排気量4097ccでも98ps マーキュリー・モナークとフォード・グラナダ(1) パワーやスピードは罪
4.1L直6エンジンの最高出力は98ps
マーキュリー・モナークとフォード・グラナダが誕生したのは、1974年。アメリカは、パワーやスピードを罪にしたような、重大な法案が成立した時期にあった。
【画像】無力感漂う高級車 マーキュリー・モナーク ベンチマークのW114 同時期の英フォードとキャデラックも 全117枚
モナークとグラナダは、アメリカン・フルサイズの一般的なサルーンより数100kg軽く、数100mm短かった。それでも運転の魅力に溢れるとは呼べず、電子制御の点火システムを採用しながら、4.1L直列6気筒エンジンが叶えた馬力は驚くほど低かった。

マーキュリー・モナーク(1974〜1980年/北米仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
触媒にセンサー、燃え残りのガソリンを再燃焼させるポジティブ・クランクケース・ベンチレーション(PCV)、排気ガス再循環システムといった、環境負荷を減らす新技術を獲得していた。反面、最高出力は98psに留まった。
燃費を重視する人のため、3.3L仕様も用意された。そちらは76ps。排気量1.0L当たり、25psにも届いていなかった。これでは物足りないという場合は、V8エンジンも選ぶことはできた。5.8Lから得た最高出力は、142psだったが。
最も倹約な3.3L直6エンジンによる0-97km/h加速は、23.0秒。フォードとマーキュリーも、この2台が速いとは主張しなかった。
そのかわり、フルサイズ・サルーンと同等の車内空間は与えられていた。豪華で特別な雰囲気づくりにも、気は配られた。5.7-10.6km/Lという今ではパッとしない燃費も、強みの1つにはなった。
6年間ほどに約200万台がラインオフ
惨めなスペックとは裏腹に、モナークとグラナダは北米で桁外れに売れた。マーケティングの鬼才、リー・アイアコッカ氏の手腕により、6年ほどの間に両ブランド合計で約200万台がラインオフしている。
彼は、フォード・マスタングでポニーカーを、リンカーン・コンチネンタル MkIIIでパーソナル・ラグジュアリーカーという、新カテゴリーの創出へ成功。1970年代の稼ぎ頭は、牙の抜かれたマッスルカーやフルサイズではないことも予見した。

マーキュリー・モナーク(1974〜1980年/北米仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
アイアコッカが注目したのは、欧州で作られる上級スポーツサルーンのアメリカ版。1973年に世界を襲ったオイルショックを経て、ダウンサイジングしたモデルが必要だと考えた。
メルセデス・ベンツが作る小柄なサルーンは、北米で支持を急上昇させていた。そのサイズ感を踏襲しつつ、技術やデザイン、価格設定でフォードの基準を満たした高級志向な1台こそ、市場が求めているものだと判断したのだ。
それは同時に、倹約的な小型車に乗っている、と感じさせないことがカギだった。2番目のモデルを、妥協して選びたい人は多くない。
北米各地での顧客調査で、アイアコッカの狙いが的を得ていることは明白だった。発表の翌年、1975年には、グラナダは1番人気の新モデルへ躍進。同時期のW114/W116型メルセデス・ベンツとの比較広告が、効果的に機能してもいた。
価格はゴルフ スタイリングはキャデラック
「価格はフォルクスワーゲン・ラビット(初代ゴルフ)と同じ。でも、スタイリングはキャデラックのよう」。広告には、こんなキャッチコピーが踊った。ホテルのエントランスで待つ駐車係が、実際にキャデラックと間違うことはあったのだろうか。
無作為に選出されたユーザーが、モナークはメルセデス・ベンツより静かで滑らかだと発言したことも、広告では利用された。最高出力は遥かに軽いラビットと同等でも、0-97km/h加速時間は遅いことへ、触れられることはなかったが。

マーキュリー・モナーク(1974〜1980年/北米仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
オイルショック以降、北米のユーザーは確かにコンパクトカーへの関心を強めていた。フォードは、ゼネラルモーターズ(GM)ほど迅速に対応したわけではないが、ヨーロピアンなサルーンの潜在的な需要を発見することはできたといえる。
モナークとグラナダがベースとしたのは、1970年に発売されたフォード・マーベリック。その起源は、1960年のフォード・ファルコンへ遡った。
マーベリックXという開発コードが与えられ、フロアパンを改良。ほぼ同じ見た目で、廉価版はフォードから、上級版がマーキュリーからリリースされた。オペラウィンドウ・クーペと、ギア社による洒落たトリムパッケージも、両ブランドに設定された。
ベンチマークはW114型メルセデス・ベンツ
ホイールベースは2794mmで、全長は5080mm。小柄といっても、ボルボの上級サルーン、164や、後に7シリーズへ進化するE3型のBMW 2500/2800より大きかった。
とはいえ、グラナダのベースモデルの北米価格は4000ドル以下。競合に見られていた輸入モデルより、大幅に安かった。生産工場は、北米各地の4か所。マーベリックと、並行して作られている。

マーキュリー・モナーク(1974〜1980年/北米仕様) マックス・エドレストン(Max Edleston)
サスペンションは、フロントがウイッシュボーン式のコイルスプリングで、リアはリジッドアクスルのリーフスプリング。ラバーブッシュを多用し、フルサイズを想像させるしっとりした乗り心地を実現していた。
開発時にベンチマークとなったのは、W114型のメルセデス・ベンツ280E。スタイリングは、アメリカンな雰囲気にドイツ的な風合いをミックス。コピーライターは、フロントグリルを「ファイン」、テールライトを「ヨーロピアン・スタイル」と呼んだ。
インテリアは、アメリカン・フルサイズを意識。視覚的には確かにラグジュアリーで、高級車として受け止めるのには充分といえた。
最上級グレードに据えられたのが、ギア仕様。ナイロン素材のカシミア・クロスシートにピンストライプ、フェイクウッドのパネルやビニール製ボディトリムなどで、差別化が図られた。
オプションの選択肢は、多岐に渡った。レザーシートにエアコン、アルミホイールといった定番アイテムに加えて、油圧制御のアンチロックブレーキ付き4輪ディスクブレーキも選択できた。これは、パワーステアリング用のポンプが利用された。
この続きは、マーキュリー・モナークとフォード・グラナダ(2)にて。
