大河原克行のNewsInsight 第393回 パナソニック空質空調のチェコ新工場が本格稼働、ヒートポンプ技術で欧州事業の拡大狙う

パナソニック空質空調社は、ヒートポンプ式温水給湯暖房機(Air to Water=A2W)の生産を行うチェコ工場に新棟を建設し、本格稼働を開始した。
2025年8月29日に、チェコ・ピルゼンのチェコ工場において、竣工式を開催。パナソニック空質空調社の片山栄一社長は、「パナソニックの空質空調事業の最大の強みであるヒートポンプ技術は、地球環境の保全、地域社会における人々の生活の向上、将来を支えることに貢献する。ガスからヒートポンプへの世界的な移行は必然であり、責任をもってこの動きを主導する」と宣言。「パナソニックにとって、欧州は最も重要な海外市場のひとつである。チェコ工場は、もともとはテレビの生産拠点であったが、新たな時代の要請に適合する形で転換した。チェコにおける現地生産能力を最大限に活用し、最重要な製造拠点のひとつと位置づけ、欧州事業のさらなる拡大を支えることになる」と述べた。



また、チェコ共和国のペトル・フィアラ首相は、「ここでヒートポンプが生産されることは、将来の欧州のエネルギー需要にとって極めて重要なことであり、チェコは、それに適応する姿を示すことができる。また、チェコの科学が、国際企業と連携する事例ともなる。専門知識、現代技術、強力な研究パートナー、ビジネスに適した環境を提供できる」と述べた。





さらに、パナソニックHVACチェコの水田鉄昌社長は、「今回のチェコ工場の新棟建設は、パナソニックおよび欧州における生産活動にとって重要な節目になる」と前置きし、「単なるスペースや生産能力の増強ではない。欧州における持続可能な冷暖房技術のリーディングメーカーになるという目標を明確にしたものである。チェコ工場から、欧州のお客様に向けて、それぞれのニーズに合わせた商品を開発、提供していく」と述べた。さらに、「現在、ヒートポンプの主要部品の大半をピルゼンで生産しており、高い自立性を確保し、最高の品質を保証し、コスト効率を管理している。今後は、先進的な生産機械やロボット技術、その他の自動化技術を活用するとともに、AIベースのデジタル技術を活用したスマートオペレーション企業になることや、自動化とAIを用いて人と機械の相互作用をさらに最適化することを目指す」と述べた。

チェコ工場は、パナソニック空質空調社の傘下にあるパナソニックHVACチェコ(PHVACCZ)が運営しており、欧州市場向けのA2Wの生産拠点となる。従業員数は約700人。敷地面積は16万6000平方メートルで、延床面積は、既存棟の3万8000平方メートルに、新棟の10万2000平方メートルが加わり、合計で14万平方メートルと一気に拡大する。
1996年3月に設立した際には、テレビの生産拠点であり、2022年までに4000万台のテレビと、150万台のブルーレイレコーダーを生産した実績を持つ。A2Wの生産は、2018年から開始。当初は室内機(給湯ユニット)だけの生産だったが、2023年から室外機(ヒートポンプユニット)を生産しており、これまでに生産したA2Wは、約50万台に達している。また、2024年には、業務用A2Wの生産を開始している。
パナソニック 空質空調社 常務A2W&水ソリューションズ事業部長の福永敏克氏は、「チェコ工場には、20年以上勤務している社員もおり、離職率が低いという傾向がある。テレビ工場としてのノウハウを生かして、A2Wの生産を開始できたことが、品質維持や生産性向上といった点で効果を発揮することにつながっている」という。
なお、自然冷媒(R290)を採用した室外機を欧州で生産したのは、日系メーカーでは初めてだという。

新棟では、1階で室外機を生産するとともに、A2Wに使用する各種部品を生産。2階で室内機の生産を行う。今後はタンクの内製化も進める予定だ。
A2Wは、大気中の熱を利用して温水をつくり、建物に循環させて暖房する仕組みであり、ガスボイラーや石油ボイラーなどの化石燃料を用いた暖房機器に比べてCO2排出量を抑えることができ、環境への負荷が少ない点が特徴だ。欧州では、今後の主流になる空調システムと位置づけられている。
パナソニックでは、5kWから30kWまでをカバーする3機種の室外機を、欧州市場に投入。室内機では、Control Module、Bi-Block、All in Oneをラインアップし、タンク容量が120Lから260Lまでの製品を用意している。Control Moduleでは、ニーズにあわせて柔軟に組み替えることができるという。
今回のチェコ工場の新棟建設は、脱炭素社会の実現、環境意識の高まりを背景に、欧州における今後の需要拡大を捉えたもので、増産体制の構築を目的にしている。新棟の稼働により、生産ラインを増設し、従来の年間15万台の生産能力を、最大70万台にまで拡張できるようになる。これは、当初計画を約20%上回る水準だ。
また、現在、80台導入しているロボットの活用などを通じた自動化を進めるほか、2028年までに、源泉工程といわれる部品加工工程で100%無人化を実現するほか、部品組付工程では、約2倍の自動化率を目指す。さらに、コスト競争力強化、品質管理体制の強化を目的に、室外機外装部品や空気熱交換器、銅配管、プリント基板などの内製化を進め、基幹部品の内製化率を約70%にまで高める。
加えて、2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、新棟には1MWの太陽光発電システムを設置するほか、採光を促進する天窓の導入、屋上グリーンプラントの導入などにより、2025年にはCO2排出量ゼロ化を目指す。

パナソニックHVACチェコの水田鉄昌社長は、「チェコ工場は、環境に配慮した製品開発から、効率的な生産、供給まで、 欧州市場のニーズに応える総合的なソリューションを提供することを目指している。テレビ生産の時代から利用している設備の活用や自動化の促進、材料コストの最適化と内製化の拡大に加えて、高度なスキルを持つ技術者により、ロボット技術などの最先端技術を活用し、これをグローバルに発信していくことができる。また、欧州の拠点間の連携、グローバルでの情報共有などを通じて、市場変化への迅速な対応、リードタイムの短縮といったことも実現できる」としたほか、「生産部門と営業部門が連携した体制を整え、R290トレーニングセンターの設置、先進的なマーケットサービス体制の構築、お客様との直接的な対話を促進している」などとした。








現在、A2W事業を担当しているのは、パナソニック空質空調社が、2025年4月に新設したA2W&水ソリューション事業部で、欧州市場向けのA2Wのほか、日本や北米、大洋州を対象にしたヒートポンプ給湯機(エコキュート)、東南アジア向けのホームシャワー、ポンプ、水浄化機器(POE)を取り扱っている。これまで分かれていたA2Wとエコキュートの事業を統合しており、同じ要素技術を活用していることが組織統合の背景にある。
主力となる欧州のA2W事業は、2022年にガス価格の高騰と、補助金制度の広がりにより、バブル的な需要が見られたが、各国を取り巻く環境の変化により、補助金制度の動きなどが一巡したことで、2024年度は前年実績を大きく下回る結果となっている。だが、2024年度下期以降、需要の底を打ったことや、在庫調整に目途がついたことから、今後は緩やかな市場回復を想定。新築へのボイラー導入が規制されるといった動きや、各国での補助金制度の広がりなどを背景に、2030年度には300万台規模の需要を想定している。

パナソニック 空質空調社 常務A2W&水ソリューションズ事業部長の福永敏克氏は、「2030年度には600万台の需要を予測していた時期もあり、それに比べると縮小しているが、A2Wは脱炭素の大きな流れを捉える商品であり、ボイラーからの置き換えを進行させる商品である。パナソニックは、その需要に応え、環境貢献を果たしていく」とし、「パナソニックのA2Wは、マイナス20度の低外気温になっても能力が落ちないT-CAPにより、ボイラーからの置き換えに適しているほか、業界初のR290採用機種の発売、伊NNOVAとの協業による制御技術などの採用、独tado°との協業による室内機器の最適制御技術の採用などが、差別化点になっている」とする。tado°のバルブを導入している100万件の顧客に対して、パナソニックのA2Wを組み合わせることで、さらに光熱費を削減できたり、サブスクリプションによる販売を行ったりといった共同提案を行っているという。

また、パナソニック独自のHVAC&R 専門販売体制を敷き、2008年から欧州全域でA2Wの販売を開始。2018年にはマレーシアからチェコに生産を移管したほか、2023年にはイタリアにR&D拠点を開設して、ローカルフィット型の機能開発を進めている。これにより、欧州地域での開発、生産、販売を自立させた体制を構築する。

一方、A2Wの需要拡大には、補助金制度の動向が強く影響することになる。各国政府では、A2Wに対する補助金制度を用意しており、ポーランドでは、EUで生産したA2Wだけを補助金の対象とすることが検討されている。パナソニックでは、欧州各国の政策を注視しながら、自らの強みを発揮できる提案を進めていくという。


「A2Wは、導入コストが高いが、長期間利用するほど、ランニングコストは安くなる。電気自動車と同じで、環境政策に基づいて、各国政府が牽引するべき商品だと考えている。A2Wの良さをアピールしていくのはメーカーの仕事であるが、補助金制度が広がれば、需要の傾きが変わってくるだろう。足元は厳しくても、必ず成長する市場である。パナソニックのA2Wは、ドイツ、英国、フランスに加えて、ポーランドでも高い成長を遂げている。新棟を稼働させたチェコでも事業拡大を進めたい。今後の市場動向を見ながら、欧州市場への投資判断をしていく」と述べた。

