別に、結婚だけが女の幸せではない。

自ら望んで独身を貫くのなら、何も問題はない。

しかし実際には「結婚したいのに、結婚できない」と嘆く女たちが数多く存在し、彼女たちは今日も、東京の熾烈な婚活市場で戦っているのである。

これまで、自分にも相手にも厳しい“ストイックな36歳独身女”や、アイドルに恋する女、3人の男をキープする37歳などを紹介した。

さて、今週は…?




【今週の結婚できない女】

名前:梨華
年齢:35歳
職業:WEB広告会社勤務
住居:目黒


綺麗なのに、残念な女


「…20代の頃は、六本木ヒルズに住んでたんですけどね」

午後1時、広尾の『ボンダイカフェ』。

慣れた様子でソファにくつろぐ梨華は、こちらからは何も聞いていないのに、あえてそう付け加えた。

彼女はこの近くにオフィスを構える、WEB系の広告会社で働いているらしい。

しかしほぼノーメイクに近い薄化粧に、谷間がくっきり見えるほど胸元の開いたニットワンピース、表に“BALEN”と大きくデザインされたクラッチバッグだけを携えた彼女は、とても仕事中には見えない。

梨華は大学在学中からグラビアタレントとして活動していたそうで(知る人ぞ知る、というレベルではあるが)、なるほど、体の線は細いのに随分とグラマラスな体型をしている。

顔の方も…美人かそうでないかと言えば、美人だ。

目鼻立ちのすべてが大きく華やかで、男好きしそうな色気がある。

若い頃は、それは引く手数多だったろうと容易に想像がついた。

…今、あえて“若い頃は”と付け加えてしまったが、それは彼女が、先日35歳の誕生日を迎えたことだけが理由ではない。

歳を重ねても素敵な女性は数多くいるし、むしろ若い頃より魅力を増す女だっている。

しかし梨華に関しては、そういう類の女ではなかった。

どうしても拭えない、そこはかとない“場末感”が漂ってしまっているのだ。


梨華に漂う、そこはかとない“場末感”の正体とは?


甘い蜜を吸っていた過去


実は梨華は、MARCHの上位に属する大学を卒業している。

しかし卒業後すぐに就職をしなかったのは、グラビアの仕事が楽しかったから。

さすがにずっとそれで生きていけるとは思っていなかったが、いざとなれば誰かしらが助けてくれるというアテも自信もあった。

梨華の20代前半といえば、いわゆる“ザ・港区女子”。当時巷で名を馳せていた若手経営者が(なぜか)用意してくれた六本木の高級マンションで暮らし、バブリーなおじさまたちに囲まれて贅沢を堪能した。

そんな生活をしていたものだから、不自然なほどに髪を黒く染め、地味なスーツを着て企業をまわる就職活動なんて真っ平御免だったのだ。

梨華には、今でも続いている大学時代の友人が二人だけいる。早希と歩美だ。

どちらも名の知れた大手企業に就職していったが、華やかな広報部に憧れてラグジュアリーブランドに入社したはずの早希は渋谷のデパートで売り子をさせられていたし、ファッション誌がやりたくて出版社に入社した歩美は、まるで関心のないゴルフ雑誌の担当に回されていた。

しかし一方で梨華は、20代半ばとなりグラビアの仕事が下火になってからも、当時付き合っていた某アパレルメーカーの社長を通じて人気ファッション誌のライター業をゲットすることに成功。

“何ができるか”なんて、関係ない。

ここ東京では“誰と繋がっているか”がモノを言うのだ。

お金欲しさに時々銀座で働いていたこともあって、梨華は男好きのするルックスだけでなく、相手を気分良くさせる話術にも長けていた。

「梨華ちゃんみたいないい女は、汗水垂らして働く必要なんかない」
「女の子は見た目と愛嬌。どっちも持ってる梨華ちゃんは最強だよ」

もちろん梨華も馬鹿ではないから、その発言の無責任さに気づかなかった訳ではない。

そんな風に梨華を賞賛し、甘やかす男はほとんどが既婚者。梨華と楽しい夜を過ごす気はあっても、人生を共にする気はさらさらない。

27歳を過ぎ結婚適齢期と呼ばれる時期に差し掛かった彼女は、そのことにもちろん気づいてはいた。

しかしすでに身に染み付いてしまった贅沢癖は、隠しても隠しきれない。

美貌に惹かれて近づいてくる同世代のサラリーマンもいるにはいたが、最初は梨華の華やかさを賞賛していたくせに、話をしていくうちに怖気付き敬遠するようになる。

そんな男たちを「情けない」と一蹴しつつ、梨華としても焦りを感じていた。

しかし下手に女としての戦闘能力が高かったことが、梨華の判断を鈍らせてしまったのだ。

-私はその辺の女とは違うんだから。妥協する必要なんかない。

“見た目”と“ノリ”でモテてきた自信を捨てられないまま、梨華は定職にもつかず、さらには独身のまま30代を迎えたのである。


そしてついに30代を迎えた梨華。久しぶりに旧友と再会し、自分との差に愕然としてしまう


ところが30代に突入し、梨華はいよいよ焦り始めた。

(恥ずかしながら)親から援助を受けたり、ライターの仕事やSNSでのPR案件で収入を得てはいるが、それだけでは目黒に借りたマンションの家賃を払うだけで精一杯。

贅沢をしたければ男に頼る他ないのだが、若い頃と比べて格段にオファーが減った。

それだけでなく、例えば外資金融マンが集まるパーティーなどに顔を出し自慢のボディラインを惜しげもなく披露しても、うまくいって一夜限りの関係で終わり。

それ以上に発展しないのだ。若い頃なら、確実に本命の座をゲットできていたのに…。

そんなある日、梨華にとって転機となる出来事が起きた。




一昨年の夏のこと。

久しぶりに大学時代の仲間、梨華・早希・歩美の3人で集まろうという話になった。

SNSで交流はあるものの、梨華以外の二人はあまりプライベートを明かさないタイプであるため、近況についてはほとんど知らない。

とはいえ未だ結婚の報告は受けていなかったから、全員が独身であることは間違いなかった。二人とも昔から男勝りだったし、バリバリ働くうちに婚期を逃したのだろう。

婚期に関しては梨華も別の理由で逃しているため、人のことを言えた立場ではないのだが…。

しかし、そんな昔のイメージを抱いたまま『フレンチキッチン』で二人と再会をしたその日…梨華は自らの人生を猛烈に反省することとなる。


30代で逆転する、女の立場


「梨華!めちゃくちゃ久しぶりだね!」

テラス席で手を振る二人が妙に眩しく映ったのは、夏の日差しのせい…だけだったろうか。

早希も歩美も、はっきり言って容姿は10人並だ。

しかしその顔から、佇まいから、私生活が充実し潤っていることがわかる。身につけているものすべてが上質で品があるし、何よりも二人の表情には“真っ当な人生を生きてきた”自信が漲っているのだ。

それは、恵まれた容姿と性的魅力に甘えて生きてきた梨華にはまるで備わっていない、内側から滲み出る美しさだった。

「実は…結婚することにしたの」

積もりに積もったお互いの近況アップデートを一通り終えた後、最初に口を割ったのは早希だった。

聞けばラグジュアリーブランドで働く彼女は現在、主にVIP客のカスタマーリレーションを担当しているらしいのだが、相手はなんと得意客の紹介で出会った、将来を有望視されている若手経営者だというのだ。

「君みたいにしっかりした女性なら、安心して紹介できる」

紹介者であるVIP客からは、そんな風に言われたらしい。

「…実は私も結婚を考えてる」

早希の話でひとしきり盛り上がったのち、今度は歩美も遠慮がちに口を開いた。

出版社に入社した歩美の方も、現在はついに念願だったファッション誌のデスクとして活躍しているらしい。

そして仕事関係で出会った広告代理店の年下男と結婚を前提に同棲中だというのだ。

二人からの報告に、梨華はどうにか「おめでとう!」と笑顔を振りまいたが、その心はズタズタに切り裂かれていた。

結婚すること自体が、妬ましいのではない。

それよりも、若い頃はずっと多くを手にしていたはずの自分と彼女たちの関係が完全に逆転してしまっていたことがショックだった。

既に若さをアピールできる歳でもなければ、誇れる仕事も、お金の余裕も、心から愛してくれる男もいない。

自分の置かれた立場の惨めさに気付いた梨華は、この時にようやく、自分を変える覚悟を決めた。


33歳でようやく何もない自分に気づいた梨華。ここから人生を巻き返すことはできるのか?



早希にも歩美にも、他の誰から与えられたのでもない、自らの手で掴み取った肩書きがある。積み重ねてきた経験と確固たる自信が、彼女たちを内面から輝かせている。

-私も真剣に打ち込める仕事をして、ちゃんと稼ごう…!

そう誓ってはみたものの、一度も正社員として働いたことのない女の就職が、たやすく決まるわけがない。

半年ほど面接に落ち続けたのち、結局は顔の広さを存分に活用して、どうにか今のWEB広告会社で雇ってもらえることになったのだった。




30代の顔は、女の生き様


ココ・シャネルの名言に、こんな言葉がある。

-20歳の顔は自然から授かったもの。30歳の顔は自分の生き様。だけど50歳の顔にはあなたの価値が滲み出る-

いくらルックスに恵まれた女でも、外見を武器にできるのは20代までだ。

30代、40代になっても輝いていたいなら、20代のうちに若さと美貌以外の魅力を育てておかなければならない。

「若い頃って、気づかないんですよね。いや、正確には気づいていても、下手にモテると自分だけは大丈夫って思っちゃうのかな。

…だけどモテることと愛されることは、まったく別だから。女はいくらモテたって、骨の髄まで愛されなければ幸せは掴めないんですよ」

すべてを語り終えた後で、梨華はそんな風に自分を振り返った。

「若い頃に努力を惜しんだ女は、Over35で必ずそのツケを背負うことになる。人生って長い目で見れば平等なんだってしみじみ思います」

少しずつ自分の足で歩み始めた梨華ではあるが、若さと美貌が武器にならない35歳という年齢で、キャリアも収入もまだまだ不十分。

「年々、自分に自信がなくなる」と語る彼女が、漂う場末感を払拭し、内面から輝きを放つ女性になるには…もう少し時間がかかりそうだ。

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