結果を出しているにもかかわらず左遷されたら
■上司のご機嫌取りなど真っ平だ
上司は部下を選べるが、部下は上司を選べないのはサラリーマンの宿命だ。上司とウマが合わなくても、目の前の仕事を真面目に一生懸命にやらなければいけない。
そうして結果を上げていても、左遷される場合もある。私はその経験者の一人だ。
41歳のときに西友人事部の教育担当課長から、規模も小さい子会社の良品計画に飛ばされた。当時の西友は総合スーパーのビジネスモデルが崩れかかり、多角化と称して子会社への出向・転籍が相次いでいた。
本体の主流派から外れていたことが、私が飛ばされた原因だったと思う。私はもともと群れるのが好きではなかった。上司に飲みに行くぞと誘われるのも、皆でワーッと出かけるのも嫌いではなかったが、それが上司のご機嫌取りの飲み会だと真っ平ご免というタイプだった。
サラリーマンには、この人は将来上にいきそうだと思った上司についてご機嫌をうかがったり、廊下トンビをする生き方もあるが、私はそういう生き方ができない人間なのだ。
西友の業績が低迷し、役員が交代すると、周りを取り巻いていた部長たちが次々と失脚していった。特定の上司を選んでついていくと、仕事とはまったく関係のないところに労力を割かなければいけなくなる。非常にくだらないことだ。そのうえ、失脚のリスクもある。
左遷されたときに人間は大きく2つのタイプに分かれる。ショックはあっても、真面目に一生懸命にがんばるタイプと、腐っていくタイプだ。腐っていく人は、自分の置かれた環境を受け入れられず、斜に構えて仕事に全力を尽くさない。意外と、IQが高く優秀と言われる人ほどこうなりやすい。実際にそういう先輩も多かったが、ほとんどが復活することなく消えていった。
そんな人たちをたくさん見てきたので、良品計画に来てからは「腐らずに、与えられたミッションを着実にこなしていく」ことを心がけた。
出向ではなく、自ら転籍を選択し、退路を断つことで自分なりにベストを尽くしていろんなことをやってきたと思っている。
私はいい言葉を見つけるたびに、手帳に書きとめることにしている。その一つが、「焦らず、腐らず、奢らず」という言葉だ。
たとえば同期の仲間が次々に課長になれば、どうしても焦る。しかし、焦ったところでどうしようもない。左遷や逆境に陥ったときには腐らないことが大事だ。
そして一番難しいのが奢らずだ。とくに仕事がうまくいき、出世の階段を上っていくと、だんだん我を忘れ、自慢話をするようになる。ところが、上から目線で話をする人に限って人気がなくなっていくもの。常に自分で警鐘を鳴らすようにしなければならない。
左遷されても「焦らず、腐らず、奢らず」の精神で真面目に仕事に取り組んで実績を挙げていれば、必ず見てくれている人がいるものだ。
私は学生運動に熱中し、逮捕されて教師の道を諦めざるをえなかったという苦い挫折を味わった。その後西友に入り、良品計画でゼロからのスタートを経験するはめになり、今に至っている。
人間万事塞翁が馬。将来どうなるかなんて誰にもわからないが、たった一つ、言えることがあるとすれば、人生に無駄な経験など一つもないということだ。会社が危機的状況に陥ることもあれば、自身も病気やケガに見舞われることもある。上司と折り合いが悪くなって左遷させられることも、珍しいことではない。そういう修羅場のときこそ、どのようにして乗り切ろうかと一生懸命に考えるものだ。そうして人は成長する。
私の感覚では、大きな挫折を経験することなく、大事に育てられてエリートコースを上がってきた経営者はすぐにダメになってしまう。
逆境でも腐らずに結果を出してきた経験が、物事の本質を見抜く力になると信じている。
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松井忠三(まつい・ただみつ)
1949年、静岡県生まれ。73年、東京教育大学(現・筑波大学)体育学部卒業後、西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。2001年社長に就任。赤字状態の組織を改革し、業績のV字回復に尽力。
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(溝上憲文=構成 徳山喜行=撮影)
