広陵野球部の中井哲之・元監督

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 昨年1月に広島・広陵高校硬式野球部で発生した集団暴行事件で、学校側が立ち上げた第三者委員会の調査報告書の「概要」が5月28日、公表された。事件が明るみに出た昨夏より、学校と中井哲之・野球部前監督の謝罪を求めてきた被害生徒A君の保護者は、この調査報告書をどう受け止めたのか。ノンフィクションライターの柳川悠二氏の取材に、A君の保護者が報告書公表後、初めてとなる心境を明かした。柳川氏が独自に入手した報告書の原文にある詳細とともにレポートする。【前後編の後編。前編から読む】

【写真】「反省してるなら便器なめろ」広陵高校側が昨年の問題発生後に被害者の両親に渡した報告書

 前編では第三者委員会(以下、第三者委)の報告書の概要が公表された5月28日、A君の父親に直接取材し、「広陵の飯盛豊理事長や中井哲之前監督らから謝罪があった」ことを報じた。また、学校のホームページにある報告書はあくまで概要であり、24ページに及ぶ報告書の中で、中井前監督から「2年生が対外試合なくなってもいいんか?」と言われたという被害者側の主張について《事実申告を抑制させる効果のある極めて不適切な発言であった》(報告書より。以下同)と認定されていたことも伝えた。

 報告書では、暴行をめぐる証言についても第三者委はA君の被害告白が一貫しており、加害者の説明が不自然であることを指摘。集団暴行や中井前監督の発言について、こう事実認定している。

《先輩らによる集団的な暴力行為が転校の発端となり、X元監督の発言を含む学校・野球部の不適切対応がこれを決定的に悪化させ、Aは寮生活及び在学継続が困難となって転校を余儀なくされたものと認定する》

 中井前監督は、学園の理事のひとりでもあり、副校長という立場でもあった(現在は参与に降格)。野球部は3学年をあわせて150人近い大所帯であり、学内におけるパワーバランスについても第三者委は次のように指摘している。

《広陵高校では、硬式野球部を中心とする学校づくりが長年にわたり行われ、同部は学校内で特別な地位を有していた。X元監督の発言力は強く、施設、予算、人的配置等においても、硬式野球部が特別に扱われる場面があった。/学校及び法人の経営陣は、硬式野球部の実績に依存する一方で、同部の指導体制、寮生活、上下関係、暴力・ハラスメント防止体制を十分に監督してこなかった。特定の競技実績を重視するあまり、生徒の安全と人権を守るための組織的統制が後景に退いたことは重大である》

 つまり、今回の事件の背景には、中井氏や野球部が学校内で特別視され、部内での暴力・ハラスメント行為が適切に処置されなかった構造的な問題があると指摘しているのだ。

「排除する必要がある」

 昨年10月の第三者委発足から今回の報告まで半年以上の時間を要したのは、在校生976名、野球部OB129名に対してアンケートを実施したこともある。返ってきた回答の中には、野球部内の暴力について、「実際に受けたことがある、あるいは見たことや聞いたことがあると回答するものが複数あった」と、名門野球部にはびこる体質であった可能性も指摘した。

実際の報告書には再発防止策の提言として、強い表現も含まれていた。「硬式野球部の指導体制の抜本的刷新」の項にある次の一文である。

《本件の背景には、X元監督を中心とした閉鎖的かつ同質的な指導体制がある。したがって、硬式野球部の再建に当たっては、X元監督が現場指導、部運営、人事、選手起用、寮運営その他の部活動運営に直接又は間接に関与することを排除する必要がある》

 野球部再建の道として、中井前監督を「排除する必要がある」と極めて強い言葉で刷新を求めているのである。そして報告書はこう締めくくられている。

《本件暴力行為は、それ自体が重大な人権侵害である。しかし、本件のより深刻な問題は、暴力行為が発生した後、学校及び野球部がAを十分に守ることができず、むしろAに沈黙を促すように受け止められる言動や、組織として一貫性を欠く対応を重ねたことである》

 5月に入って私は中井前監督が中学生球児の勧誘に奔走していることを、中学野球関係者の証言を得て記事にした。つまり、中井前監督は野球部復帰に向けて動き出したのではないか、と。学校側はそのことを問うた質問に回答しなかった。

事件の以前も、そして事件後も、学内で力を持った中井前監督をめぐる学校側の対応が問われているのであり、その結果、16歳の少年を深く傷つけてしまったことを肝に銘じるべきだろう。

(前編から読む)

■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)