【9割の大規模修繕が談合】業者に狙われる「マンション修繕金」の実態…「悪質な談合」を防ぐための「知られざる方法」とは
工事会社と設計コンサルの悪質すぎる「談合」
先日、公正取引委員会は、近々、マンションの大規模修繕工事にかかわる工事会社36社と設計コンサルタント(一級建築士事務所)2社に「談合をくり返した」として、独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定し、排除措置命令を出すと報じられた。
公取委は、昨春、関東圏の施工会社などに一斉立ち入り検査(ガサ入れ)をした。一年以上の調査を経て、いよいよ行政処分が下される。朝日新聞の6月12日付朝刊によると、工事会社への課徴金(罰金)は計約16億円に上るという。
約15年周期で実施される大規模修繕は、住民(区分所有者)が負担する「修繕積立金」で賄われる。その額は、数百戸から千戸規模の大型マンションなら10億円を優に超える。大規模修繕の市場規模は、矢野経済研究所の調査では2030年に1兆539億円となり、年々、拡大が見込まれている。
この修繕積立金が、住民の知らないところで奪われてきた。
じつは、業者間の談合と、それに伴うキックバック(手数料、情報提供料)で、工事費が不当に水増しされていることが問題化したのは、10年以上も前だった。
当初、大規模修繕の進行役である設計コンサルが、安い報酬で管理組合と契約する代わりに、談合グループの施工会社に工事を受注させ、多額のマージンを取る構図が糾弾された。
メディアの告発を受けて、国土交通省は、2017年1月27日に「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等……」という通知を出し、コンサルの〈不適切な工作(談合の誘導)〉に言及。悪質なコンサルタントへの注意を喚起した。
目標設定シートに「KB(キックバック)」の表記
しかし、その後も「談合・キックバック」が横行したため、公取委はマージンを差し出す側の施工会社に大がかりなガサ入れをし、今回の行政処分に至ったのである。
マンション問題を25年以上、取材してきた私は、「談合・キックバック」の具体的な手口や、悪質な業者の特徴、住民が構成する管理組合の「自衛」の方法などを、新著『マンション 狙われる修繕積立金 談合・なりすまし・外部管理者』にまとめ、このほど上梓した。
あなたのマンションは大丈夫だろうか。一連の取材でつかんだ事実をふり返り、騙されないための情報を提供したい。
私の手もとに修繕に携わる施工会社が社員に課した「目標設定シート」がある。独自に入手した内部資料だ。そこには「KB(キックバック)」という表記で、下請けの専門工事業者から吸い上げる裏金の目標が記されている。
〈玄関ドア交換工事の引き渡し(KB:1300千円5月末竣工、8月末入金)〉
〈フェンス交換工事(KB:500千円8月入金)〉
〈駐車場改修と屋上のトップコート(KB:300千円)〉
以上のように、細かくキックバックの目標額ーーつまりノルマが記されている。こうして末端の工事業者からマージンを取った施工会社は、設計コンサルタントの「誘導」で大規模修繕を受注すると、逆にコンサルや、その上の管理会社にキックバックをするのが常だった(詳しくは拙著『マンション 狙われる修繕積立金』で説明している)。
「狙われやすい」マンションの特徴とは
施工会社の元社員の改修技術者は、こう語る。
「業界全体を眺めて、大きな施工会社は工事費の5パーセント、小さな施工会社なら10パーセントを、『営業協力費』とか『情報提供料』の名目で、コンサルに上納していました。比率は力関係で決まりますが、住民と直に接する管理会社は修繕積立金の溜まり具合を知っているので、強気です。10パーセントのマージンを取っていました。大規模修繕の業界は、上から下までキックバックや中抜きをするから、工事費の2〜3割は水増しされているでしょう」
では、どんなマンションが「談合・リベート」の標的にされるのだろうか。施工会社の元社員の改修技術者はこう続ける。
「すべてのマンションがターゲットです。住民の管理組合活動への意識が低く、大規模修繕を業者に丸投げしているマンションはカモです。自分の知る限り、大規模修繕の9割ぐらいで談合が行われていました。完全にクリーンな工事会社はごく少数です」
クリーンな施工会社の見つけ方については、こう解説する。
「修繕大手の施工会社のなかにも、談合・キックバックへの決別宣言をしたカシワバラ・コーポレーションや、実直な施工で知られるヨコソーのように公取委のガサ入れを受けなかった会社もあります。行政処分を下される工事業者のリストと、ネット上の施工会社のランキングを見比べれば、どこがそうなのかわかります。先のことは不明ですが、現時点では、ガサ入れを受けなかった会社には、一定の信頼性が感じられますよね」(前出・施工会社の元社員の改修技術者)
談合の罠にハマるかどうかの「分かれ目」とは
住民側が談合を防ぐ手立てもある。改修技術者はこう語る。
「談合を封じる最良の方法は、管理組合の主導で、まっとうな施工会社を選ぶことに尽きます。業者選定の公募に応じてきた会社から工事内容に沿った正しい見積りをとり、しっかり選ぶ。そのためには大規模修繕のプロセスを理解し、進行役の設計コンサルの行動に目を光らせなくてはなりません。大規模修繕の手順を頭に入れておく必要があります」(同前)
一般に新築から約15年ごとに実施する大規模修繕は、次のようなプロセスをたどる。
まず、多くのマンションでは、大規模修繕に着工する2年ぐらい前に管理組合内に「修繕委員会」を立ち上げ、設計コンサルタントを選任して建物の劣化診断にとりかかる。修繕が必要な箇所を洗い出し、準備を進める。
そして着工の1年〜8ヵ月前に管理組合は施工会社の候補を募る。建築の業界紙などに募集広告を載せ、施工会社を公募する。
ここが、談合の罠にはまるかどうかの分かれ目だ。
従来の談合スキームでは、設計コンサルの誘導で、応募する施工会社に対し、「年商50億円以上」「営業実績20年以上」「資本金1億円以上」といった条件がつけられてきた。施工の信頼性、万が一工事で瑕疵を生じさせた場合の保証能力を担保するためだという。
一見、もっともらしいが、この条件づけで談合グループとそれ以外がふるい分けられる。
たとえば、「資本金1億円以上」のハードルを設けただけで、東京都内の修繕専門の施工会社は10社程度に絞られ、談合の母集団が形成される。その後、書類選考で候補は5社程度に減らされ、各社が工事見積書を提出し、談合・キックバックが実際に展開されている。
そもそも談合は、参加する会社が多いほど話がまとまらず、成立しにくい
つまり談合は、参加する会社が多いと話がまとまらず、成立しにくい。そこで外形的な条件で数を絞り込み、数社しか見積書を出せない状況に持ち込んで実行されているのだ。ならば、資本金などの外形的な条件を外し、見積書を出せる会社の数をもっと増やせば、談合は不可能になる。
談合・キックバックに一貫して反対し、警鐘を鳴らしてきた一級建築士の須藤桂一氏は、次のように述べる。
「見積もり参加に条件をつけず、資本金は少なくても、能力の高い工事業者が参入しやすい環境をつくることが急務です。談合・キックバックをはびこらせた古い利権構造を壊さなくては、業界は変わりません。工事の瑕疵が心配なら、大規模修繕後の10年保証を、元請けの施工会社と、下請けの専門工事業者、材料や建材のメーカーの三者連盟でつければいい。
元請けが潰れてもメーカーや専門工事業者が保証するので、安心できます。現に防水工事の分野では三者連盟が機能しています。とにかく、どんな理屈をつけようが、談合やキックバックは、お金を出す住民の知らないところでやっているのだから、人を騙していることに他ならない。これをあたり前だと感じていることが時代錯誤もはなはだしい」
はたして、マンションの修繕業界は、公取委の行政処分を機に談合・キックバックの古い殻を脱ぎ捨てられるだろうか。そこが試されている。
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