列車が平均して移動する速さに「表定速度」があります。山手線に接続する路線のうち、「表定速度」が速いのはどの路線でしょうか。首都圏北部方面として、JR高崎線や宇都宮線、東武東上線、東武伊勢崎線などについて調べました。

東武東上線〜伊勢崎線間の北へ延びる路線を比較

 都心方面へ延びる複数の鉄道路線。運行する会社や経由地によって、目的地までの所要時間はまちまちです。では、いち早く都心に到達できる路線はどれでしょうか。

 駅の停車時間も含めて、列車が平均して移動する速さを求めたものに「表定速度」があります。これをもとに、首都圏北部の10km圏から50km圏にかけて、朝ラッシュ時の表定速度を調べてみました。具体的な範囲は、東武東上線から東武伊勢崎線(スカイツリーライン)のあいだにある路線が対象です。


JR高崎・宇都宮線などを走るE231系(2019年5月、草町義和撮影)。

●調査方法、基準
・JR山手線を中心に放射状に伸びる路線のうち、ラッシュの最混雑時間帯である平日朝7時50分から8時30分に山手線接続駅へ一番速く到達する、乗り換えなしの直通列車が対象。
・発駅は10km圏から50km圏のうち、快速や急行といった優等列車が停車する主要駅を優先的に選択。
・別途料金が発生する特急やライナーなどは除外。
・キロ数は時刻表などに記載されている「営業キロ」に基づいており、実際の距離とは異なる場合がある。

 朝のラッシュ時に限定しているため、お昼の時間帯には速い列車でもそのパフォーマンスを活かしきれていなかったり、速達列車がなかったりする場合があります。また、「営業キロ」数と実際の距離との差が大きい湘南新宿ラインは除いて集計しています。

 なお、算出された数値はあくまで計算上のもので、運転状況により体感的なスピードと乖離する場合があります。

JR高崎線と宇都宮線 大宮で分岐も全体を通して上位に

 全体的に東武 vs JRの構図となったわけですが、果たしてどちらが速いのでしょうか。10km圏から見ていきましょう。

 1位は東武東上線の成増〜池袋で52.0km/h、2位はJR高崎・宇都宮線の赤羽〜上野で48.0km/hでした。4km/hという差でしたが、いずれも停車駅が少ないのが特徴です。


首都圏北部方面10km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。

 3位以下は、JR京浜東北線(37.8km/h)、地下鉄南北線(37.4km/h)、地下鉄有楽町線、副都心線(37.2km/h)と各駅停車タイプが続いています。東武伊勢崎線方面にも速達列車はあるのですが、曳舟駅(墨田区)以遠にしか設定されていないため、10km圏ではパフォーマンスを活かせていません。

 続いて20km圏を見てみましょう。1位は高崎・宇都宮線が浮上し、2位にJR埼京線が続いています。一方10km圏では1位だった東武東上線が、3位に転落しています。原因は、池袋〜成増間でノンストップだった急行が、成増駅(板橋区)以降で停車駅が増えたためと考えられます。


首都圏北部方面20km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。

 また、直通先の東武線内では急行運転をする地下鉄半蔵門線が最下位になっています。これは半蔵門線内で、停車駅の多い都内東部を走るためですが、東武線内を各駅に停車する日比谷線よりも表定速度が低いのは興味深いところです。


首都圏北部方面30km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。

 その構図も、30km圏では変わってきます。1位だった高崎・宇都宮線が大宮駅(さいたま市)で分岐し、1位高崎線、2位宇都宮線となっていますが、3位は埼京線を抜いて東武東上線になっています。東武伊勢崎線内では急行運転をする半蔵門線も、表定速度を約7km/hも伸ばし、5位に浮上しています。

複々線を急行が走る東武伊勢崎線 表定速度は稼げるか

 40km圏ではどうでしょうか。1位は宇都宮線、2位は高崎線と逆転しています。3位は東武東上線、4位は埼京線がなくなったことで半蔵門線が繰り上がり、並びは変わっていません。半蔵門線と同じく東武伊勢崎線へ直通する日比谷線も集計してみましたが、同線は各駅停車のため、さすがに表定速度では半蔵門線に約10km/hの差をつけられています。


首都圏北部方面40km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。

 50km圏では再び高崎線が抜き返し1位に、宇都宮線は2位となっています。3位には東武東上線、4位と5位には東武伊勢崎線系統というのは変わりありません。


首都圏北部方面50km圏のスピードランキング(河嶌太郎作成)。

 全体を見ると、東武東上線とJR線が健闘、また、東武伊勢崎線よりも東武東上線のほうが速い結果になりました。東武伊勢崎線は南越谷〜北千住間で私鉄最長の複々線区間を抱え、輸送上では有利のはずです。にもかかわらず東武東上線よりも順位が下だったのは、今回の調査が山手線駅を起点としているので、不利になったと考えられます。

 参考までに、朝の通勤時間帯の春日部〜北千住間を例に見ると、急行は28.2kmを32分で走ります。表定速度にすると52.9km/hで、30km圏のランキングでは2位に入る速さになります。しかし現実には、北千住駅から先、カーブの多い区間を経由する点がどうしてもネックになるところです。

 首都圏北部方面は、JR線が並行して走るなど、鉄道路線が多くあります。住む場所を選ぶうえで、ひとつ「表定速度」に着目してもよいかもしれません。