『両京(りょうきょう)十五日』(全4巻) 馬伯庸(マーボーヨン)著 齊藤正高、泊功訳 ハヤカワ文庫NV 各1320円(4巻は5月発売)

『ペルシャ王女の棺』 マハ・カーン・フィリップス著 星薫子(にほこ)訳 集英社文庫 1485円

『中国55の少数民族を訪ねて』 市川捷護(かつもり)、市橋雄二著 角川ソフィア文庫 1540円

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 アジアが舞台の本を選書。映画「長安のライチ」の原作者でもある著者の(1)は、明の皇太子が父洪熙(こうき)帝を助けるため南京から王都北京へ15日で急行するタイムリミット&長距離移動もの。司馬遼太郎作品や「ゲーム・オブ・スローンズ」「超高速!参勤交代」などの優れた点を吸収したパワフルな作品。素行が悪いが切れ者の捕吏、実直な下級官僚、謎の女医という皇太子一行(パーティー)のキャラ立て、明の歴史背景を織り込んだ展開も巧み。

 パキスタン・カラチの女性考古学者のグルフサが、麻薬密売組織のアジトで発見された古代アケメネス朝ペルシャの女性のミイラの謎を解く(2)は、2000年、実際にパキスタンで発見された“ミイラ”がモチーフ。男尊女卑が強く残るパキスタンで、フェミニズム活動に参加し行方不明になったグルフサの姪(めい)の事件が密売の件とリンクし、スリリング。南アジアを「体感」する一冊だ。

 (3)は90年代に行われた中国側との共同映像プロジェクトの記録。中国にいる漢民族以外の55の少数民族は2005年には1億2333万人、独自の言語、創世神話、唄や踊りなどの文化風習をもつ。取材は天候不順による予定変更、価値観の違いによる衝突や交渉、思いがけない出会いの連続。共に旅するように一章ずつ大切に読んだ。現在、ウイグル自治区やベトナム・ラオス国境などの情勢はシビア。タタール族の「母なる言葉よ、美しき言葉よ」という唄は今も歌われているのか。オビの文言「忘れられた中国」とは、「忘れた」のは誰なのか。関心を持ち続けたい。=朝日新聞2026年4月25日掲載