(※写真はイメージです/PIXTA)

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厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」によると、65歳以上の男性単身高齢者貧困率はおよそ30%と、実に約3人に1人が貧困に陥っている状況です。こうしたなか、一言で「自助努力を」と突き放すのはあまりにも酷でしょう。とはいえ、年を重ねて新たな収入を増やすことも簡単ではない場合、どうすれば生活が楽になるのでしょうか? 月8万円の年金で暮らす79歳男性の事例をとおして、牧野寿和CFPが解説します。

骨身に染みる寒さを嘆く79歳独身の男性

ある地方都市に住むAさん(79歳)は、ひとりっ子で独身です。

両親が亡くなったあとは、借家だった実家もなくなり、親戚との付き合いもありません。

Aさんは高校卒業後に上京して、都内の工務店で修行して一流の指物職人(※)となりました。

(※)釘を使わず、木の板や棒を「ホゾ(ほぞ)」と呼ばれる凹凸の切り込みで組み合わせて、箪笥(たんす)、机、茶道具などの家具や調度品を作る職人のこと

しかし、数年前に体調を崩したことで仕事を辞め、以来年金と貯金で生活するようになったAさん。その貯金も底をついた数ヵ月前、現在のアパートに、高齢者ながら何とか入居できたのでした。

そんなAさんは現在、月8万円の年金収入から4万円の家賃を支払い、残りのお金で生活しています。そのため、冬は暖房器具をつけることなく、家の中でもダウンを着て、その上に毛布を重ねて寒さをしのぐなど、思いつく限りの節約に努めながら日々を過ごしていました。

孤独な日々を過ごすAさんのもとにひとりの来訪者が

寒さが本格化した12月のある日、Aさんの家に地域の民生委員Bさんが訪ねてきました。

Aさん越しに索漠たる部屋を見たBさんは、すぐに「この人は本当に困窮している」と感じたそうです。

親身に相談に乗ってくれるBさんに、Aさんは病院に行くお金がないことや、生活費をギリギリまで削っている日々の暮らしを教えてくれたといいます。

「私からしてみたら、年越しそばすら贅沢ですよ」

そう言って力なく笑うAさんに、Bさんは一時的に生活保護を受けるよう勧めました。

Aさんが生活保護の提案を拒否したワケ

Bさんの提案に対して、Aさんは当初拒んだそうです。

「生活保護って……税金で生活させてもらうのは気が引けます」

しかし、Bさんは「こういうときに助けてもらうための税金なんですから。まずは申請して、1日でも早く社会復帰しましょう」と粘り強く説得。その結果、最寄りの福祉事務所で生活保護の申請したのでした。

生活保護の被保護率

厚生労働省「生活保護の被保護者調査(令和7年9月分概数)」によると、生活保護を受けている被保護実人員は1,985,349人、被保護世帯数は1,645,714世帯です。そのうち高齢者の単身世帯は841,469人と構成比の51.4%を占めています。

生活保護制度とは

生活保護とは、世帯収入が厚生労働大臣の定める基準で計算される「最低生活費」を下回り、自分の資産や能力、社会保障制度をすべて活用しても、なお生活が困窮していると認められた場合に、最低生活費から年金や就労収入等などを差し引いた差額を、毎月保護費として支給される制度です。

保護費には地域や世帯の状況により、生活や住宅、教育、介護、医療、出産、生業、葬祭の8種類の扶助があります。

Aさんの場合、「生活扶助」として食費や光熱水費(冬季暖房費加算を含む)や、「住居扶助」として定められた基準額内のアパート家賃の実費支給、「医療扶助」として医療サービスの費用が直接医療機関へ支払われる(本人負担なし)など、扶助がされるでしょう。

なお、生活保護の受給中は、収入の状況を毎月申告しなければなりません。福祉事務所のケースワーカーが自宅を訪問調査し、就労の可能性があれば、就労に向けた助言や指導も行われます。

Aさんの巧みの技が復活

Aさんは、現在では貴重な巧みの技を持った指物職人です。ケースワーカーから、体調が回復したら地域のシルバー人材センターに登録することを勧められました。

その後、人材センターに登録してみたところ、徐々に仕事が舞い込むようになりました。Aさんは、今後収入を増やして生活保護から抜け出すつもりです。目標ができて生活に張り合いが出てきたと喜んでいたそうです。Bさんも、Aさんの明るい変化を知ってひと安心だったと話してくれました。

高齢者が収入を確保するには

65歳から70歳未満までは、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険に加入して働くことで、毎年1回10月分の年金から、受給額が増える「在職定時改定制度」があります。

また、同一世帯の全員が市町村民税非課税で、老齢基礎年金を受給している人のなかには、保険料納付済期間等に応じて、月額5,450円を基準に算出された「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金」が給付されます。

なお、給付金等は令和7年10月時点の金額です。この制度の詳細は、日本年金機構のサイトなどで確認してください。

ただし、高齢で就労してもその金額は限られています。だからこそ、困窮しないためには、現役中から「ねんきん定期便」などで将来の年金受給額を把握して、あらかじめ貯蓄をしておくなど老後生活に備えておく必要があります。

また、なんらかの原因で生活が苦しくなったら「ひとりで抱え込まない」ということが大切です。もし生活が困窮する状況に直面したら、地域の民生委員や自治体の福祉課などにためらわず相談しましょう。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員