「腰や首、腱鞘炎や痔も相変わらず職業病ですが、最近は過労による身体の不調よりも、メンタルの不調のほうが目立つ印象です。コロナ禍以降、対面の打ち合わせや会食が減り、対人関係が苦手な作家さんほど会話する機会を失い続けています」

◆連載開始後に急に太りだすケースも

孤独で不規則な生活がメンタルの悪化を招き、暴飲暴食に溺れ、体調を崩す漫画家は少なくないそうだ。

「運動不足で体力・免疫力が低下しているのか、ほとんど外を出歩かないのに風邪やインフルエンザにしょっちゅう罹る作家さんも珍しくないです。糖尿病の人もまあまあいて、それまでは金欠でガリガリに痩せていたのに、連載が始まると精神的な負荷によって急に太り出すパターンも多い。デビューを目指す若手作家で、お金がなくて歯医者に行けず、歯がボロボロに抜けた人もいました」

1人で10人以上の作家を受け持ち、最低でも5〜6本の連載作品を走らせているという森本氏。担当作品やタスクが増え続ける現状に起因して、漫画編集者も健康面の課題を抱えているらしい。

「プロモーション業務まで求められるようになり、プレッシャーは常に感じています。創作に専念しづらいストレスは作家さんも敏感に感じているのかなと。出版不況で、二人三脚で頑張っても単行本が売れないケースのほうが圧倒的に多いため、お互いに虚無を感じて病みそうになる時もありますね」

◆医師の見解は?

不摂生を続けた先にどんな結末が待ち受けているのか。漫画家の診療経験も持つ糖尿病専門医の飯島康弘氏は、こう警鐘を鳴らす。

「漫画家の生活で医学的に最も怖いのは、『同時に』積み重なる複数のリスクです。長時間座り続けることで筋肉や心肺機能がじわじわと衰える。医学では『廃用』と呼び、数か月、数年かけて静かに進行します。そこに栄養バランスの崩壊が重なると、肥満・糖尿病・脂質異常症・高血圧を呼び込み、動脈硬化が加速。突然死のリスクは確実に積み上がっていきます。また、締め切りストレスによる不眠も深刻です。不眠は血圧上昇、食欲の暴走、判断力の低下、うつ傾向と連鎖し、身体と心の不調が同時に悪化していく結節点になります。せめて年に一度の健康診断と、眠れない日が2週間続いたら受診する。この2つだけでも、心に留めておいてほしいと心から願っています」

デジタル化による効率化が進む一方で、孤独な作業環境が生む精神的な重圧は、今もなおクリエイターの心身を静かに蝕み続けている。

<取材・文/伊藤綾>

【飯島康弘】
東京医科大学卒。東京医科大学 糖尿病代謝内分泌内科 客員研究員。日本糖尿病学会 糖尿病専門医、日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医、日本内科学会 認定内科医。2021年に東京都新宿区の藤保クリニック院長に就任し、糖尿病外来、訪問診療、有床診療所の運営を行い、生活習慣病から人生に寄り添う診療を大切に日々医療に励んでいる。

【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii