「Music Hack Day Tokyo」:日本初の音楽ハッカソン、いよいよ迫る

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今週末(2月23日)、150人のハッカーたちが原宿に集い、24時間で「いちばんクールな音楽ハック」を競って開発する。2009年にロンドンで始まり、世界15都市で開催されている人気のハッカソンが、いよいよ日本に初上陸!

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Music Hack Dayに150人のハッカーが集う

東京マラソンのある2月23日。150人のハッカーたちが24時間、全力疾走する。といっても、実際に走るのではない。ハッキングのマラソン、「ハッカソン」が原宿「The Terminal」で開かれるのだ。ゴールは「いちばんクールな音楽ハック」。日本初のMusic Hack Dayがいよいよ迫ってきた。

日本のハッカーたちは、想像以上にアツい。このイヴェントの告知は控えめだったにも関わらず、募集を開始すると、あっという間に定員の150名が埋まったという。ほとんどがコーディングを仕事にしているプロたち。そして学生だ。

音楽の世界では、ふたつの才能が求められるようになった。ひとつはもちろん、音楽コンテンツを創る才能。そしていま、新たに必要となったのは、クールな音楽サーヴィスを創る才能だ。プログラマーという人種はたいてい学生時代、音楽関係かゲーム関係のサーヴィスを構想するという。その彼らが、ノートパソコンを片手にThe Terminalへ集う。誰がいちばんクリエィティヴなハッカーか、競い合うのだ。

Music Hack Dayは、2009年のロンドンで始まった。音楽共有で有名なSoundCloudに勤めるデイブ・ヘインズがある日、思った。Yahoo! MusicやLast.fm、それぞれがハッカソンを開いている。個別じゃなくて、みんなでハッカソンをやったら、もっと楽しいんじゃないか。閃いたヘインズは、友人のジェイムズ・ダーリングに相談した。彼はアプリ制作を生業とするフリーランスのコーダーで、ガヴァメント・ハックのイヴェントを運営していた。

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第1回はイギリスの有力紙ガーディアンの建屋で開催された。そして昨年は、ニューヨーク、ヘルシンキ、ウィーン、バルセロナほか、世界15都市で開催される人気のハッカソンになった。


音楽をハックした過去の注目作品

Drinkify

「ドリンキファイ」と読む。あなたがいま、聴いている音楽にぴったりのカクテルを紹介してくれる。Adeleにぴったりなカクテルは、ウォッカ、ココナッツ・ミルク、はちみつをシェイクして、ハイボール・グラスに注ぐと出来上がるそうだ。2011年、ボストンで発表された。The Echo NestのAPIと、Last.fmのAPIを駆使した音楽ハックだ。

Hipster Robot

ハードを使うのも可だ。こちらは、ロボット・アームを使った作品。Spotifyで、あまりに有名な曲を聞いていると、「ヒップじゃないぞ!」と、ロボット・アームがスペース・キーを押してくる。再生を止めてしまうのだ。2013年、ロンドン大会で発表された。SpotifyのAPIを使用している。

Boil The Frog

こいつは面白い。例えば「レッド・ツェッペリン」と「きゃりー・ぱみゅぱみゅ」と入力する。するとツェッペリンの音楽から始まって、パープル、ラッシュ、イエス、ジェネシス、ピーター・ガブリエル、ケイト・ブッシュ、トリ・アモス、ベス・オートン、エミリアナ・トリーニ、レディ&バード、Miniとつなぎ、最後にきゃりぱみゅの曲で終わるプレイリストができあがる。2012年、ニューヨーク大会。SpotifyとThe Echo NestのAPIを使用した作品だ。Spotifyが日本に上陸したら、初音ミクから北島三郎につながるプレイリストもそのうち可能になりそうだ。

今回の東京大会では、どんなクレイジーなアイデアが出てくるのか。楽しみだ。



Barcelona Music Hack Day 2013” BY mariana (CC:BY)

Music Hack Dayの1日

Music Hack Dayの1日は、まずAPIの紹介から始まる。上陸間近と噂も流れる音楽配信のSpotify。440ものアプリに楽曲レコメンデーション・エンジンを提供しているThe Echo Nest。先日、最新の楽曲レコメンデーション・エンジンを日本で公開したGracenote。この3社は本イヴェントに協賛して、最新のAPIを提供する。Gracenoteの新しいAPIを触るのは、東京の参加者が世界初となる。それだけでなく、各社のエンジニアも実際の競争者として参戦するという気合の入れようだ。もちろん、APIを説明してくれるスタッフも各社から参加するので、心配いらない。

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The Echo NestのAPIを国内で初めて駆使した、エイベックス・グループのmusic Chefも協賛についた。実際にどんなふうに活用して、国産ミュージック・ディスカヴァリー・サーヴィスを創ったか、会場で説明してくれる。

ほかに、歌とシンクロする歌詞検索のmusiXmatch。クラブミュージック専門の音楽配信Wasabeat。アーティストとイヴェント運営者のマッチングサイト、getstage。世界のメールの2%を配信しているSendGrid。家電産業からはフィリップスエレクトロニクスジャパンと、パイオニア。以上が本イヴェントを協賛している。

APIは上記SpotifyやGracenote以外を使っても構わない。音声共有SoundCloudやソーシャル・ラジオLast.fmのAPIも、本イヴェントではよく使用されている。ハッカソンでは定番のFacebookやTwitterのAPIをマッシュアップするのもいいだろう。「クールな音楽ハック」になっていれば、なんだって評価対象だ。

お昼をみんなで食べてから、ハッキング開始だ。制限時間は24時間。仲間を募ってチームを組むのも自由だ。夜には差し入れが用意されている。イギリスではビールが振る舞われたが、我が国でビールを飲みながら徹夜をする人は少なそうなので、今回は見送ったという。かわりにRed Bullがドリンクを提供してくれる。もちろん徹夜の強制ではないのでご安心を。仮眠を取るのも、自宅で寝て帰って来るのも可だ。

前後するが、開催日の前日にはレセプション・パーティーがある。ANOTHER TRIP所属アーティスト、Silent PoetsがゲストDJとして出演予定だ。こちらはアルコールも出る。

翌23日、審査が始まる。プレゼンの持ち時間は各者、約5分。審査員は、本誌編集長の若林恵。All Digital Musicを運営する人気ブロガーのジェイ・コウガミ。そして連載『未来は音楽が連れてくる』の著者で、本原稿の共同筆者である榎本幹朗となる。「楽しく真剣に」、の要領で選定させていただくつもりだ。



ロックアーティストのテイラー・ハンソン(中央)と話している、The Echonestのエヴァンジェリストのポール・ラメーライ(右) “Taylor Hanson at MIDEM Hack Day” BY Thomas Bonte (CC:BY)

経験者にインタヴュー

今回、東京での開催の呼びかけ人となったThe Echo Nestからは、エヴァンジェリストのポール・ラメーライが参戦する。これまでも各都市で大会に参戦してきた。インタヴューが取れたので抜粋しておこう。

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──あなたの経歴を教えて下さい。

1981年からソフトウェア・エンジニアをやっています。サン・マイクロシステムズ社や研究所で楽曲レコメンデーションを専門にやって来ました。

──会場でチームをつくる人たちもいるそうです。

ほとんどがその場でチームを組むようです。どんなことをやりたいか、お互いどんな技術があるのかを尋ねあって、チームができあがります。

──リクルートの場になることもあるそうですが?

そうですね。協賛企業にとっては、非常に有益な場所になってます。実際、弊社は何人かスカウトしました。

──定番のAPIはSpotifyなどのほかに何がありますか?

MoodVenueのようなチケッティング会社が提供しているAPIですね。

──音楽と一見、関係なさそうなAPIを使うのも手ですか?

その例ですと、Soundphoneというのがありました。クラウド通信をやってるTwilioのAPIを使っていました。SoundCloudのURLと、電話番号を入力すると電話がかかってきて、SoundCloudの音楽が電話で聴ける作品です。

──メジャーレーベルも参加することがあるそうですね。

実は、ユニバーサル・ミュージックがとても積極的に参加しています。こちらのページがそうですね。



DSC_1437” BY Thomas Bonte (CC:BY)

新たな才能が誕生する場に

Music Hack Day東京の実現で、音楽とITの才能が出会う場がひとつできあがった。

いまや、音楽とITは切って話せない関係にある。Spotify、SoundCloud、Pandora…。音楽を愛するエンジニアが創ったサーヴィスが、音楽産業の復活に大きく貢献しつつある。振り返ればAppleを創ったスティーブ・ジョブズも、Sonyを創った井深大、盛田昭夫も音楽好きのエンジニアからキャリアをスタートした。

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音楽は人と人を繋げることができる。テクノロジーも同じである。五線紙に音符を描くように、Music Hack Dayに集うハッカー達は、コードを描いて、新しい音楽体験を創造する。そして、人と人を繋げる新しい機会を作ってくれる。参加者はMusic Hack Dayをきっかけに、お互いどんなサーヴィスを創っているのか、そしてどんなサーヴィスを将来創りたいのか、語り合うだろう。

このイヴェントを機に、東京からすばらしい音楽プロジェクトが生まれることを願っている。

DSC_4449” BY Thomas Bonte (CC:BY)