「ビール一杯で3時間」の客増加…「実感ない景気回復」の真相

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時代が平成から令和に代わり、表面的には景気回復が喧伝されていますが、実際には格差社会が広がり、構造的問題がますます悪化しています。中小企業がこの厳しい時代を生き残っていくためには、一体どんな戦略が必要となるのでしょうか。当連載では、原田将司氏の著書『スモールカンパニー「最速のブルー・オーシャン戦略」』より一部を抜粋し、成功している企業経営の共通項について解説します。

好景気感が漂うものの、実態は「慢性的不景気」のまま

時代は平成から令和になり、文字通り新しい時代の幕開けを迎えた、という空気が世間に満ちているように感じます。しかしその間、スモールカンパニーを取り巻く状況は二面性を帯びてきているようです。

表面上は好景気感が漂っておりますが、実態は“好景気風、慢性的不景気症”とでもいいましょうか、景気マインドは改善してきたものの、国民生活の実態は相変わらずの慢性的不景気モードのまま、将来の見通しは暗く、リスクしか見えません。

テクノロジー分野ではAIの実用化によって劇的にサービスが進化しています。株価は上昇し、不動産価格は高止まり、ユニコーン企業の台頭、ベンチャー企業の上場ラッシュ……。確かに、景気を先導している一部の産業・企業は好景気の真っただ中にいますが、社会全体を見渡すと、多くの国民は、未だ景気回復の恩恵の外側にいます。

2016年当時、日経平均株価は1万7千円前後で推移していましたが、2020年1月には、2万4千円超まで上昇しました。その一方で、例えば、国税庁の民間給与実態統計調査によると、給与所得者の年間平均給与は過去6年連続で上昇しているものの、ピーク時に比べれば、まだまだ下げ止まり感がぬぐえません。

1991年は446万6千円だった給与所得が、97年に467万3千円まで上昇のピークを迎えてバブルが崩壊し、その後は下落へ転じました。2013年には413万6千円まで下落し、その高低差は53万7千円に拡大。2018年にはリーマンショック前の水準まで回復して、440万7千円になりましたが、それでもピーク時と比べると30万円近く減ったままの状態です。

他にも様々な統計結果がこれと同じように、収入、とくに可処分所得の減収を示唆しています。さらには静かに上昇を続ける社会保険関係の負担増を考慮すると、実質大幅減収の構造が膠着しているので、とても景気回復を実感できる環境ではないような気がします。

「ビール一杯で3時間」の客が増えているワケ

私の会社がある東京都新宿区神楽坂の飲食店街も、2016年頃までは、平日の夜は閑散としていましたが、2019年夏現在では、平日の夜でも、人通りが絶えることはありません。数年前にはなかった光景で、景気は本当に回復したかのように見えます。

しかしその一方で、こんな話もよく耳にします。近所の飲食店オーナーさんによれば、「総客数を増やそうと努力すると、客単価はむしろ下落していく。今は価格を安くした店だけが繁盛している。でも、安くしても最近の人は食べない、飲まない。で、ずーっと話だけしている。ビール一杯で3時間……まいったね」といいます。

「ビール一杯で3時間」の客が増加のワケ

タクシーに乗って運転手さんの話を聞いても、「飲みに行くお客さんは、基本的に電車で帰るか、終電を過ぎたら漫画喫茶とかで泊っていく様子。長距離ならなおさら、深夜タクシーには乗らない。増えたのはワンメーターのちょい乗り客と、そのワンメーターをクレジットカードで支払う外国人客ばかり……まいったね」といいます。ちなみに、この飲食店のビールは一杯480円、都内のタクシー初乗り運賃は全国最安値の420円から。「そりゃ、まいりますよね」としかいいようがありません。

皆さんの周囲ではいかがでしょうか。本当に日本の景気は回復しているのでしょうか? 現在の景気回復が本物か否かの解釈には百家争鳴で、まだ世論がまとまっていないようですが、「景気は回復していると信じたい」というスタンスで一致をみるところでしょう。

あえて、現状をポジティブに解釈するならば、「確かに景気は回復しているが、その恩恵は二極化しており、恩恵の内側と外側の温度差が生じている。とくにコンシューマー向け産業では、その温度差に開きがある」といったところでしょうか。

血で血を洗う、“超レッド・オーシャン”時代到来の危機

いずれにせよ、私にはこの好調な感じの景気がいつまでも続くようには思えません。むしろ、これから先は、とくにスモールカンパニーにとって、勝ち組と負け組がはっきりと分かれる厳しい時代が訪れるのではないかと懸念しています。

その理由は二つあります。

一つは、日本の社会が抱える構造的問題です。財政の借金体質、少子高齢化、医療や年金の問題は、何年も前から指摘されてきたにもかかわらず、実は何一つ解決されていません。というか、解決の道筋すら全く見えていない状況です。遂には、政策当事者から国民の老後資金が一人当たり2000万円も足りなくなるという試算が提示される始末。

表面的には景気回復が喧伝されていますが、足元では確実に格差社会が広がり、構造的問題がますます悪化しています。以前はこの格差社会を揶揄して「勝ち組と負け組」などといわれてきましたが、今後はこれがさらに深刻化して「ボロ勝ち組とボロ負け組」となりそうな気配です。まさに社会全体の地殻変動が起こりつつあるのではないか? という懸念が拭えません。

構造的問題を克服しない限り、あるいは将来に向けて解決の目途を立てない限り、小手先の経済社会政策は砂上の楼閣となり、長くは続かないでしょう。また、国際社会の経済活動はボーダーレスとなり、相互依存を強めているのに、国際政治情勢は混沌の一途を辿り、バランスが難しく、より脆弱になってきているという点も見逃せない懸念のひとつでしょう。

さらにもう一つは、AIやロボティクスをはじめとするテクノロジーの進化が、イノベーションの津波となって社会全体のあり方を根底から覆す大変革が今まさに進行中です。従来のイノベーションはあくまでも持続的な技術の進歩に基づく革新であり、主に「改善」や「改良」によって、段階的に少しずつ良くなる、便利になるという程度の歩みでした。従来のこれを「持続的イノベーション」といいます。

対して、現在進行中のイノベーションは、前提条件そのものが一変する「破壊」と「創造」の革新であり、旧来の市場が、全く新しい市場に取って代わるというものです。今起きているこれを「破壊的イノベーション」といいます)。

もちろん、AIやロボティクスをうまく活用できるのであれば、それに越したことはありませんが、大半のスモールカンパニーはそうではありません。今はまだ、AIやロボティクスなどのイノベーションを対岸の火事だと思っているかもしれませんが、この破壊的イノベーションによって駆逐されるのが、他ならぬ私たちスモールカンパニーであることに気づいていません。

現状維持に甘んじているスモールカンパニーの多くが、そう遠くないうちに淘汰されていくのではないか、という懸念が現実味を帯びてきています。

これから起こる破壊的なイノベーションにより、一部のクリエイティブで先進的な企業にとっては、未開拓成長市場のブルー・オーシャンが出現しますが、多くのスモールカンパニーは旧態依然の小さな成熟市場に追いやられて、小さなパイを奪い合っている状態、まさに血で血を洗う、“超レッド・オーシャン”になるでしょう。徐々に沸騰しつつある血の池地獄でゆでガエルとなり、熾烈な生存競争を余儀なくされるのです。

「これまで通りの経営」ではいけないのではないか

私は創業以来15年間一貫して、スモールカンパニーの経営支援に携わってきましたが、昨今の経済社会の大変革を体感しながら、これからの未来は今までと同様の前提で思考してはいけないのではないか? ということを強く感じています。

これまでも大競争時代とはいわれてきましたが、本格的な大乱世に突入するのは、実はこれからではないか? まさに“大ピンチ&大チャンス到来”という不安と期待が入り混じっている状態です。

私たちはつい、無意識的に、過去をベースに物事を考えがちです。過去を振りかえって教訓から学び、過去から現在に至るまでの変化からパターンを見い出して、未来を見ようとします。年齢が高くなればなるほど、経験が蓄積されるので、この思考は強まります。そう、私たちは“過去の延長線上に未来がある”と信じているのです。でも、本当にそうでしょうか……?