町の本屋はなぜ消えてゆくのか…《興味がない人の視界には入らない》閉業した「伊野尾書店」店長が漏らした本音

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3月31日、小さな町の書店が、最後の営業日を迎えた。20時の閉店を前に、馴染みの客たちが名残惜しそうに、3〜4冊の本を手にレジに並ぶ。会計を終えたひとりに話を聞いてみた。

「3年前に近くに引っ越してきて、この書店を見つけたんです。どんな新刊が出ているかな、と棚を見ているだけで楽しい本屋さんは貴重なので、よく通っていました」

20時を過ぎ、店長の伊野尾宏之さん(51歳)がシャッターを閉めると、店に集まった30人ほどの関係者や常連客たちから拍手が上がった。そしてなかなか立ち去らない人たちを前に、宏之さんは「解散っ!」と告げ、店を後にしていった――。

「地域に愛される書店」の跡を継いで

約17坪の店舗に1万冊ほどを抱え、店の中央には宏之さんの目利きによる書籍が並ぶ。69年の歴史を持つこの書店の名前は、「伊野尾書店」。都営大江戸線中井駅のA2出口のすぐ隣、東京・新宿区の中井という町にある。

新宿とは思えないほど静かなこの町を、古くは作家の林芙美子も気に入り、終の住処が「新宿区立林芙美子記念館」として保存されている。

林が亡くなったのが1951年。その6年後、もともと材木商をしていた伊野尾信夫さんが、伊野尾書店を開店した。本の仕入れ方も知らぬまま手探りでスタートしたが、夫婦で店を守り、地域に愛される書店へと育っていく。

宏之さんはそんな両親のもと、'74年に生まれた。店と住居が一体となっていて、朝から晩まで店番や本の配達と慌ただしく働く姿を見て育った。大江戸線中井駅ができたのを機に、店舗は'99年にリニューアル。時を同じくして、大学卒業後にフリーターをしていた宏之さんは、「自分が跡を継ぐ」と書店の仕事を始める。

当時は現在よりもずっと本が売れていた。それゆえに、売れる本が入荷できないという苦悩もあった。

宏之さんが明かす。

「乙武洋匡さんの『五体不満足』や京極夏彦さんの新刊など、世の中で流行っているベストセラーが、私の書店まで回って来ないことは何十回とありました。取次担当者だけでなく、出版社に直接電話しても入荷できない。中小書店の書店主たちが共同で仕入れをするグループ『NET21』に'04年に参加してからは大きく改善されましたが、頭の痛い問題でした」

様々なイベントも「興味がない人には…」

経営は順調になった一方、次第に本が売れなくなる時代に突入していく。宏之さんは模索を続けた。

「商品が売れなくなる危機感から、いろんなことを考えました。手軽に読める雑誌や文庫本などの売り上げがどんどん下がっていったので、雑誌とコミックを減らして、資格取得のための本や児童書を増やしました。パソコンやスマホ中心の時代に移る中でも、児童書は読まれ続けていたからです。子供にドリルをさせたり本を買い与える傾向は、この地域ではあまり衰えなかったように思います」

伊野尾書店自体への注目を集め、遠くの人にも来てもらおうと、数々のイベントも行った。特に好評だったのが、なんと店内でレスラー同士が戦う「本屋プロレス」だ。

「私は昔、プロレス雑誌の記者になりたかったほど、プロレスが好きなんです。'08年に、DDTプロレスリング代表の高木三四郎さんの著書の発売記念イベントとして、高木さんと飯伏幸太さんが本屋でプロレスをするイベントを開催しました。『どこかにプロレスができる本屋はないか』という高木さんのリクエストに応えたわけです。

店の周りをプロレスファンのお客さんが取り囲み、商品の本には決してぶつからないようにプロレスを始めてもらい、途中からは店の外に出て場外乱闘。とても好評だったので、本屋プロレスはその後も2度行いました」

著者のサイン会はもちろん、野宿をテーマにした書籍の刊行記念イベントでは、書店の前に集まった人々が実際に野宿をしたり、店頭で肉を焼いて来店者に振る舞う「本屋焼肉」イベントも盛況だった。

'24年と'25年の、書店周辺に複数の版元がブースを出して直接売る「本の産直市」には、最も多くの人が集まった。

「SNSだけではなく、新聞に挟んだ折り込みチラシの効果が大きく、年配の人や遠くに住んでいる方々も来てくれた。一方で、店頭でチラシを配っているのに、『本屋さんはどこにあるんですか?』と言う人もいた。好きな人の目には入るけど、興味がない人の視界には入らない存在が本屋なのかもしれません」

【後編記事】『「立ち読みすらしてくれない」閉店に追い込まれた“町の本屋”が体験した、想像以上に恐ろしい「本離れのリアル」』につづく。

「週刊現代」2026年4月27日号より

【つづきを読む】「立ち読みすらしてくれない」閉店に追い込まれた”町の本屋”が体験した、想像以上に恐ろしい「本離れのリアル」