(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢者の単身生活が増加する中、「見守っているつもりだったのに、異変に気づけなかった」という家族の後悔が後を絶ちません。内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、2020年時点で、65歳以上の高齢者のうち一人暮らしの割合は男性で約15.0%、女性で約22.1%。年々その割合は増加しています。

「今日は寒いね」--いつも通りの朝の一言だったはずが

東京都内に住む会社員の吉岡健太さん(仮名・58歳)は、母・和代さん(仮名・82歳)と二人暮らしだった父の死後、母がひとりで暮らす実家(千葉県)と週に数回LINEでやりとりをしていました。

「母はスマホに不慣れながらも、毎朝『おはよう』『寒いね』『今日は何してるの?』と短いメッセージをくれるのが習慣でした。たまにスタンプだけの日もありましたが、それが“変わらない日常”だと思っていたんです」

しかしある日、「今日は寒いね」という一文を最後に、返信が途絶えました。

その日の夜、健太さんは「寒かったけど大丈夫だった?」といった短いメッセージを送ったものの、既読がつかず、電話をかけても応答はありませんでした。

「翌朝も既読がつかなくて、不安が募りました。母は年に数回しか体調を崩さない人だったので、なおさら“おかしい”と感じたんです」

そして3日目の朝、仕事を早退して電車で実家へ向かいました。鍵は以前預かっていた予備のもの。インターホンを押しても応答はなく、玄関を開けると――室内は静まり返っていました。

「電気は点いたままで、テレビもついていたんです。だけど、どこからも生活音がしなくて。呼びかけても返事はなく、キッチンにも、洗面所にもいなくて……」

和代さんは寝室で、布団のそばに座り込むような姿勢で倒れていました。顔は穏やかで、苦しんだ様子は見られませんでした。

警察と救急に連絡し、死因は心不全と判断されました。専門家によれば、安静時に突然発症するタイプの心不全では、座ったまま意識を失い、そのまま亡くなるケースもあるとのことです。

和代さんは高血圧の持病を持っていたものの、通院は月1回、日常生活も問題なく送っていたといいます。

厚生労働省『令和6年 人口動態統計月報年計(概数)の概況』によれば、女性における死因の上位には「心疾患(3位)」「脳血管疾患(4位)」が含まれており、突然の心臓発作による死亡例も多く報告されています。

孤独死」ではなかったが…遅れた到着がもたらした喪失感

健太さんの心に残ったのは、「あと1日早く行っていれば」「なぜあのとき電話をしなかったのか」という強い後悔でした。

「いつも通りのメッセージが、“最後”になるなんて思ってもいませんでした。毎日、LINEの通知を見るたびに“また来るんじゃないか”って思ってしまうんです」

高齢単身世帯が増える中で、こうした“静かな最期”をどう防ぐかが社会的な課題となっています。

現在、自治体や民間企業が提供する「見守りサービス」や「高齢者向け通知機能付き家電」などの仕組みが広がっています。

●ポットや冷蔵庫の開閉を感知し、一定時間使用がないと家族に通知が届くサービス

高齢者のスマートフォンに、緊急時自動発信機能を備えるアプリ

●地域包括支援センターによる訪問・安否確認(要登録)

厚労省や総務省が推進する「地域共生社会」づくりの一環として、こうした制度は今後ますます重要になります。

最後に、健太さんはこう語ってくれました。

「母は“迷惑をかけたくない”という気持ちが強い人でした。でも、誰にも気づかれずに亡くなるなんて、本人も本意ではなかったと思います。もっとちゃんと話しておけばよかった。もっと“もしもの時”の準備をしておけばよかった。そう思うと、悔しさが止まりません」

「老後は元気でいられればそれでいい」と思いがちですが、“元気なまま突然終わる”という現実が、今この国では確かに増えています。わずかなサインに気づくのが難しい今だからこそ、家族だけで抱え込まず、外部の仕組みに頼ることも、後悔を減らす選択肢のひとつです。