富士通のパソコン「FMV」が好調だ。そこには、2021年に社長に就任した大隈健史氏による改革がある。象徴的なのが、Z世代向けの商品開発プロジェクトだ。平均年齢24.5歳という「異例」のチームによる取り組みで、社員の意識は大きく変化したという。大隈社長に、ライターの鬼頭勇大さんが聞いた――。
撮影=プレジデントオンライン編集部

■新社長就任から2年あまりでパソコンシェア1位に

「FMV」ブランドのパソコンを手掛ける富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が好調だ。前身の富士通時代から40年以上も“万年2位”だった国内個人向けパソコン市場で、2023年度に初となるシェアトップへ輝くと直近の2025年8月までがっちりとキープしている。

そこには2021年に就任した大隈健史社長による社員の意識改革があった。変化の模様は前編で記したが、その改革の象徴ともいえるのが、2022年秋に若手社員主導で始めた「FMV From Zero Project」だった。

同社としては初となる若手社員を集めた社長直下のプロジェクトはどのようなものだったのか。それを通じて、2位に甘んじていた企業はどのように変化したのか。舞台裏を大隈社長に聞いた。

大隈社長によると、個人向けパソコンには大きく分けて3つのセグメントがある。

一つが、オールインワン。これはデスクトップなど多機能かつ持ち運びをあまり想定しないものが該当する。そして大画面のノートパソコンと、より携帯性に長けたモバイルノートパソコン

FMVはこのうちオールインワンでシェア1位、大画面でも1位タイだった。一方で「明確に劣後していた」(大隈社長)のがモバイルノートパソコンだ。

大学生から言われた率直な意見

大隈社長は「FMVは長期間かけて築いたブランドでもあり、壮年〜高齢層の顧客に強い特徴がありました。一方、若い世代をどう攻略するか。これがシェア1位を奪う上でのキーとなるはずだという確信がありました」と話す。

「特に街に出ると、寂しい思いをするんですよ。カフェなどに入るとノートパソコンを開いて作業している人はたくさんいますが、リンゴのマークばかりで富士通のマークが入ったものは一つもない。誰も使っていないんです。これは非常に深刻だな、と」(大隈社長)

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/damircudic

そこでまず、大学の研究室などと連携しながら市場の調査を行った。大隈社長は学生たちからの意見を振り返り「ボロクソに言われましたよ」と笑いながら話す。

例えば、まず寄せられたのが「とにかくうるさい」という声だった。教室や図書館パソコンを開いて何かしようとすると、冷却ファンが音を立てて稼働する――これが学生たちからすると「恥ずかしい」となり、不評だった。

■なぜ「耳の痛い話」を聞こうと考えたのか

加えて突き付けられたのが、従来FMVが強みとして訴求してきた「軽量性」が、若者のニーズにはそこまで合致していなかったこと。学生たちは教科書にプリントなどたくさんのアイテムをカバンに詰め込んでいる。パソコンがいくら軽かろうが、そもそも荷物が重たいため大きな訴求点になりにくかったのだ。

別の調査では、そもそもFMVがパソコンのブランドという若年層に認知されていなかった。さらに、プロジェクトチームが若者や大学生の声から導き出したのは「若年層にとってパソコンとは興味がないもので、意識の外側にあるプロダクト」というものだった。

なぜここまでして若者の声を本気で聞こうとしたのか。

「富士通という歴史ある企業の中では、どうしても長年続いてきた慣習や掟のようなものが知らず知らずに組織の柔軟性を奪っていたと感じます。なぜこうなのか、を問うことなく昔からこうだからで済まされてしまうのは、大企業の一端でしょう。

この病に対しては、正面から問い直すことが必要だと私は感じています。会社として掟を守るのではなく、『今の時代にあった価値を提供すること』がやはり目的であるべきです」(大隈社長)

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これまでの既成概念を取り払うこともプロジェクトの狙いだったと大隈社長は話す。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■従来とは異なる商品企画方法

こうした下準備を踏まえ、2022年10月に「FMV From Zero Project」を立ち上げた。文字通り、ゼロベースから若年層、特にZ世代の支持を得るために何をすべきかを考えるプロジェクトだ。メンバーの平均年齢は24.5歳。社内の各部署から自薦・他薦で7人を抜擢した。同社としては初の取り組みである、社長直下のプロジェクトとした。

若年層に売るために、若い社員でチームをつくる。それだけが同プロジェクトの特徴ではない。「社内の風土だけでなく、ものづくりに対する姿勢を変えたかった」(大隈社長)というように、従来とは異なる商品企画方法をとった。

これまでのように性能やコスト、デザインなどから最大公約数的に企画を考えるのではなく、とにかく「コンセプト命」(大隈社長)で考えること。そのため、パソコンにまつわる“常識”は取り払い、「パソコン開発じゃなくてもいい」という、とにかく白紙からコンセプトを練り上げていった。

その結果生まれたのが「ノイズレスで心地よい」というコンセプトだ。これらをベースにしつつ、社歴も浅く立場が弱くなりがちな若手を社長が全面的にフォローする形で、商品のブラッシュアップを行っていった。

大隈社長によると、通常の商品開発は、既存のものから後継機を生み出す場合は企画から数カ月。その他もだいたい1年くらいで市場へ投入される。一方、FMV Note Cを発売したのは2025年1月で、プロジェクト立ち上げから2年以上もかかった。

画像提供=富士通クライアントコンピューティング
「FMV Note C」のプロモーションにもこれまでになく若者世代の声を反映したという。 - 画像提供=富士通クライアントコンピューティング

■「説明書を省く」でいいのか

特に議論を呼んだものの一つがカラーリングだ。FMV Note Cは、外側の色を統一しつつパソコンを開いた内側のカラーリングに3つのバリエーションを設けている。それも、それぞれ「ニュアンスカラー」と呼ばれる淡い色使いだ。黒や赤など、はっきりとした色使いがメインだった従来パソコンと比較して「前例にはない色使い」だったことが議論を呼んだ。

大隈社長が回想する。

「私ふくめ、経験が長いほど“違和感”があるバリエーションだったなと。実際、私が開発メンバーだったら選ばない色だなと思いましたよ。ただ、今回の商品は私たちのようなおじさんたちの年齢層がメインターゲットではありません。とにかく若手の意見を信じてみようと、周囲を説得していきました」

保証書・説明書を付けず、必要な場合は付属しているQRコードを読み込んでもらう点も、前例がないチャレンジとなった。こちらも「必要な品質基準を考えると、あった方が良いのでは」という異論が相次いだものの、大隈社長は「こうした意見は内向きでしかない」と両断する。

画像提供=富士通クライアントコンピューティング
Note Cのカラーバリエーション。 - 画像提供=富士通クライアントコンピューティング

■ブランドマネージャーは20代

若年層に売れているようなデバイスを考えると、とにかくシンプルですよね。パッケージを開けたら、商品があるだけ。わかりやすいのがiPhoneで、説明書なんてついてないじゃないですか。そもそも若い人なら、気になったことはスマホなりパソコンなりで調べるはず。そう考えれば、確かにいらないんじゃないかなと、なるほどなと思いましたね。

カラーバリエーションや保証書を含め、社内にはなかなか腹落ちしなかったベテランもいたと思います。ただ、いざ仕様が固まった後は『よし、自分たちの腕を見せてやろう。仕様よりも良いものを作ってやろう』と、ベテランたちの目つきが変わりました。ここはやっぱりプロ集団だなあと誇らしさを感じましたね」

若手のコンセプトとベテランの技術を組み合わせ、2年ほどをかけて生まれたFMV Note C。特に大隈社長が気に入っているのが「マテリアル感」だ。

例えば、パソコンのフチ。従来のFMVといえば角度がきつくぼってりとした印象があった一方、FMV Note Cではスタイリッシュな丸みを実現した。細部にこうした、機能だけでない「モノとしての良さ」が光る。

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これまでのFMVシリーズにはなかった「丸み」。 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

こうしたモノとしての良さや商品のコンセプト、世界観を伝える上で社内に存在しなかった「ブランドマネージャー」というポストを用意し、プロジェクトメンバーのうち20代の3人を配置した。

■社内の常識を疑う覚悟

「ブランドマネージャーは、いわば『コンセプトの守り神』です。企画段階で携わるのは数人ですが、プロダクトの開発、販促へとフェイズが進むうちにどんどんと人数が増えていきます。ここでしっかり手綱を握る人がいないと、作り込んだコンセプトが薄まってしまいますから『この人が良いと思うなら良いし、ダメならダメ』という判断基準を担うポストを新設しました」

パソコンの常識を取り払って前例のない要素を詰め込んだというFMV Note C。この製品ができたのは、「社内の常識を疑う覚悟があったから」と大隈社長は語る。

「今回のプロジェクトでは、社内では若手がコンセプトを考え、ベテランが技術で支える“逆転の構図”を意図的に作りました。これにより、若者の感性と社内の技術力が融合し、本質的な商品開発ができたと思っています」

では、実際の売れ行きはどうなのか。大隈社長は「想定並だが、もう一段の努力が必要だと感じています」と打ち明ける。

例えば、リリースした時期はメインターゲットである学生たちがパソコンを購入する時期で、想定以上の初速を見せたものの、その後に若干の伸び悩みに直面した。「新商品だけでなく、ブランド価値をいかに高めるかが、今後の課題です」と大隈社長。

■トップメーカーとしての役割

弱みだった若年層向けに新たな商品を投下し、シェア1位の座を固めているFCCL。今後は国産メーカーならではの価値も追求していく考えだ。

「私が社長に就任した当時は、全社売り上げのうち海外が4割を占めていましたが、直近では富士通の意向もあって、国内へとシフトしています。これは、海外までをにらんだ最大公約数的な開発をせず、国内だけを見て尖った企画開発ができるという点で意味のある方針転換だと思っています。

当社は島根に工場を有していることから、メイドインジャパンのプレミアムな価値を追求し、適切な価格で適切な対価を得るビジネスを確立していきます。FMV Note Cに関しても、本当は安くしようと思えばもっと安くできましたし、そうすれば売れることはわかっていました。とはいえ、シェアトップのわれわれがそうした過度な価格競争をリードするのは健全ではありません。

コストだけではない価値を、業界のトップメーカーとして追求していくことが、当社の役目だと考えています」

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大隈 健史(おおくま・たけし)
富士通クライアントコンピューティング社長
早稲田大学大学院理工学研究科を卒業後、McKinsey&Companyで日本支社・フランクフルト支社で、8年間にわたりコンサルティングを担当。その後、Lenovo Groupに入社し、香港・東京・シンガポールにて、9年間にわたりアジアパシフィック地域におけるPCおよびスマートデバイス事業グループの中小企業セグメントを統括するなど要職を歴任。2021年4月2日より、富士通クライアントコンピューティングの代表取締役に就任。
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鬼頭 勇大(きとう・ゆうだい)
フリーライター・編集者
広島カープの熱狂的ファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。
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(富士通クライアントコンピューティング社長 大隈 健史、フリーライター・編集者 鬼頭 勇大)