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早朝、出勤途中の会社員、岸辺さん(仮名・50代男性)は、突然4人組の強盗に襲われた。

現金やパソコンを奪われただけでなく、ヘルメットで頭を殴られ、骨折など全治2カ月の重傷を負った。右目の視界が一部欠ける後遺症も残った。

犯行は、20代の男2人と少年2人によるもの。4人はバイクで移動しながら、横浜市や東京都町田市内で一晩に4件の強盗を重ね、報道によると3カ月後に逮捕されたという。

その後、岸辺さんのもとに少年たちから謝罪の手紙が届いた。「許したい気持ち」と「許せない気持ち」の間で、岸辺さんはいまも揺れている。

横浜地裁で3月3日、グループの1人(20代)の裁判裁判が始まる。被害者はどう振り返るのか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「カラスがぶつかったのかと」

2024年11月18日午前5時ごろ、岸辺さんが自宅を出て駅に向かう途中、前から1人の男がヘルメットを片手に持って歩いてきた。あたりはまだ暗く、男はマスクをしていて、顔はよく見えなかった。

「ヘルメットを持って歩いてるなんて、ちょっと変だな」

岸辺さんは違和感を覚えたものの、そのまますれ違おうとした瞬間、頭に強い衝撃が走った。

「最初は、カラスでも空から襲ってきて頭にぶつかったのかと思いました」

だが、地面に倒れ、頭や手から出血しているのを見て、異変を悟る。混乱する岸辺さんの顔を男がのぞき込み、「金を出せ、殺すぞ」と告げた。

その直後、1台のバイクが近づき、男の仲間が増える。さらにもう1台のバイクも来て、岸辺さんはあっという間に4人に囲まれた。

逃げ場はなかった。近くのマンションは真っ暗。「叫んでも誰も出てこないだろうな」と思い、声を上げることもやめた。

●「金を出せ」と繰り返す犯人たち

「彼らの声から若い子だというのはわかったので、そこまで怖くはなかったです」

岸辺さんはそう振り返る。男たちは繰り返し「金を出せ」と迫ってきたが、ヘルメット以外の凶器も見当たらなかったことから、冷静に男たちにこう話しかけた。

「今の世の中、キャッシュレスで電子マネーばかりで、俺も現金は持ってないから」

それでも、男たちは「金を出せ」と繰り返した。岸辺さんはやむなくバッグからクレジットカードが入ったケースを取り出して渡した。

さらに、たまたま週末用に現金をおろしていたことに気づき、財布から5万円を抜いて渡した。

「財布には、会社に提出しなければならない領収書が入っていたので、これを取られたら会社の経費の人にすごい迷惑がかかると思って、なんとか財布は頑張って死守しました」

ケガをした手で財布に触っていたため、領収書は血に染まってしまったが、後日、無事に経理担当の同僚に提出できたという。

●警察官は来ても救急車は来ない

現金を渡しても、男たちとのやりとりは、まだ終わらなかった。

「今度は、落としてしまったエコバッグを奪われそうになりました。バッグには、会社のノートパソコンとiPadが入っていて、『俺のじゃないから返してくれ』と頼んだんだけど、『返さない』と言われました」

困ったと思っていたら、今度は「携帯を出せ」と言い出したという。

「たぶん、携帯を奪って110番通報を遅らせようとしたんじゃないですかね」

岸辺さんは2台の携帯を持っていたため、1台を渡した。現金、クレジットカード、パソコンなどを奪って満足したのか、男たちはそのままバイクで逃げ去った。たった数分間で起きた事件だった。

岸辺さんはすぐにもう1台の携帯で、110番通報した。まず警察が駆けつけ、現場検証が始まった。

「警察の人たちに何度も同じことを聞かれて、その度に『救急車呼びますね』って言われるんだけど、誰も救急車を呼んでくれなくて、そのうち、鑑識の人たちが現場に到着して現場の記録が始まりました」

岸辺さんは血を流したまま、痛みをこらえて警察官に状況説明するなどの対応を続けたという。結局、岸辺さんが救急車に乗ることができたのは、それから2時間後だった。

●診断結果に「警察の空気が変わった」

救急車に乗れたものの、今度は移送先の病院が決まらず、また待たされたという。その間、岸辺さんはクレジットカードの利用停止をしたが、すでに不正利用された後だった。

「救急車の中で電話すれば間に合うと思いましたが、甘かったです。向こうのほうが一歩早かった」

ようやく運ばれた救急病院で「全治1週間」と診断された。この事件が報じられたとき、岸辺さんが「軽傷」とされていたのは、この診断のためだ。

その後、捜査は進み、岸辺さんは警察に協力した。

「何度も聴取されたり、実況見分もやりました。警察署内の道場みたいな場所で、現場を再現するんです。建物の並びや僕が歩いていた方向、犯人がどこから現れたかとかを警察官と一緒に演じるんです。

『ここで殴られて倒れたんですね』『はい、そうです』と。で、『そのとき倒れたのはこういう姿勢でしたか?』って言われて、何回も同じように動かされて。でもその間、ずっと手が痛くて痛くて…。それでも警察官に『あと少しですから、頑張ってください』って言われてつらかったですね」

その日の午後、岸辺さんが別の病院の整形外科にかかったところ、手を骨折していたことがわかり、全治2カ月の重傷と修正された。

「殴られて転んだときにとっさに手をついたので、骨折したみたいでした。また警察に診断書を持っていったら、警察の人たちの空気が変わった気がしました。それまで強盗事件だったのが、より罪が重い強盗致傷事件になりました」

●少年からの手紙にあった「犯行理由」

事件から3カ月後、岸辺さんを襲った男たちが逮捕されたという知らせがあった。強盗致傷容疑で逮捕されたのは、20代の男2人と10代の少年2人。岸辺さんの予想通り、若年層による犯行だった。

逮捕された直後、少年2人から謝罪の手紙が届いた。

「捕まってからすぐに、弁護士を通じて謝罪文が送られてきました。ただ、それも形式的なものでしたね。たぶん見本に習って弁護士と一緒に作ったんだと思います」

最初にヘルメットで殴ってきた少年からの謝罪文は、次のような内容だ。

「僕は◯◯さんに対し、ヘルメットで殴りつけ、顎や目、手などを骨折させる怪我を負わせ、パソコンやスマートフォン、エコバッグに入っていた物を奪い取り、お金やクレジットカードなども取るという強盗傷害事件を起こしてしまいました。

◯◯さんは許せない気持ちであると分かっていますが、謝まっても謝りきれない事をしてしまい罪の重みを今、とても強く感じていて、◯◯さんにどう伝えるべきかも分からないですが、手紙で謝らせて欲しいと思い、手紙を書かせていただきました。

僕は、お金が欲しいと思って、◯◯さんを襲った訳ではありません。先輩に言われて怖くなってしまい、◯◯さんを今回襲うことになってしまいました。言い訳にならないことは分かっていますが、先輩にできませんと言えなかったことをとても後悔しています」(一部抜粋、原文ママ)

●「きちんと裁かれてほしい」

手紙では続けて、被害弁償を申し出て、許しを求めていた。手紙を受け取った岸辺さんは、複雑な気持ちになったと語った。

「強盗という犯罪の全体像を描いたのは、手紙にある通り、この少年じゃないと思います。一緒にいた大人の男たちでしょう。でも、実際に殴るのは少年にやらせている。少年法で守られていて、捕まっても罪が重くならないですから。

強盗事件を起こした少年たちはどういう環境で育った子なのかなと考えてしまいますね。甘いかもしれないけど、許してあげたいという気持ちになります」

しかし、一方でこんな思いも抱えている。

「少年の1人はヘルメットで思いっきり人の頭を殴ってるんです。下手したら、相手は死ぬわけですよね。殴れと言われたとしても、そこはやっぱり止められなかったのかなとも思います」

少年たちの弁護人は示談を求めてきたが、岸辺さんは悩んだ末に断った。

「自分が示談に応じたことで、事件を許したと思われることが嫌だと思いました。それが、事件の裁判に影響を及ぼすかもしれない。

少年たちはそれぞれ少年法による判断があるのでしょうが、成人の男2人は裁判できちんと裁かれてほしいと思っています。裁判も被害者として最後まで見守るつもりです」

いまも、20代の男2人からの謝罪は届いていない。