「女として“真の勝ち組”とは?」高学歴・高収入の35歳女子が語る本音
今とは違う“何者か”になりたい。
ここ東京では、そんな風に強く願い行動した者のみが掴める、成功や幸せがある。
しかし、ご存じだろうか。
彼らは、その影で、ジレンマに苛まれ様々なコンプレックスと戦っていることを…。
これまで、スピード出世した女、「中の上」から脱したと思っていた男などを紹介した。さて今回は?

Vol.9:姉と両親を見返したかった女
名前:花凛
年齢:35歳
職業:外資系化粧品メーカーPR
平日21時、カウンター越しに一人、夜景を眺める美女がいた。
座っているその佇まいから、長身のスラリとしたプロポーションであることが伺える。
かっちりとしたジャケットスタイルでありながら、ふんわりと巻かれた髪にマノロブラニクのスエードのピンヒールは、十分すぎるほどに女性らしさを演出している。
「こんな時間にごめんなさいね、平日はどうしても夜遅くにしか時間が作れなくて」
そういって柔らかい笑顔で語りかけてきた花凛は、大手外資系化粧品メーカーに勤める35歳。東京大学経済学部を卒業後、現在の会社に入社して10年以上が経つ。
そして昨年、彼女はマネージメントに抜擢されたそうだ。年収も一気にあがり、目黒に1LDKのマンションを購入したそう。
抜群のルックスに非の打ちどころのない経歴。
まさに、才色兼備を具現化したような女性だが、どこか遠い目をしながら、こう語り始めた。
「私ね、最近思うんです。女性は、下手に向上心を持たない方が幸せなのかなって…。私も幼い頃から努力してきましたけど、今になってこれでよかったのかなって思うんですよね」
まるでこれまでの努力を後悔しているような口ぶりだが、どのような意味なのかを生い立ちから詳しく聞いてみた。
圧倒的な才色兼備である花凛だからこそ感じた、女であるが故の生きにくさとは?
東京の裕福な家庭で生まれ育った花凛。
勉強や運動はごくごく平均的だったが、子供の頃から美少女としては有名だった。
しかし、4つ上の姉はルックスが良いだけでなく、幼い頃からバイオリンの才能に秀でており、有名な先生がつけられ、英才教育を受けていた。高校時代にはレッスンやコンクールのために海外にも頻繁に足を運ぶようになり、両親は姉にかかりっきりだったそうだ。
「私も母にすすめられるがまま、ピアノとかチェロとか習ってみたんですけど。全然面白くなくて…。すぐ辞めちゃいました(笑)」
両親の期待は姉だけに向かい、自分は何も期待されていないのだと、子供ながらに感じていた。
更に、周囲は姉を褒めるとき、「お姉ちゃん“は”すごいわね」という言葉を使った。
直接的に花凛を貶めるような発言はなかったものの、花凛はその言葉の裏に潜む「妹と比べて」という意図を勝手にくみ取り、姉に対してコンプレクスを抱くようになっていった。
そんなストレスのせいか、中学時代の花凛は、姉からは逃げるようにテレビゲームやお菓子に走り、不貞腐れるような生活を送っていた。
しかしそんなある日、父親がこんな言葉を放ったという。
「花凛、ちゃんと嫁に行ってくれさえすればいいからな。そのためにはちょっと、あれだな、もう少し普通にならんとな」
自分はいたって普通だと思っていた花凛は、父親の言葉の意図がよくわからなかったのだが、ふと鏡に映った自分を見て愕然とさせられた。
そこには、知らぬ間にかなりのガタイへと成長していた自分が写っていたのだ。しかも、その様子をどこか鼻で笑うように姉が眺めていた。
―絶対に見返してやる。
花凛の中でプツンと何かが切れ、姉を超えてやる、という決意をしたのだった。

姉が音楽の道に進むのであれば、せめて学歴だけでもと思い勉強を真剣に始めた。
小学校から私立の女子校に在籍はしていたものの、成績は平均的だった花凛。
だが、高校へ入学すると同時に、勉強に一心不乱に打ち込むようになった。
もともと地頭がよかったのであろう、みるみる成績があがっていったという。
「目に見えて成果がでるのってすごく楽しくて。姉に勝ちたいという思いから始めた勉強でしたが、案外楽しかったですね」
当時を懐かしむように、イキイキとした表情で語る。
そして、花凛は見事、東京大学文?の現役合格を勝ち取った。
家族は大喜びしたと同時に、「まさか花凛が東大に合格するなんて」と驚きを隠し切れない様子だったそうだ。
「その時ようやく、家族に誇れるものが自分にもできたという思いになりましたね」
そして、大学入学後は自然と体重も落ち、花凛は平均的な体型に戻っていた。
もともと顔立ちの綺麗だった花凛は、ついに、姉に勝るとも劣らない才色兼備となったのだった。
その後、就職を機に、今度は姉を超えていくことになる。
どんどん姉を越えていく花凛。しかしその先に待ち受けていた思わぬ展開とは?
「私、今思えば、大学受験を皮切りに人生が変わったなって思うんです。もちろん、東大という学歴を手にしたこともそうですが、“できるお姉ちゃんの妹"だったのが、“私は私”ってやっと思えるようになったんです…」
自信をつけた花凛は、大学卒業後、外資系化粧品メーカーに就職した。
「姉は音大へ進んだんですが、卒業後、音楽家として生きていくのは難しかったようで。バイオリン講師をしながら、時折演奏会に出る生活をしていました。実家暮らしで、なんとかギリギリ生活できるレベルだったみたいです」
そして、花凛は入社してからも、どんどん成果を上げ、今ではプロジェクトリーダーを任されている。
しかし、最近、花凛にとって衝撃的な出来事があったという。

「会社は思った通りホワイトだったんですけど、私、納得するまで自分の仕事をやり切りたくて、自主的に夜遅くまで残っていることが多いんです」
そんな姿勢が、花凛を昇進させたわけなのだが、高い目標を自分で設定してしまうが故に、ストイックに仕事に向き合ってしまうようだ。
「ついこの前、いつも通り残業していたら、すごく仕事のできる男の先輩に“女なのによく頑張るな”って声を掛けられたんです。先輩としては褒め言葉だったみたいなんですけど…。
私その人のことを尊敬していたから、そんな言葉がその先輩から発せられたという事実がすごくショックで…」
今まで、努力は評価される対象だと信じて生きてきた花凛にとって、その発言の裏に「女は頑張らないもの」という、その先輩の価値観みたいなものが透けて見えた気がして、愕然としたそうだ。
また、こんなこともあったという。
「部下の男性に、“何か、バリキャリって感じがすごいっすね(笑)。このまま結婚しないつもりですか”って聞かれて。
露骨に独身であることを非難するような言葉じゃなかったんですけど、その空気感とか、ちょっとあざ笑うような言い方が、明らかに私をかわいそうな人と決めつけるような言い方だったんです」
花凛は、笑ってその場をやり過ごしたそうだが傷ついていた。
しかも気づくと姉は、どこで捕まえたのか国際弁護士と結婚し、現在は二人の子供を育てる優雅な専業主婦に。
一方花凛は、30歳を過ぎた頃から、両親と姉から、“いつまでそんなに働くのか”、“結婚はまだか”と言われるようになった。
「最近、姉は、得意気に結婚生活や育児の素晴らしさを語ってきます。姉を超えられたと思っていたら、いつのまにか、また立場が逆転していました。
“姉を超えてやる”という思いがきっかけで努力しはじめたんですけど、私、頑張り過ぎちゃったみたいで…(笑)」
そう言って、自虐的に笑った花凛は、哀しそうな目をしていた。
どんなに女性の活躍が叫ばれる時代になっても、適齢期の独身女性へ注がれる冷ややかな視線は、まだまだなくならない。
花凛の言葉は、不器用ながらも、愚直に努力してきた女性から発せられるSOSにも聞こえた。
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最終回:生まれながらに勝ち組の老舗料亭の御曹司が登場

