで、
皆さまの声をお聞かせください。
もちろん、なんでもないメールだって
お待ちしております。
