24日からバルセロナ時代のイニエスタの試合を配信する【写真:Getty Images】

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「Re-LIVE」など独自企画を展開、DAZN担当者に聞いた“コロナ禍の舞台裏”

 世界的に感染が広がっている新型コロナウイルス。様々な産業に影響をもたらし、スポーツ界ではあらゆるイベントが中止、延期に追い込まれた。影響を受けたのは、選手たちの真剣勝負が生み出す感動と興奮を伝えてきたメディアも同じ。試合自体がないため、伝えるコンテンツがない。そんな逆風を乗り越え、スポーツファンの支持を集めているのが「DAZN(ダゾーン)」だ。

 16年に日本に参入したスポーツチャンネルは新型コロナ禍により、野球、サッカー、F1など、事業の柱となる「ライブコンテンツ」が軒並み、配信中止に。しかし、多くの映像系メディアに先駆け、独自のコンテンツを次々に配信し、ファンの心を掴んでいる。なぜ、こうした的確かつ迅速な展開が可能だったのか。同社のコミュニケーション&PR部の松岡けい部長に話を聞いた。

「ライブスポーツがない状況は厳しくもありましたが、私たちなりに知恵を絞り、何らかの形でスポーツファンの皆さんにコンテンツを届けられるよう、試行錯誤しながら努めています。世界的な影響にあるので、どこも同じ状況。この難しい場面をいかに乗り越えるかを各競技団体ともご相談させていただきつつ、安全を第一に考慮しながら、できる限りのことをやっています」

 こう振り返った前例のない試み。DAZNも働き方に変化を強いられていた。同社は2月末からリモートワークを導入。1週間ごとなど期間を区切りながら行い、都や政府の方針に従い、全社的な在宅作業に移行した。出社は、放映・配信などオフィスでしか作業できない部門に限られ、会議はオンライン上で行うなど、制限は少なくない。そんな中で3月中に最初の企画をリリースした。

 国内外で絶大な人気を誇るサッカーアニメ「キャプテン翼」の最新作を同25日から配信。1日2話ずつ、全52話を届けた。

「各競技、シーズンオフがあるので、その間にノンライブコンテンツも力を入れて展開しており、その流れで『キャプテン翼』を早い段階で配信をスタートすることができました。もともとは東京五輪が行われる夏にJリーグ、プロ野球が2、3週間休止するので、その期間でこういったコンテンツを届けられたらと準備していたんです。こういう状況になり、それだったら前倒しをして、この時期に配信しましょうと、(作者の)高橋陽一先生にもご協力いただき、いち早くお届けできることになりました」

 当時は全国的に休校が広がっている最中。本来は東京五輪のために用意してきた企画も大胆なスケジュール前倒しに打って出た。そして、もう一つ、4月に入って配信しているのが「Re-LIVE」だ。過去のスポーツの名勝負を選んで配信。サッカーではJリーグ、プレミアリーグ、スペインリーグ(ラ・リーガ)、欧州チャンピオンズリーグ(CL)など、国内外のコンテンツを届けている。

「日々状況が変わる中で、お客様が何を求めているのか、ソーシャル(SNS)の声などを重視していくと『過去の試合を見たい』という声を拝見していました。そこから、月曜にF1、水曜は欧州CL、金曜はラ・リーガ、土曜はJリーグ、日曜はプレミアと、毎回19時からの配信で、なるべく毎日何かがあるという形でスケジューリングして、コンテンツを届けるようにさせていただきました」

支持を集めた背景にスピード感「『その時にできること』からやっていこうと」

 話題を呼ぶことになったのは、新たに実況、解説をつけて配信すること。例えば、Jリーグで第1弾として配信された1993年第2ステージのヴェルディ川崎―浦和レッズ戦。三浦知良、ラモス瑠偉、ビスマルクらを擁したタレント軍団がステージ優勝を決めた一戦を、当時出場した北澤豪氏が解説を務め、当時のエピソードを交えながら、八塚浩氏の実況とともに甦らせて配信した。

「ただ単に試合を流すことも可能ですが、今だからこそ伝えられるエピソードもあります。例えば、北澤さんの息子さん(慶大サッカー部・快さん)の『ちゃんと父親のプレー見たの初めてかもしれない』というツイートがバズったりして、今だから見て面白いものがファンにもあります。昔から応援されているファンももちろん、北澤さんの息子さんのように初めて見られる方も、今の日本サッカーを支えている人たちの名シーンなど、昔を知って今につながることができるのが、解説を新たにつけた狙いです」

 Jリーグのみならず、スペイン、プレミアなどの海外サッカーも配信する試合のピックアップには、意図を持たせているという。

「24日から配信されるラ・リーガの試合はバルセロナ時代(10-11年エスパニョール戦)のイニエスタ選手が出ています。今はJリーグでも人気ですが、当時の彼はこういう凄い選手だったんだと知ってもらったり。DAZNならではの多岐に渡るコンテンツを生かし、海外サッカーのコンテンツでもJリーグファンにもゆかりがある試合を選び、両者が楽しめるように考えながらやっています」

 普段はサッカー班、F1班、マルチスポーツ班などに分かれているが、現在は各班が横断して協力体制を取り「制作現場が一丸となってやっている」と松岡さん。その中で「SNSなどの声は見ていて高評価をいただいている声は多いと感じる」と手応えも明かす。こうして支持を集めることになったDAZNの企画だったが、「キャプテン翼」も「Re-LIVE」も目を引くのが、スピード感だろう。

「スポーツ界に影響が出始めたのは2月末くらいから。Jリーグが休止し、プロ野球も開幕延期され、スポーツがどうなっていくか知っていったのは世間の皆さんと一緒。その中でどうするか、何ができるか。『その時にできること』からやっていこうと。このくらいの準備期間を設けてやろうというのではなく、その状況を見極め、どう早く世の中に出していけるかに注力していました。

 その中で、北澤さんの息子さんのリアクションにあったように、昔と今の世代の交流が生まれ、スポーツ自体も世代の橋渡しができるんだというのは私たちの発見でもありました。もちろんライブスポーツに一番価値があり、一番魅力あるものと思っていますが、こういう時に感動できるノスタルジックな部分も、今だからこそいいコンテンツになったのではないかとも思っています」

 スポーツ界にとって未曾有の事態。そんな中で「スポーツチャンネルのDAZN」として役割を全うしようと、試行錯誤している。

「世界中で厳しい状況が続いていますが、私たちとしては選手、ファンを含め、スポーツコミュニティ全体の健康と安全を第一に考え、政府、各競技団体の方針、決断をきちんと尊重しながら、その中で今できるコンテンツを最大限にお届けすることに尽力していきます。各競技でライブスポーツが再開できる日についても、万全の態勢で準備しているので、まずは皆さんの安全とともに一日も早い終息を願っており、またスポーツの感動、興奮を共有できる日がすぐ来ることを社員全員、心から願っています」(THE ANSWER編集部)