上垣アナ

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「STAR」でMC

 4月16日にスタートしたフジテレビの新しい音楽番組「STAR」で、MCを務めた上垣皓太朗アナウンサーの進行ぶりが話題を呼んでいる。この番組はフジテレビにとってゴールデン帯では約10年ぶりの新たな音楽番組である。【ラリー遠田/お笑い評論家】

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 上垣アナは入社3年目にしてこの番組を任されることになったのだが、キャリアの浅い若手とは思えないほど落ち着いた態度と上品な口ぶりで番組を進めていたことが視聴者の印象に残ったのだろう。

 Xでも新人離れした上垣アナの進行に驚きと絶賛の声が相次ぎ、「上垣アナ」というワードがトレンド入りする事態となった。音楽番組であるにもかかわらず、出演するアーティストよりも司会者が注目されるという珍しい現象が起きた。華やかなアーティストを前にしながら、主役の座を奪いかねない存在感を見せた驚異の新人の登場は、昨今のフジテレビにとって久々の明るいニュースである。

上垣アナ

 フジテレビがかつての輝きを失って久しい。一昔前までは視聴率でも話題性でも民放の頂点に君臨していた同局は、2010年代以降、坂を転げ落ちるように視聴率を落とし、先の見えない低迷期に入った。

 そこに追い打ちをかけたのが、中居正広氏と女性社員の間のトラブルを発端にした一連の不祥事だった。一時はスポンサー企業の大半がCM出稿を取りやめる事態に発展し、フジテレビの信頼は地に落ちた。その後もアナウンサーや社員の人材流出が相次いでいて、壊滅的な状況に追い込まれている。

 そんなフジテレビはこの春、プライム帯を大きく改編し、自ら「かつてないほど大きな変革の時」と打ち出している。さらに、再生・改革に向けた施策を対外的に公表し、ガバナンス改革やリスク管理体制の見直しを進めている。

 現在、必要なのは、単に目先の視聴率を取ることではなく、「この局はまだちゃんとしている」という安心感を与えて、着実に信頼を取り戻すことだ。上垣アナが注目されたのは、彼がその役割をたまたま一身に引き受ける構図になったからだ。

自分の言葉で語れるアナウンサー

 上垣アナの強みは、アナウンサーに期待されがちな「華」や「ノリ」よりも先に、言葉に対する慎重さや丁寧さと、古風なくらいの安定感が前に出るところにある。国語の教員免許を持っていて、言葉に対する繊細な感覚もある。昭和歌謡、AMラジオ、鉄道、俳句、地形図を見ながらの街歩きなどの渋い趣味をたくさん持っているところにも唯一無二の個性が感じられる。

「STAR」のスタッフも彼を起用した理由として「自分の言葉で語れるアナウンサー」と説明していた。実際に同番組でも、アーティストを必要以上に自分の色に染めようとせず、音楽番組の進行役として節度を保ちながら存在感を出していた。派手さはないが、これはテレビの司会者としては重要な資質である。

 特に音楽番組はアーティストが主役なので、司会者が目立ちすぎれば邪魔になる。ただ、逆に存在感がなさすぎても番組の印象が薄くなる。その中間を保つには、単なる技術ではなく、場の空気を読む知性と、言葉を雑に扱わない感覚が必要だ。彼が評価されたのは、視聴者が無意識に求めている「ちゃんと番組を進められる人」の像に正確に当てはまっていたからだ。

 ここで興味深いのは、上垣アナの魅力が、これまでのフジテレビが打ち出してきた「軽薄さ」のイメージとは別の方向を向いていることだ。かつてのフジテレビは、時代の先頭を走るノリの良さと勢い、バブル的な高揚感によってブランドを築いてきた。

 だが、現在のテレビに視聴者が求めているものは、浮ついたものではない。過剰に他人を傷つけず、内輪の悪ふざけにも陥らず、コンプライアンスの枠の中で楽しみを提供することだ。そんな時代、上垣アナはまさに理想的なテレビ司会者なのだ。彼の進行ぶりがSNSで「昭和の歌番組のようだ」などと言われていたのも、単なる懐古趣味ではなく、軽薄さに疲れた視聴者がそこに好感を持ったからだろう。

 もちろん、上垣アナ1人ががんばったからといって、フジテレビがすぐに窮地から脱することができるわけではない。ただ、組織が変わるとき、最初に必要なのは大きな変革ではなく、「この方向ならいけるかもしれない」と思わせる小さな徴候である。「STAR」で見せた上垣アナの司会ぶりは、まさにそういうものだったと言える。フジテレビが彼を単なる話題の若手として消費するのではなく、新しい局のイメージを象徴する存在として育てられるなら、これからの未来には希望が持てるかもしれない。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部