2026年5月11日放送 ABSラジオ あさ採りワイド秋田便 救急医の中永士師明医師を迎えクマ被害の現状を聞く

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今月5日、秋田県内でも今年初めてクマによる人身被害が発生しました。

県がツキノワグマ出没警報を発令してクマへの注意が呼びかけるなか、県民は再び日常生活での警戒を強いられています。

「クマによる被害」とは、どのようなことなのか。

「命に別条はない」と報道される一文に込められた、被害者の現実とは。

救急現場で対応にあたっている医師に、クマによるけがの特徴を聞きながら、私たちはどのような対策が必要なのか、どうすれば自分を守ることができるのか、を考えます。

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一日のはじまりに新鮮な情報をお届けするラジオ番組『あさ採りワイド秋田便』(ABSラジオ・毎週月~金 午前7:30~10:50)。11日からクマ被害に関するキャンペーン企画を5回シリーズでお届けする。第1回目は「クマ外傷 クマージェンシー・メディシン」の著者である救急医の中永士師明医師をゲストに迎えて話を聞いた。

放送日:2026年5月11日(月)
ゲスト:秋田大学医学部附属病院 高度救命救急センター長 中永士師明さん
出演者:賀内隆弘アナウンサー(ABS秋田放送)
    川口大介記者(ABS秋田放送 報道ユニット)

★クマの攻撃がいかにすさまじいか…現実を知ってもらいたい

賀内:ゲストはクマに襲われた人の治療に当たる医師、秋田大学医学部附属病院高度救命救急センター長の中永士師明さんです。去年、治療例をまとめたクマ外傷クマエージェンシーメディシンが出版されましたけど、なぜ出版されたんでしょうか?

中永:三つほど理由がありまして、一つはやはり報道でよく耳にする「命に別条はない」という言葉が軽傷であるという誤解を与えかねないと思っています。実際には、その後の人生を大きく変えてしまうほどの重症例も多く、クマの攻撃がいかにすさまじいかという現実を知っていただきたいと思いました。 二つ目はですね、実際に受傷した場合にどのように対応すれば良いのかを、秋田大学のお医者だけではなくって、他の医療機関の医療従事者にも知っていただきたいと思いました。 さらに、一般の方には救急医療は進んできていて、早く病院を受診していただければ、このように回復することができるんだということを知っていただいて、安心してもらいたいというところの思いもありました。

川口:中永先生いらっしゃるということで、一つ用意してきたんですけど、大きい事故とか、緊急銃猟などがあった時は、行政機関に情報公開請求をして資料を集めてるんですけど、東成瀬村で(去年)10月に4人の方がけがをして、1人亡くなった時の事案でお聞きししたいと思って。 同じ場所で同じ時間帯に一度に4人がクマに襲われるっていうのは、この秋田で取材してから初めての事案だった。極めて珍しいケースで、開示された資料を見てると、その場で心肺停止だったりとか、残りの方も顔・頭部を中心にかなり重篤なけがをされていて、この時の救急体制、搬送体制ってどういうふうに構築されて実施したのか、教えてもらってもいいですか。

中永: 私もですね、今まで経験した中で4名同時というのは初めてですね。30年以上クマ外傷を見てきてるんですけども、それだけ特異な例。昨年ですけれども、体制としては結果的には万全の体制が取られてたと思います。というのは、4名の重症者がいるというところで、もう救急隊が第一にできるだけの医療搬送手段をかき集めてくださったんですね。 ドクターヘリもですけども、それを秋田県だけじゃなくて山形からも要請した。で、我々のドクターカーの要請もあって、それで救急隊も駆けつけたということで、それでいち早く患者さんを運べたというのが良かったと思います。

川口:災害が起きた時によくテントを張って、そこに集めて、色付きの札をつけるトリアージがありますけど。この時は現場判断を含め、病院とのやりとりしながら、患者さんをどこに運ぼうかっていう構築したんですか?

中永:そうですね。 救急隊の方がやっぱり随時運んでいくというふうな判断をしてくださったんですね。というのは、クマ外傷というのは特徴があって、とにかく救命するためには出血を止めて気道を確保する、その二つができれば助かるんですね。 普通の外傷の場合には内臓損傷とか起こるんですけども、そういったものがないんで、そのそういう選定して、とりあえずとにかく早く運んで救命するというのが大事。その場合にみんなを一旦集めてからゆっくり搬送というよりは、随時運んでいくというのが正解だったと思います。

賀内:医療体制は整いつつあるという印象なんですけれども、この治療例をまとめた本「クマ外傷 クマージェンシーメディシン」に沿って質問してまいりますけども、人がクマに襲われたニュースの中で、怪我をした部位のほとんどが顔や頭と報じられているんですけど、特定の場所になっているのはなぜでしょうか?

中永:クマは威嚇のために立ち上がるんですね。 それで手を振り回した時に、ちょうど人間の顔の位置に一致して、しかも鋭い爪もあるんで。しかも噛んだりもします。 そういったことで、余計顔のけががひどくなるということがあります。 さらに最近では、バーッと走ってきて、そのまま突出するんじゃなくて、最後飛び上がってやっぱり顔を狙ってきてます。 クマはやはり人間の急所が顔だということをわかっていると思います。

賀内:それで狙ってくるというわけですね。川口さんも取材されて。

川口: 年に何度か直後の現場を取材したりもするんですけど、例えば自宅の裏庭で襲われた時は、その地点から点々と血が続いていて、手洗場が血だらけになっていて、とにかく出血量がすごいっていうのが僕の中での印象なんですけど。これは部位の特徴なんですか?

中永:顔周辺はやはり血管が多いということで、出血が多くなりますし、普通の打撲だけでは内出血になるんですけども、やっぱり爪とかって鋭く引き裂かれますんで、それによる外出血で。出血しやすくなっている。

★クマに襲われた…救護のポイントは

賀内:では仮に熊に襲われてけがをした場合や、その場に居合わせて、誰かがそのけがをしたという場合の救護はどこがポイントでしょうか?

中永:やはり止血、血を止めるというのが大事になってきます。 その場合には、タオルとかシャツ、ビニール袋でも何でもいいんで、そういったものでとにかく押さえるということですね。それと気道の確保というのが重要になってきます。そのままだと、顔のけがをしますと、血が口の方に流れ込んでいくんですね。 口の方だけだったらいいんですけど、それが気管とか肺に入ってしまいます。そうすると窒息してしまう可能性がありますので、体を横向きにして肺の方に血液が流れ込まないようにするというのが大事になると思います。

賀内:さらに切断、耳とかですね。そういう例もあるわけですよね。

中永:実際には指とか鼻とか耳などが切断されたケースもありますので、そういった場合には慌てずに回収、ちゃんとビニール袋とかタオルにくるんで持ってきていただくのが大事になってくると思います。そうすることによって、病院でも徹底的にそういったものをきれいに洗いますんで。 洗って、縫合・接合できれば、回復も社会復帰も早まると思います。

賀内:ニュースでは「意識がある」「命に別状はない」というのを伝えますけれども、実際に病院に運ばれてきた方の状態はいかがなんでしょうか。

中永:命に別状はないと聞くと、なんとなく軽傷のイメージがあるとは思いますけれども、実際には目が見えなくなってしまった、いわゆる失明ですね。口が裂けて話せないというような方もおられるので、やはり救命はできても後遺症に苦しまれる場合もあります。

川口:私たち報道機関は、警察から第一報を「幹事社回し」というような表現をするんですけど、 過去一番驚いたクマ外傷での内容が「男性がクマに襲われて道路に鼻が落ちてる」というような内容の通報があって。 ご著書の中にその事例・治療について書かれていらっしゃるんですけども。搬送直後は救急センターで対応すると思いますが、その後の治療はいろんな科がどう関わって治療を進めていくものなんですか?

中永:最初に、救急隊員とか、家族の人とかでもいいと思いますけども、切断された部位を病院に持参してくれることが一番大事ですね。 ものがなければ先に進みませんので。冷静になって持ってきていただくと。その後、切断部位は徹底的に洗います。 きれいに洗った上で感染対策を行う。 そしてそこから緊急手術になりますので。そこからは形成外科、耳鼻科、口腔外科、整形外科とか、いろんな科が連携して、我々は多職種連携と言うんですけども、そういったことが重要になってきます。

川口:これまでクマに襲われてけがをした方、その後に何人か取材して、治療がかなり長期間にわたるなという印象を受けてます。ある方は「また明日もう一回手術するんですよ」とか、「まだしびれが残るんです」って言っていたり、クマ外傷のその後、後遺症について教えてもらっていいですか?

中永:我々も 受傷後1年後ぐらいをめどに調査したことあるんですけども、体の後遺症が8割。 体の後遺症ってどういうものかというと、顔面神経麻痺とか失明とか、匂いを感じなくなる嗅覚障害、ものがうまく食べ食べられない咀嚼障害とか。手足の傷の場合には神経痛。傷は治っているのにいつまでもずっと痛むという方もおられます。もう一つは精神的な後遺症ですね。 そちらも大体8割ぐらいです。 せん妄といって、興奮してしまったりとか、フラッシュバックが起こったり、ドキドキするとか、そういった(襲われた)場所に近づけなくなってしまったとか。重症の方だったら PTSD(心的外傷後ストレス障害) というような状態になる方もおられます。

賀内:まさに災害に遭ったのと同じわけですよね。

川口:その精神的な話、先生からいただきましたけど、ご本人だけじゃなくて、その場に居合わせた家族とか、けがの対応に当たった家族の方とかも、非常にその精神的なショックを受けてるっていうのを例として見てるんですけど、実際そういうのもあるんですよね。

中永:ありますね。 最初にお話ししたように、血液、血が結構流れたとこを見てしまいますので、患者さんの傷の状態なんかも目撃してしまうと、やはり頭に残ったりとかして、結構な精神的なダメージは残りますね。

川口:報道の数字以上にご家族も含めて、深刻な問題だと捉えていいですよね。

中永:実際に家族もですし、そういうニュースを耳にすることによっても、いろんな人が散歩に行けなくなったりとか、畑が怖いとか、そういったことになりますね。

★クマに遭遇 攻撃から身を守るには

賀内:そうすると外出も控えるということにもなってくるわけですよね。県の自然保護課では、守る時の姿勢、うつ伏せに丸まって、手を首の後ろに回す防御姿勢を推奨していますけども、けがをした人を実際にご覧になっている研究者としてはどのようにお考えでしょうか。

中永:そういう姿勢を取ることによって、顔の外傷を守れますので、有効だという印象があります。ただ、本当にきっちり防御姿勢を取れるかというと、そういった方は少なくって、できるだけ普段から練習してもらって、防御姿勢を取るコツを学んでいただくのが大事かなと思います。

賀内:防御姿勢のこつ。これがあるんだそうですね。

中永:我々はダンゴムシって言うんですけどね、小さくダンゴムシのような姿勢を取ってもらうのがいいかなと思ってて。 その時にただ小さくなるんじゃなくて、少し足の膝を開くんですね。そうするとクマは、横からひっくり返そうとして、で、また顔を狙ってきますから、転がされないように足を開く。 で、肘も地面につける。四点でつくと安定性も増して転がされなくなるんで、そういうふうにしてもらうのがいいと思います。

賀内:うつぶせになってもひっくり返そうとするわけですね。

中永:そうなんですね。横からゴロッと転がして、それでさらにまた顔を狙ってきますんで。

賀内:やっぱり顔が弱点だということをクマは知ってる。

中永:わかってると思います。

川口:けが人の(数が)全国一位が続いていて、それを治療してることの知見が積み重なっていて、秋田から全国にいま危機感が拡大してる中で伝えていける、共有できる立場にあるんですかね?

中永:幸か不幸か、症例数はもう全国一多いですので、秋田県は。そういった知見は県の内外で講演させていただいてます。 で、医療従事者だけじゃなくて、一般の方にも披露させてもらってますし、そういった目的で「クマ外傷」という本も作らせてもらってます。

賀内:こういった正しい知識、それを広げていくということが、これから一番大事なことになっていると思うんですけども、最後に医師のお立場からクマへの備えを改めてお願いできますか。

中永:クマに出くわさないのが一番なんですけども、なかなかそうはいかない現状にあると思います。その場合にもし出会ったらですね、防御姿勢でしっかり顔を守っていただく。 で、万が一けがをしたら、気道確保と止血を頭の片隅に置いて、すぐに病院を受診していただきたいと思います。「クマ外傷2」も出版予定ですので、よろしければそちらにも目をとおしていただければと思います。

賀内:どんな内容になるんでしょう。

中永:前回は医師の対応を中心に書いてたんですけども、今回は救命士、看護師の立場、理学療法士、いろんな職種からどういうふうにクマ外傷に対応しているかということも入れてます。

賀内:治療にだいぶ月日というかかかるというんですけど、そうするとその後リハビリとかそういうことにも目が向けてくるわけですね。

中永:そういうことですね。

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『あさ採りワイド秋田便』は午前7:30~10:50、ABSラジオ(FM90.1MHz、秋田936kHz、大館・本荘1557kHz)で放送中。

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