「おけんたん、あれ美味しかった」75歳のパパ・田中健、思春期の娘との仲を繋いだ「お弁当」の功績
「おけんたんのあれ、美味しかった!」。娘の友達からあだ名で呼ばれ、お弁当交換の輪が広がる──。俳優・田中健さん(75)が、思春期の娘と交わした「言葉なきコミュニケーション」の記録。20歳年下のパパ友に支えられ、娘のマナー指導にタジタジになりながら、75歳で掴み取った「父の功績」を伺いました。
【写真】「これは可愛すぎる」名俳優・田中健さんが娘さんと友達に作った「犬のお稲荷さん弁当」(9枚目/全9枚)
「おけんたん、あれ美味しかった!」娘の友達が繋いだ会話
── この春、高校を卒業し大学生になった娘さんのお弁当作りを7年間続け、作ったお弁当をブログにアップしていました。思春期の娘さんとのコミュニケーションにお弁当がひと役買ったそうですね。
田中さん:娘は毎日完食して帰ってくるんですけど、特に「これ美味しかった」というような感想はなく、あんまりしつこく聞くと嫌がると思ったので、そんなに聞かなかったんです。
でも、娘の高校の友達が僕のブログを見てくれていて、学校でおかず交換をしていたようで。娘が家に帰ってから、そんな話をする機会が増えてきました。友達がうちに遊びに来たとき、「おけんたんのあれ、美味しかった!」と言ってくれて、嬉しかったですね。
── おけんたん、ですか(笑)?
田中さん:そう(笑)。子どもたちが名前に“たん”をつけて可愛らしく呼ぶ風潮があり、健にたんをつけて、さらに年上だからという敬意を込めて「お」をつけたらしいです。友達の分までお弁当をリクエストされることもあって、焼肉やハンバーグ…いろいろ作りました。
20歳年下のパパ友付き合いは「自分から話しかけて」
── お弁当作りは、パパ友が作っていることを知ったのがきっかけだと伺いました。
田中さん:50代のパパ友が多いのですが、みんな僕よりずっとしっかりしてる(笑)。運動会でも授業参観でも、「田中さん、今日の会場はこっちですよ!」と親切に誘導してくれて、どっちが年上かわからない状況です。
歳は20も違うのですが、目が合ったら「あ、どうも」と、僕から話しかけて。そこから仲良くなりました。音楽の仕事をしている方のコンサートに伺ったり、ゴルフを教えていただいたり。華道師範の資格がある方は、パパ友を集めて華道教室を開いてくれて。娘をきっかけに、年齢を重ねてから気の合う友達ができたのは嬉しいですね。
読み聞かせは「余計な演技しないで」とダメ出しの嵐
── 娘さんは春から大学生で、お弁当作りはいったん卒業ということですが、娘さんの子育てを振り返ってみていかがですか。
田中さん:小さい頃の読み聞かせは思い出深いですね。1日に何冊も読んでいました。ここは俳優としての本領発揮ということで、絵本のなかにおじいちゃんやおばあちゃんが出てきたら声色を変えて読んで。でも娘は「やめてくれる?もっと普通に。余計なことしないで」って言うんですよ。僕が絵本で芝居をするのが嫌なんですって。
でも、絵本の途中で、効果音や擬音語とかを入れるとすごく喜びました。おそらく娘には1000冊以上読んできたと思います。娘がすごいのは全部ストーリーを覚えていること。「記憶力うらやましい!」と思っていました。
そのおかげなのかわかりませんが、僕が家で台本を読んでいると娘が相手をしてくれるんです。思春期で普段はなんとなく冷たい感じなんですけど、台本を読むのは付き合ってくれて。もしかしたら芝居好きなのかな。奥さんは忙しくてすぐいなくなっちゃうんですけど、よくやってくれるなと思います。あとは子育てをきっかけに、礼儀作法についてもあらためて考え直しましたね。
── 芸能界で長く活躍されている田中さんがあらためて礼儀作法ですか!?
田中さん:挨拶はどの世界でも大切だと思いますが、子育てで経験する礼儀やマナーってちょっと違うんですよ。たとえば静かな場所で待っている間に、素敵なBGMがかかっていたりすると、体でリズムをとっちゃうことが多くて。僕からしたら「いい音楽が流れてるんだから、このくらいいいじゃん」って思うんですけど、面接の前や式典など、娘の大事な場面でリズムに乗るのは、奥さんに言わせるとダメなんですって。
今も娘から食事のときに「音を立てて食べない」とか、肘をついていたら注意されます。私は野山を駆け回って育ったタイプだったので、そういうものをまったく知らずに育ったんだなと。言葉遣いもそうですが、今の子は礼儀正しいですね。
この年になって周りから笑われることも多いのですが、いつか娘に追いつかなくてはと必死です。子育てを通じて僕自身も成長させてもらっていることが多いですね。
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「いつか娘に追いつきたい」。 75歳の名優が、食事のマナーを娘に叱られ、パパ友に誘導されながら、照れくさそうに笑っています。
思春期の子どもの「ツン」とした態度に心が折れそうな日も、あなたの背中を誰かが「おけんたん」のように愛着を持って見ているかもしれません。完璧な親じゃなくていい。少し頼りなくて、でも一生懸命なあなたの姿こそが、いつか子どもが振り返ったときの、一番温かい記憶になるはずです。
取材・文:内橋明日香 写真:田中健

