初期症状など肺がんにまつわる七つの通説、その真偽は

(CNN)肺がんで亡くなる米国人はほかのどのがんよりも多く、乳がんに比べると3倍近くに上る。だがマンモグラフィーによる乳がん検診の受診率は8割にも達するのに対し、肺がん検診を受ける人ははるかに少ない。
技術の進歩によって肺がんの早期発見も可能になったが、検診対象者のうち実際に受診するのは2割ほど。この問題の一部は、肺がんにまつわるいくつかの通説に起因するとも考えられる。
通説1:「肺がんは喫煙者だけの病気」元ダンサーのジュリエット・デュボアさんは2年前、46歳で人工股関節の手術を受けた時に偶然がんが分かった。手術から数週間後の血液検査で血栓が疑われ、緊急でコンピューター断層撮影(CT)検査を受けたところ、肺に1センチのしこりが見つかった。
手術前から節々が痛んだり、疲れが取れにくかったりしていたが、それ以外の症状はなかった。
化学療法を4クール終えた現在の体調は良好で、検査でもがん細胞は検出されていない。
両親が2人ともヘビースモーカーだったため、たばこは嫌いで手を出したこともなかった。
実際には肺がん患者のうち、生涯の喫煙本数が100本未満の「もともと吸わない」人々が4分の1を占める。非喫煙者の肺がんは男性より女性によくみられ、特に東アジアと南アジアの女性に多い。南アジアの女性肺がん患者は、83%がもともと吸わないグループだという研究結果もある。
通説2:「ヘビースモーカーだけが気をつければいい」マサチューセッツ州在住のアルバーサ・ゲザーズさんは1960年代、12歳でたばこを吸い始めた。
それから56年間吸い続けたが、数は1日に2〜3本。喫煙指数(1日の箱数と喫煙年数をかけ合わせた値)は、肺がん検診の対象となる20パックイヤーの基準に達していなかった。つまり検査には公的保険が適用されず、自費での検査を勧める医師もいなかった。
だが2024年に友人からの情報で、50〜80歳の黒人女性に無料でCT検査を提供する研究プログラムがボストンにあることを知った。この検査で、肺にがんの病巣が三つ見つかった。マス・ジェネラル・ブリガムがん研究所の胸部外科医、チーフー・ジェフリー・ヤンさんの執刀で摘出手術を受け、順調に回復している。
ゲザーズさんが出会ったのは、ヤンさんらが始めた「インスパイア」という研究。喫煙歴はあるが20パックイヤー以上には該当しない黒人を対象に、肺がん検診を実施する可能性を探るのが主な目的だ。
黒人は肺がんで死亡するリスクが高いにもかかわらず、検診を受ける率は低い。少ない本数を時々吸うだけで、検診対象に入らないケースが多いというのが、理由のひとつだ。インスパイアの第一段階ではゲザーズさんを含め、現行の検診基準に達しないグループで肺がんの症例が数件見つかった。
肺がん患者全体の半分以上は、検診の対象に入らない人々だ。症状が出始めた後になって、あるいは肋骨(ろっこつ)のけがや心臓検査など別の理由で受けたCT検査で偶然、発見されている。
通説3:「検査のガイドラインはすべて最新の研究に基づいている」標準的な肺がん検診には、低線量CTという検査が用いられる。200〜400ドル(約3〜6万円)の費用がかかり、結果的に不必要な医療処置につながることもあり得るため、特にリスクの高い人々にだけ推奨されている。
シカゴ大学の胸部外科部長、ジェシカ・ドニントンさんは、このリスク分けが時代遅れになっていることが問題だと指摘する。
肺がん検診のガイドラインを出している主要3機関は、22年までどこも「50〜80歳で喫煙歴が20パックイヤー」かつ「現在も喫煙中、または禁煙後15年未満」という共通の基準を使っていた。
このうち「全米総合がん情報ネットワーク」(NCCN)が22年、基準を変更。本数にかかわらず、20年以上の喫煙歴がある人全員に検診を推奨するとした。また「米国がん協会」(ACS)のガイドラインも拡大され、15年以上前に禁煙しただけでは除外されないことになった。
ところが、最も大規模で影響力の強い「米国予防医療専門委員会」(USPSTF)は21年以降、新たな研究結果の評価を行っていない。
USPSTFのガイドラインは通常5年ごとに見直され、今年はその年に当たるが、今のところ見直しの発表はない。特定のテーマでエビデンスを検証する会合自体、昨年3月以降は開かれていない。
委員は保健福祉省が任命する。メンバー16人のうち5人は1月に任期が切れたが、同省はまだ後任を発表していない。
通説4:「検診で命は救えない」低線量CTは1990年代から2000年代初頭にかけて試験的に導入され始めた。当時の研究では、従来のCTやX線に比べてはるかに多くの早期がんを発見できるが、死亡率を下げる大きな効果はないと報告された。
しかし11年、5万人以上の患者を数年間追跡した「全米肺がん検診試験」(NLST)で、低線量CTによる検診が20%の死亡率低減につながったとの結果が出た。これをきっかけに全米で低線量CTが推奨されるようになり、保険適用と導入が広がった。
ヤンさんによると、疑わしいしこりが見つかった場合は通常、数カ月後に再びCTを撮る。しこりが大きくなったり変化していたりするケースは全体の1%程度で、その場合のみ生検に進む。NLSTで生検を受け、それ以上の治療には及ばなかった患者に、重大な合併症はみられなかった。
通説5:「肺がんになるのは年配者だけ」マサチューセッツ州に住むロリン・ファドゥスさん(34)が強い疲労感を訴えた時、周囲からは「2歳児を抱える母親なら当たり前」と言われた。さらに肺炎のような症状も出て4人の医師にかかったが、がんの疑いは一度も指摘されなかった。ひどいせきで肋骨が折れてからようやく指示が出た低線量CT検査で、肺と肋骨、肝臓、脊椎(せきつい)にがんが見つかった。たばこは吸ったことがない。
新たに肺がんと診断される患者のうち、10人に1人は55歳未満だ。肺がん全体としては男性に多いが、40代未満の層では女性が新規患者の52%を占める。喫煙経験がまったくない患者の割合は、それよりさらに大きい。
またシカゴで診療にあたるドニントンさんによると、若い患者の大半は進行した「ステージ4」の状態で診断される。発作や肋骨の痛みなどの症状が出てから受診するケースが多い。
米胸部外科学会(STS)によれば、肺がんが早期発見された場合、20年後の生存率は80%だが、診断が遅れた場合の5年生存率は8%にとどまる。
通説6:「症状はせきから始まる」マサチューセッツ州在住のケリー・ジョーンズさん(36)はネイルサロンに行った時、自分の爪が隆起していることに気づいた。心臓や肺の病気の兆候として知られる「ばち指」だ。数カ月前からひどい骨の痛みや脚のはれもあり、看護師である姉妹に促されて呼吸器科医の診察を受けた。
当初の心エコーや肺機能、X線検査は異常なし。だが医師が「喫煙者ではないが念のため」と追加したCT検査で、ステージ1の肺がんが発見された。
肺がんで多い症状はしつこいせきや息切れ、胸痛、原因不明の体重減少、慢性的な疲労感、血痰(けったん)などだが、特に若者には初期の兆候として、激しい炎症や神経症状がみられることもある。
通説7:「肺がんは予測がつかない」肺がんにかかる確率を予測するのは難しいが、ヤンさんと同僚のリーシャ・セクイストさんが米マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームと共同で開発した人工知能(AI)プログラム「シビル」は、1回のCT画像を基にその人が最大6年後までにがんになる「リスク・スコア」をはじき出す。
23年の報告によると、シビルは1年以内に肺がんを発症するリスクが高い患者と低い患者を、86〜94%の的中度で特定できたという。
シビルはだれもが自由に共有できるオープンソースのソフトウェアで、米国内十数カ所の病院をはじめ、世界30カ国以上で使われている。
ヤンさんとセクイストさんは現在、新たな研究の準備を進めている。喫煙歴があって定期検診の対象ではないが、何かの理由でCT検査を受けた人を追跡する研究だ。シビルがそれぞれのリスク・スコアを算出し、特にリスクの高いグループは検診の頻度を上げる。
セクイストさんは、今後シビルを使って個人ごとの検診スケジュールを立てることも可能になると話す。最初に全員のCT検査を実施し、その結果に応じてグループに振り分ける。高リスクのグループには半年か1年ごと、そのほかのグループは5〜6年後に検査する形が考えられるという。
