なぜ アリババ はAIに8兆円も投じるのか。CEOが語る「破格の攻勢」

記事のポイント
アリババはAIとクラウドコンピューティング部門の売上高を5年で1000億ドルに引き上げる目標を掲げた。
消費者向けAIアプリ「クウェン」が旧正月期間中に約2億件の注文を処理し急成長を遂げた。
自社のEコマースや決済ネットワークとの統合がOpenAIやGoogleにない構造的強みとなっている。
世界最大級のEコマース企業のひとつが、AIエージェント時代に適応するため、ビジネスモデルの転換を進めており、変革の兆しが見え始めている。
CNBCによると、アナリストは同期間の売上高を2907億元と予想。さらに、営業利益は前年同期比74%減となり、プレスリリースによると「主にクイックコマース、ユーザーエクスペリエンス、テクノロジーへの投資に起因する」ものだった。
アリババはBtoBマーケットプレイスとしてスタートしたが、現在ではタオバオ(Taobao)やTモール(Tmall)などの消費者向けアプリからクラウドコンピューティング、企業向けAIエージェントまで、幅広い事業を展開している。
そして、アリババが今後の成長の大きな原動力として期待しているのが、後者の2つの分野である。具体的には、AIおよびクラウドコンピューティング部門の売上高が今後5年間で1000億ドル(約15兆円)に達すると見込んでいる。
しかし、その目標に到達するために、同社は多額の資金を投じ、消費者向けおよび企業向けの新アプリケーションの普及を急速に推し進める必要がある。
2025年、同社は今後3年間でAIインフラに少なくとも530億ドル(約7兆9500億円)を投資すると表明した。
AIエージェント時代に向けた事業再編
3月16日、アリババがAI事業をアリババ・トークン・ハブ(Alibaba Token Hub)という新しい事業部門のもとに再編成することが発表された。
このニュースは、アリババの有名なAI研究者のひとりであるリン・ジュンヤン氏が、同社の主要プロジェクトのひとつから退任すると報じられたわずか数日あとのことだった。
そのため、3月19日の決算説明会に向けて、これらがアリババのAI戦略にとって何を意味するのか、多くの疑問が寄せられた。説明会では、アリババグループCEOのエディ・ウー氏が、アリババ・トークン・ハブの設立のような動きが、現在の「AIエージェント時代」においてアリババを成功に導くためのものであると説明した。
決算説明会でウー氏は、AI開発の初期段階では大規模言語モデル(LLM)は主に静的なデータセットで学習されていたと語った。AIエージェント時代ではそれが変わり、アリババやAmazonのような企業が、より自律的に行動し、ほとんど入力なしで商取引を完了できるAIエージェントボットの開発を競っている。
これにはLLMが最新の消費者データの継続的なストリームで学習されることが必要であり、ウー氏によれば、アプリケーションとLLMのあいだのより緊密な統合が求められる。
「AIエージェント時代においてもっとも異なり、もっとも重要なのは、アプリケーションとモデルの緊密な統合を実現する必要があることだ。それが最優先事項である」とウー氏は述べた。
消費者向けAIアプリ「クウェン」の急拡大
アリババのAI戦略の中核にあるのが、クウェン(Qwen)と呼ばれる一連のLLMである。最初のオープンソースのクウェンモデルは2023年にリリースされた。一部の報告によれば、クウェンは世界でもっとも広く使用されているオープンソースAIシステムである。
2025年11月、アリババはクウェンLLMのもっとも先進的なバージョンをベースに構築された消費者向けクウェンアプリもリリースした。
アリババはわずか数カ月のあいだにアプリを急速にアップデートし、より多くのコマース機能を追加してきた。2026年1月には、フードの注文や旅行の計画などの機能が追加された。
2026年2月、アリババは旧正月の期間中にクウェンへのユーザー獲得のために約4億3100万ドル(約647億円)を投じる計画だと、ロイター(Reuters)が報じた。
普及促進の取り組みの一環として、アリババは消費者向けのインセンティブを提供した。そのなかにはタピオカティーのプロモーションが含まれており、ユーザーが1000万杯以上の無料ドリンクを受け取るきっかけとなり、ダウンロード数の急増と中国各地の一部店舗の混乱を引き起こしたと、サウスチャイナ・モーニングポスト(South China Morning Post)が報じている。
補助金は功を奏したようである。アリババは、公式WeChatアカウントで、クウェンは旧正月期間中に約2億件の注文を処理したと発表した。
自社エコシステムが生む構造的優位性
OpenAIやGoogleなどの米国企業とは異なり、アリババにはAIショッピングアプリのクウェンが接続できる消費者向けサービスの大規模なネットワークを自社で保有している構造的な優位性がある。タオバオやTモールが例である。
アリババはまた、関連会社のアントグループ(Ant Group)を通じてアリペイ(Alipay)決済ネットワークを運営しているほか、物流プロバイダーのツァイニャオ(Cainiao)、地図サービスの高徳地図(Amap)、旅行プラットフォームのフリギー(Fliggy)も運営している。
これらを組み合わせることで、クウェンは理論上、消費者が商品を見つけ、購入し、支払い、配送するまでを単一のチャットボットインターフェースのなかで完結させることができる。
AIシステムを信頼性の高いショッピングエージェントに変えることは技術的にいまだ困難である。理由のひとつは、これらのアシスタントが商品を推薦するだけでなく購入を完了するためにも大量の構造化データを必要とすることにある。ウー氏が決算説明会で発言した内容からも示唆されている。
Eコマースのカタログ、価格、インベントリー(在庫)レベルは常に変動しており、データが不完全であったり一貫性がなかったりすると、AIシステムが誤った商品を推薦したり、古い価格を表示したり、在庫切れの商品を購入しようとしたりする可能性がある。
ジ・インフォメーション(The Information)は1月、OpenAIがChatGPT内でのチェックアウト機能の展開に遅れをとっていると報じた。その理由の一部は、小売業者の商品データが一貫性に欠けていたり、構造が不十分であったりすることにある。
独立系Eコマースアナリストのユオザス・カジウケナス氏によると、アリババの優位性は「クウェンにはアリババのエコシステム内に、外部パートナーを必要とせずに統合できる企業群がある。さらに、ゆっくりとしたロールアウトを待つのではなく、積極的にローンチする姿勢もある。2つの違いだけでも、GoogleやOpenAIがやってきたこととはまったく異なる提案になる」点にある。
「米国にはすべてを完全にカバーできる同等の企業は存在しないが、おそらくAmazonがもっとも近いだろう。食料品と通常のコマースの両方を手がけているからだ」とカジウケナス氏は付け加えた。
競争激化するAIアシスタント市場
エンタープライズアプリケーションもアリババのAI推進において大きな役割を果たすことになる。
3月17日、同社はウーコン(Wukong)と呼ばれる新しいAIエンタープライズプラットフォームを発表した。
アリババには資金力のある先行者としての優位性があるが、より多くの人々をAIアシスタントに引きつけようとしている大手企業はアリババだけではない。
ここ数週間、パーソナルデジタルアシスタントのOpenClawが中国の消費者やビジネスのあいだで急速に人気を集めている。
OpenClawはオーストリアの開発者によって構築されたが、中国のテクノロジー大手であるバイドゥ(Baidu)やテンセント(Tencent)がOpenClawをコンピューターにセットアップするための講習会を開催している。これは、経済の大部分にAIを統合する中国政府全体の推進策と連動している。
投資調査会社モーニングスター(Morningstar)のシニアエクイティアナリストでアリババを担当するチェルシー・タム氏は、3月11日のリポートで、クウェンの開発に携わるもっとも著名な技術リーダーのひとりであるリン氏の退任を受けて、「中国におけるアリババのAIリーダーシップをめぐる不確実性が増大した」と述べた。
しかし同氏は、「逆にいえば、クウェンがAIを通じてエコシステム全体でアリババの製品やサービスを効果的に強化できれば、同社の長期的な市場ポジションと財務パフォーマンスを強化する可能性がある」とも付け加えた。
[原文:Alibaba's vision for the agentic era comes into focus as it targets $100B in AI and cloud revenue over 5 years]
Anna Hensel and Allison Smith(翻訳、編集:藏西隆介)
