『ばけばけ』写真提供=NHK

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 5月4日に総集編が放送されるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。今でも思い出される名場面をピックアップしたい。

参考:『ばけばけ』は朝ドラヒロイン“じゃないほう”の物語だった 明治を生きた女性たちのリアル

●立ち尽くす司之介(岡部たかし) ヒロイン・トキ(髙石あかり/福地美晴)の幼少時代、明治時代になっても武士の誇りを捨てられず、まげを切らずにいた祖父の勘右衛門(小日向文世)と父の司之介(岡部たかし)。しかし、なんとか時代についていこうとして、司之介は、ウサギの投機事業に手を出し、一時は好調で大金を手にして、はぶりがよくなる。

 司之介と一緒に事業に手を出した金成(田中穂先)が、貧しい人たちの住む川の向こうに売られていく人々の中にいるのを見たトキ……。そのシーンを見て、一気に視聴者も不穏な空気を感じ取るのだが、次の日の放送では、司之介は「ちょっと家を出る」と言ったまま、家に帰ってこない。

 第1週にあった、物語の転機のひとつと思いつつも、司之介の「立ち尽くす」姿に、どこか他人事とは思えない気持ちを抱いていた。そんな司之介が終盤になって、「立ち尽くす」ことになるヘブン(トミー・バストウ)を救うことになるとは。このキーワードも、ドラマ全体にずっと流れているテーマとなっていた。

●スキップができるようになるトキ(髙石あかり) まだトキがヘブンの女中であったころ、ヘブンがビア(ビール)を飲んでご機嫌になりスキップをするシーンがある。するとトキをはじめ、勘右衛門を含めた松野家の面々もスキップに挑戦。教えられてすぐにスキップできたのは意外にも勘右衛門であった。彼は近所に住む上野タツ(朝加真由美)に恋していることから、スキップと「恋」はなんとなくつながるものと連想されていた。

 トキも当初はスキップができないのだが、ある日突然できることになる。それはヘブンの女中を始めてしばらくしてのこと。トキは家の花瓶に拾ってきた椿の花を飾ると、ヘブンはそれを美しいと言って出かけるのだが、夜になってヘブンが椿の花の絵を描いていたのをトキは見つける。それだけなのに、なぜかとてもうれしくてトキは顔をほころばせる。そして帰り道、知らず知らずのうちに心が躍り、スキップができるようになっていた。

 トキとヘブンの心が通うのはそのちょっとあとだが、このときに気持ちが動いたことがわかるシーンになっていた。

●散歩しましょうか トキのかつての夫の銀二郎(寛一郎)と、ヘブンの仕事仲間のイライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)が同じ時期に松江にやってきた。そのころ、「怪談」を通じて心を通じあわせはじめていたヘブンとトキは、複雑な気持ちを抱えながら銀二郎やイライザと再会する。あるとき、4人が鉢合わせしたときに、トキはヘブンや銀二郎、イライザに「怪談」を披露するのだが、そこにあったのは完全に2人の世界であった。それを見たら、銀二郎やイライザでなくとも、その場を離れようと思うものだろう。そのときに言葉がなくとも銀二郎とイライザが「蚊帳の外」だという意味で通じ合っているのも皮肉であった。

 その後、旅館に銀二郎とイライザを残し、トキとヘブンは橋のたもとまでいくのだが、別れて突然、トキの目には涙があふれだす。

 後日、トキは銀二郎と、ヘブンはイライザと別れて、橋のたもとで再会。そのときヘブンが「散歩デキマス?」と聞きトキが「私もご一緒してええですか」と言ったそのことだけで、2人が一気に結婚まで行くその展開は、今見返すと、ものすごく通じ合っていないと成り立たないこと。セリフも少なく、2人の表情や間だけでその気持ちの変化が見事に描かれていた。

●サワ(円井わん)との誤解と和解 トキは能動的ではなく、どちらかというと受け身で、周りの動きに巻き込まれて人生が変化していくが、トキと幼いころから仲の良いサワ(円井わん)や遊郭で働くなみ(さとうほなみ)は、トキとは違って、今の状況から抜け出そうともがいている期間が長かった。

 それまで、なんでも分かち合える友人であったトキとサワだが、トキがヘブンと結婚。ほどなく、なみも身請けをされて結婚することで抜け出すが、サワは自分の力で正規の教師になろうともがいていた。そのことで、トキとの関係性もぎくしゃくして、トキが家を訪ねても居留守を使ってしまう。

 悩んでいたトキだったが、ヘブンのことを追う新聞連載『ヘブン先生日録』にサワの頑張りを書くことで励まそうとするが……。

 焦燥感や嫉妬心を抑え込まず、またサワが知り合った英語教師・庄田(濱正悟)もまた、錦織(吉沢亮)に対して同じような気持ちを持っていることも、サワを救ったのではないか。

 その後、庄田からのプロポーズを断って自力で長屋を出ようと決心したサワ。そこにはいろんな複雑な気持ちがあっただろう。そんな気持ちを「おトキのせいだわ。わたしはおトキにはなれん」「シンデレラにはなれんけん」「全部おトキのせいだけん」と泣きながら気持ちをぶつけるシーンが、なんともいえず愛しかった。

 ヒロインの隣にいるサワにも焦点があてられるところもこのドラマの良さのひとつだった。

●フロッグコート ヘブンの死後、トキは自分のせいでヘブン=八雲の人生がつまらないものになったのではないかと思い込み、ふさぎこんでいた。ヘブンの本の編集者であったイライザに、トキ自身の物語を書くように言われても、ヘブンとの日々を思い出すことすら痛みのようになっていた。

 しかし、そんなとき、彼女が「フロックコート」を「フロッグコート」と間違っており、そのことをひそかに八雲が面白がって喜んでいたことを知る。そのことで、なんでもない出来事が、2人の間での幸せであったと気づけるのであった。思えば、このドラマもずっと「他愛のないこと」の連続で、それこそが幸せであったと気づかされる。

 脚本のふじきみつ彦は、本作の発表当初から「何も起こらない」話を目指していると言っていたが、最終回にして、トキとヘブンの毎日に大きな出来事は起こっていないけれど、その心の中にはいろんなことが起こっていたことを、我々は知るのである。

(文=西森路代)