今も胸が痛む…80代男性、10年前に亡くなった妻との「死後離婚」を決意。理由は「同居する義母」の存在【ルポ熟年離婚】
配偶者とは死別によって関係が終わっているのに、のこされた配偶者が「姻族関係終了届」を役所に出す死後離婚。亡くなってなお「離婚」を選択するのはなぜなのか……朝日新聞取材班の著書『ルポ 熟年離婚』(朝日新聞出版)より、死後離婚が増えている背景とその選択に潜む注意点を、事例を交えて紹介します。
義母を扶養し続ける義務はあるか?…70代男性の悩み
「死後離婚」と呼ばれる手続きがある。配偶者が亡くなった後、のこされた配偶者が、亡き夫や妻の血族との関係を終了させる「姻族関係終了届」を役所に出すことだ。
宮城県の80代男性は、20年前に義父が亡くなったのを機に、北海道から義母を自宅に呼び寄せ、妻と面倒を見てきた。その妻が10年前に病気で亡くなり、それ以降は義母と2人で暮らしてきた。
だが70代半ばを過ぎて、自分にもがんが見つかった。初期だったため大事に至らなかったが、この先も何があるか分からない。90歳を過ぎた義母との暮らしに不安を覚え、法律事務所を訪ねて「義母を扶養し続ける義務があるんでしょうか」と問い合わせた。
弁護士の答えは「義務はない」。民法上、扶養義務が生じるのは、義母の「直系血族」と「兄弟姉妹」で、義母の娘(亡くなった妻)の配偶者である男性が扶養義務を負うことは原則ない、との説明だった。
扶養義務があるのは、義母にとって唯一の血族になっていた60代の妻の弟だった。
義弟の家族との話し合い
義弟は、義母が北海道に残してきた一軒家で家族と暮らしていた。事情を説明し、義母を引き受けてもらえるよう頼んだが、経済的な余裕がないと断られた。義弟を翻意させるには強硬手段に出るしかないと感じ、姻族関係終了届を出した。
義弟の家族にも集まってもらい、すでに親族ではなくなったこと、一定期間なら義母の生活費を援助しても構わないことなどを伝えると、義弟もようやく義母との同居を受け入れた。
その話し合いの様子を、義母は放心した顔で見つめていた。「義母と自分の老老介護のような暮らしは共倒れしかねなかった。やむなく選んだ」と男性は振り返る。
義母には「押しつけ合い」のように映っただろうか……。そう思うと、今も胸が痛む。
「死後離婚」増加の背景
法務省の戸籍統計によると、2023年度の姻族関係終了届の届け出件数は3,159件。ピークだった17年度の4,895件からいったん減少したが、21年度に2,934件、22年度に3,065件と、じわりと増加傾向に転じている。
ガーディアン法律事務所の園田由佳弁護士によると、死後離婚が増える背景には「結婚観」の変化もあるという。
「家に嫁ぐ」という言葉があるように、かつては結婚するにあたり「家と家」の結びつきが意識されたが、現在では若い世代ほど「個人と個人」の結びつきという感覚に変わっている。
配偶者とは死別によって関係が終わっているのに、義父母から「嫁いできたのだから、これからも色々やって」と迫られると、価値観の違いから死後離婚に踏み切るケースが多いという。
注意点もある。姻族関係終了届を出しても、亡くなった配偶者との子どもは、義父母にとって血族のままだ。「義父母と孫」の関係は続くため、子どもを介してつきあいが継続し、互いの感情がもつれてしまうリスクがある。
また子どもには、亡くなった配偶者に代わって義父母の遺産を相続(代襲相続)する権利も生じる。「死後離婚」によって関係が悪化した親族と、遺産分割協議でもめる可能性も出てくる。
姻族関係終了届は役所に受理されてしまうと、取り消しはきかない。園田弁護士は「届けを出して後悔しないか、慎重に判断してほしい」とアドバイスする。
朝日新聞取材班
