「こんなに増やして、馬鹿みたいだ」…20代から1円単位で節約、資産1億円到達も「やりすぎた」70歳男性が自嘲するワケ

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20代から節約を続け、資産1億円超を持つ70歳の男性。定年時はお金に不安を抱える周囲を他所に「勝った」と思ったはずが、5年後の今、後悔を抱えています。お金を増やしすぎた--この言葉の裏にある“誤算”とは?

父の言葉を胸に1円単位で節約。資産1億円到達までの道のり

「貯めてばかりの人生、馬鹿だったな。そう思います」

そう振り返るのは、地方の実家で暮らす中村健一さん(仮名・70歳)。一人暮らしをしていたアパートを引き払い、実家に戻ったのは5年前のことです。

年収は平均的なサラリーマンと大きく変わらない水準。それでも20代の頃から「無駄な出費は一切しない」と決め、1円単位で支出を管理。外食はほぼせず、旅行にもほとんど行かない徹底した節約生活を続けてきました。

その原点にあったのは、亡くなった父の言葉でした。

「若い時の貧乏はよくても、年を取ってからの貧乏はきついぞ」

その一言が頭から離れなかったといいます。

「老後に不安を持ちたくない。周りが遊んでいても、自分は貯める側に回ろうと決めていました。結婚の可能性が消えた40代からは、それが加速しました」

同僚が車を買い替え、旅行の話で盛り上がる中でも、通帳の残高が増えるほうがずっと有意義だと感じていました。淡々と貯蓄を積み上げ、運用する日々。

定年を迎える頃には、資産は1億円に到達。老後資金としては十分すぎるほどの蓄えを築いていました。

「達成感は凄かった。周りが年金が少ないと嘆いている中で、内心“勝った”と思っていました」

そう思った矢先のことでした。

先の見えない生活へ

一人で暮らしていた当時86歳の実母が、自宅玄関で転倒。大腿骨を骨折し、そのまま要介護状態となりました。

父はすでに他界しており、頼れるのは一人息子の健一さんしかいません。施設入所も検討しましたが、母は強く拒否。「他人と一緒は嫌。健一、面倒見てよ」と言われ、在宅介護を選びました。

そこから生活は一変します。健一さんは実家に戻り、母の食事の準備、トイレや入浴の介助、洗濯、通院の付き添い。外出の合間にも、呼ばれればすぐに戻らなければなりません。介護サービスも利用しているものの、母は他人を嫌がり、結局は自分が対応する場面が多いといいます。

「これ、いつまで続くんだろうと。介護って先が見えないんですよ。じゃあ母を施設に入れて自分は海外旅行や趣味を楽しむのか、と言われると……母のことはとても大切ですから。それも難しいんです」

あっという間に過ぎた5年…資産はさらに増加も「やりすぎた」

母の介護を始めて5年、健一さんの資産は減るどころか増えています。唯一大きな出費があったのは、母のための実家のリフォーム。800万円ほどかかりましたが、投資の運用益がそれを上回っているのです。

年金収入もあり、経済的な不安は一切ありません。しかし今思うのは、「増やすだけじゃなく、使うんだった。老後まで待たず若いうちに」。

父の言葉に対しても、「俺は、やりすぎました。お金を使っていれば、もっと楽しいことがあったのかも。経験できていたのかも。でも、時間は戻ってこないじゃないですか」――そう静かに笑います。

自由になれるタイミングと親の介護が重なるリスク

「介護給付費等実態統計月報(2024年)」では、80〜84歳で約26%、85歳以上では約60%が要支援・要介護認定を受けています。

定年してから人生を楽しもうと思っていると、ちょうど親の介護が重なってしまった――タイミングとして、それは決して珍しくありません。

 「このままいくと、お金の使い道は自分の老人ホームくらいかな。ちょっといいところに入れそうです。ただ、それが果たして『幸せなお金の使い方』なのか……」

若い頃、父に言われた言葉は確かに正しかった。お金の不安はない。生活に困ることもない。それでも、後悔はぬぐえません。