(※写真はイメージです/PIXTA)

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総務省「家計調査(2025年平均)」によると、高齢者無職世帯(二人以上世帯)の教養娯楽費は月額平均で約2万5,000円にとどまります。上場企業に勤めていた71歳のトモカズさん(仮名/71歳)のゴルフ関連費「月額12万円」は、平均的な世帯の約5倍という突出した数字です。なぜ彼はこれほどまでに「ゴルフ」に固執したのか? 本記事では、トモカズさんの事例から、コミュニティを持たない高齢男性が陥りがちな罠について解説していきます。

「会社の経費扱い」ができなくなって…

トモカズさんにとって、ゴルフは仕事そのものでした。現役時代、得意先との接待ゴルフにかかるプレー代、往復の交通費、その後の会食費はすべて「接待交際費」として会社が負担。トモカズさん本人が支払うのは、個人の練習場代程度でした。

変化が訪れたのは、定年が近づき役職を外れた時期です。担当していた得意先を後輩に引き継いだことで、ゴルフの誘いは「仕事」から「個人的な付き合い」へと性質を変えました。当然、会社から経費は出なくなりましたが、トモカズさんは誘いを断ることができませんでした。

彼にとっては、「部長、久しぶりにやりましょう」という元部下や、かつての取引先からの連絡が、まだ現役として認められている証だったからです。

月12万円の「現役感」への維持費

妻のモモコさん(仮名)は、トモカズさんが定年後も頻繁にゴルフへ出かけることに眉をひそめていました。「もう役職もないんだし、少し回数を減らしたら?」と何度も釘を刺してきましたが、トモカズさんは聞く耳を持ちません。

トモカズさんが年金や貯蓄から家計に入れていた月々の生活費とは別に、個人の預金から支出していたゴルフ関連費用の実態は以下のとおりです。

1回のプレー代(土日中心): 約1万2,000円

交通費(高速代・ガソリン代): 約1万2,000円

プレー後の会食・反省会: 約1万5,000円

これらを月に2〜3回繰り返し、さらに平日の練習場代月額2万円を加えると、月々のゴルフ関連出費は平均12万円に達していました。

誘いを断れば、もう声はかからない。12万円は、退職してからゴルフ以外にやることがないトモカズさんにとって「自分はまだ必要とされている」という実感を繋ぎ止めるための、切実な維持費だったのです。

老後の前半に退職金の半分が消えた

ある日、モモコさんは老後のリフォーム資金の確認のために通帳を開き、愕然としました。

「こんなスピードで退職金を減らしてしまって、どういうつもりなの!? この先、どうするつもりなの……!」

古くなったクラブの買い替え、ゴルフ仲間に見劣りしないための新しいウェア、付き合いの酒代……。さらには年金だけでは賄いきれない日常の生活費もあいまって、退職金4,000万円はみるみる減り、10年間で実に2,000万円超、退職金のおよそ半分もの大金が消費されていました。

モモコさんの怒りに、トモカズさんは項垂れるしかありません。

「……ゴルフに呼ばれなくなるのが、怖かったんだ。断ったら、俺にはなにも残らないような気がして」

サンクコストと社会的孤立

トモカズさんのケースは、高年収だった元ビジネスマンが陥りやすい「アイデンティティの喪失」を象徴しています。

「会社経費」という感覚の麻痺

長年、会社のお金で高額なサービスを受けることに慣れてしまうと、金銭感覚のリセットは非常に困難になります。トモカズさんにとって、1回4〜5万円のゴルフは「かつての日常」であり、それを自腹で払うことが「現役を続けている証明」になってしまっていました。

サードプレイスの欠如

現役時代に仕事以外の人間関係を築いてこないと、退職後に「元・〇〇社の部長」という肩書きが通じる場所にしがみついてしまいがちです。「肩書を呼ばれなくなる恐怖」は、社会的な死を意味するため、家計が破綻しかけてもブレーキが利かなくなります。

豊富な退職金による油断

退職金4,000万円は、一般的な世帯からみれば高額です。さらに、トモカズさんには退職金以外の貯蓄もあるため、多少の浪費ぐらいはと、生活費プラスアルファ月12万円もの支出を過小評価してしまいました。

トモカズさんにとっての12万円は、ゴルフという趣味によって得られる充実感による対価ではなく、「かつての自分」を維持し続けるための支出だったのでしょう。しかし、このまま年金以外の収入がない状態で、資産の取り崩しをいまのペースで続けていれば、医療費や介護費が増大する80代以降において、家計の致命傷になりかねません。トモカズさんにいま必要なのは、人に合わせてゴルフに行くことではなく、「肩書きがなくても自分を歓迎してくれる場所」を探し、支出の基準をいまの身の丈に合わせる勇気です。