記事のポイント
ヒューゴボスが2026年を調整の年とし、売上減と再成長に向けた再設計を進めている。
K字経済で中価格帯ブランドが苦戦し、ボスは差別化不足とブランドストーリーの弱さが課題になっている。
サブブランド整理やSKU削減、店舗閉鎖、サプライチェーン投資により収益性と競争力の回復を図っている。


過去4年の大半において、ヒューゴボスグループ(Hugo Boss Group)は再生モードにある企業のように振る舞ってきた。

同社は売上を倍増させ、ビジュアルアイデンティティを再構築し、2つの中核ブランドであるボス(Boss)とヒューゴ(Hugo)を文化的な会話の中心に戻すべく、印象的なセレブパートナー陣を起用した。

2022年のデイビッド・ベッカムに続き、ケンダル・ジェンナー、ナオミ・キャンベル、韓国俳優のイ・ミンホを起用。2024年にはジゼル・ブンチェン、パトリック・マホームズ、テニス選手のテイラー・フリッツ、ラッパーのガゾとも協業した。

ブランドはSNSを席巻し、ミラノファッションウィークのランウェイを光のショーで包み、「自分のボスになろう(Be Your Own Boss)」というストーリーを強く押し出した。表面的には勢いがあるように見えた。

しかし、このストーリーはほころびはじめている。

売上は維持も勢いが鈍化し、2026年は「調整の年」へ



2024年、ヒューゴボスグループの売上は3%増の43億ユーロ(約4685億円)となった一方、収益性は低下。2025年の売上は横ばいの42〜44億ユーロ(約4570億〜4790億円)になると予測されている。

経営陣は3月のアップデートでも、2025年第3四半期決算でも同様の見通しを繰り返した。そして12月3日の戦略更新で、2026年を「統合(調整)の年」と位置づけ、中〜高一桁台の売上減を計画。2027年に成長へ復帰するとした。

2026年の予測理由の一部は、より広い経済にある。

「K字経済」で中間価格帯ブランドが苦戦



「消費者マインドはどこへ行っても落ち込んでいる」と、ヒューゴボスグループCEOのダニエル・グリーダー氏は今週の戦略更新で語った。

グリーダー氏は、米国の主要市場でモールの来客数が「20〜30%減少」していると指摘。この会議では、2021年に開始した成長プランの次フェーズとなる「クレーム・ファイブ・タッチダウン(Claim 5 Touchdown)」も発表され、戦略を2028年まで延長することが明らかになった。ブランド側は変更点についてコメントを控えた。

ロケーションインテリジェンスプラットフォーム、プレイサー・エーアイ(Placer.ai)の小売ストラテジスト、エリザベス・ラフォンテーヌ氏は、現在の小売環境を「K字経済」と表現した。

「バリューに特化した小売企業は好調で、高所得者向け企業も好調。その一方で、(ボスのような)伝統的アパレル企業は中間層に位置し、注目争いで苦戦している」と述べた。

しかし、世界銀行グループ出身の経済学者ブライス・クイリン氏は、この不振を消費者マインドのせいにする点に疑問を呈した。

「コーチ(Coach)やラルフローレン(Ralph Lauren)のようなアクセシブルラグジュアリーブランドは好調だ。ヒューゴボスの問題はマクロ要因だけでなくブランド固有のものでもある」と語った。

11月下旬、ラグジュアリー消費減速について言及したグローバルコンサルティングのベイン(Bain)でシニアパートナーを務めるフェデリカ・レバート氏は、「より手頃な価格だけでは、今の消費者には届かない。より目の肥えた購買層に応えるため、感情的価値も高める必要がある」と述べた。

ここがまさにボスの苦戦している部分である。

差別化不足とブランドストーリーの弱さが明らかに



ここ数年、著名アンバサダーを多数起用してきたにもかかわらず、ボスは「市場での差別化が弱く、デジタルと実店舗の接点全体でブランドストーリーが平板だ」とクイリン氏は指摘する。

今週発表されたローンチメトリックス(Launchmetrics)の「年次報告(Year in Review)」レポートによれば、ボスの2026年春ミラノショーは大きな露出を得たものの、メディアインパクトバリューでは競合に及ばなかった。

ヒューゴボスグループは2021年、ブランドの現代化と成長加速のため「クレーム・ファイブ」を開始した。

ブランド、プロダクト、デジタル、流通、オペレーションという5本柱で構成され、すべての柱が「魅力度向上と効率改善」を目的としていた。

その一環として、ボスは5億ユーロ(約545億円)を店舗に投資し、現在3000万人の会員をもつロイヤルティプログラムも立ち上げた。しかしブランドストラテジストのアナ・アンジェリッチ氏によれば、この顧客基盤は十分に活用されていない。

ボスとヒューゴのブランド構造



同社のポートフォリオは、メンズウェアを軸とするプレミアムブランドの「ボス」(サブブランド「ボス・キャメル」、「ボス・ブラック」、「ボス・グリ
ーン」)と、よりストリートテイストで若者向けレーベル「ヒューゴ」(サブブランド「ヒューゴ・レッド」、「ヒューゴ・ブルー」)に分かれている。

ボス事業の中心は依然としてメンズで、テーラードが主力商品となっている。ボスのスーツは350〜500ユーロ(約3万8000〜5万4500円)、シャツは99〜149ユーロ(約1万500〜1万6000円)、カジュアルはさらに少し上がる。

クレーム・ファイブのもとでウィメンズは売上が3倍になったが、業界関係者によれば依然として明確な視点が欠けているという。姉妹ブランドのヒューゴは若い購買層に向けており、価格帯は120〜250ユーロ(約1万3000〜2万7000円)と低めだ。

2026年に向けたサブブランド整理とSKU削減



更新された計画のもと、グリーダー氏はボスが「規模拡大より品質向上」を重視していると述べ、チーフセールスオフィサーのオリバー・ティム氏は「スケールする前にブランドのDNAを定義する必要がある」と語った。

今後、ブランドのポジショニングを明確化するために、サブレーベルを整理する。

ボス・キャメル(クラシックテーラリング)はブラック(洗練されたアウターウェアとスーツ)に統合され、ヒューゴ・レッド(よりファッション志向)は縮小される。一方、ヒューゴ・ブルー(デニムとカジュアル)は拡大する。

またボス・グリーン(アクティブパフォーマンス)は、米国とアジアで独立したスポーツパフォーマンスコンセプトとして試験的に展開される。

商品構成もスリム化される。「コレクションが大きすぎた」とティム氏は語り、SKU数はすでに25%削減。2028年までにさらに20%削減する。

「店に入っても心を引くものが瞬時に目に入らなければ、消費者はすぐに去ってしまう」とラフォンテーヌ氏は述べ、ボスは広げすぎたため鋭さを失ったと指摘した。

店舗戦略の見直しとマーケティング方針



その一環として、今後3年で約50店舗を閉鎖するとグリーダー氏は述べた。

フットトラフィックの減少が理由だが、成功している立地への集中を強調した。それでも同社は世界に1450以上の店舗を維持する。

マーケティングには売上の7%を投資し、地域別アンバサダーの起用も続ける。

アンジェリッチ氏は新戦略を評価し、「非常に明確な戦略であり、誰にでも何でも提供しようとせず、既存顧客と優良見込み客にマーケティング投資を集中させ、ブランドエクイティを最大化しようとしている」と述べた。

さらに「業績が苦しいときほど文化的関連性が重要だ。文化的に存在感がなく業績も悪い、という状況が最悪である」と述べた。

利益率改善の裏で進むサプライチェーン投資と課題



財務面では、売上が落ちるなかでも利益率は安定している。粗利益率は61%以上で、2026年は62%超が見込まれる。

同社はブランド横断でサプライチェーンに多額投資を行っており、ボスには5000万ユーロ(約54億円)の「デジタルツイン」プログラムが導入されている。これは供給網をリアルタイムでデータ化したモデルで、予測精度の向上、生産スピードの改善、在庫削減に寄与する。

また、1億ユーロ(約108億円)の自動化投資としてドイツに新ロボティック倉庫を設置し、フルフィルメントコスト削減と、高速・柔軟な物流ネットワークの構築をめざしている。

しかしクイリン氏は「サプライチェーン効率は永続的に成長の代わりにはならない。長期的な強さには、少なくとも緩やかな売上回復が必要だ」と述べた。

[原文:Luxury Briefing: Inside Hugo Boss’s plans to reset in 2026

Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)