サンマはもはや高級魚」――。今年も旬の10月を迎えたサンマだが、不漁によりここ数年は価格が高騰しており、手軽に食べられる大衆魚だったころとは様変わりしてしまった。

資源量自体がそもそも減少している中、台湾や中国の漁獲量の増加が、日本の食卓からさらにサンマを遠ざけているのだ。

脂が乗る前に一網打尽

サンマの価格が高騰している原因の一つは、中国や台湾の漁船が、日本近海に回遊してくる前のサンマを公海で漁獲してしまうことにある。

サンマの有力漁獲地である北海道の漁業関係者はこう嘆く。

「昔は日本のライバルはいませんでしたから、公海で操業する必要もなく、排他的経済水域(EEZ)の中にサンマが泳いで来るのを待って漁をしていました。やっぱり冷凍してしまうと味が落ちますから、今でも公海でいっぱいエサを食べて脂が乗ったサンマを、EEZ近くで獲って氷蔵して港に持ち帰る日帰り漁のスタイルが一般的で、漁船も中小型がメインです。

対して、中国や台湾の船はハナから冷蔵するつもりで、大型船で乗り付けて大量に獲っていくスタイル。脂が乗る前に一網打尽にされてしまうので、こちらとしてはたまったものではありません。日本が7月ごろから漁を始めるのに対し、彼らは通年でガンガン獲ってくるのも悩みの種でした。

業を煮やした水産庁は、今年は操業開始を5月に早めましたが、漁船が小さく、舌の肥えた日本人は鮮度を重視するため、どこまで売り伸ばしの効果があるのかについては疑問が残ります。まだサイズの小さいサンマを根こそぎ獲ってしまうことになり、絶滅させてしまわないかという懸念も上がっています」

さらに、日本近海で中国の違法漁船も活発に操業していることが、日本の漁獲量減につながっている。水産庁によると、複数の漁船が同じ船名を表示しているものや、船名部分が塗りつぶされている船が確認されている。同庁関係者はこう解説する。

「中国の違法漁船によるサンマ漁獲量は5万トンとも言われ、サンマの資源管理を協議する北太平洋漁業委員会(NPFC)に申告している分と合わせると、15万トンと日本を抜いて2位になります。中国の漁船が日本のEEZのすぐ外で本格的に操業し始めたのは2015年くらいからですが、初めは放置していた中国共産党当局も、違法操業のあまりの拡大ぶりにかえって手を焼いているようです。

前回のNPFC年次会合のメイントピックの一つは『違法漁業の取締り』でしたが、これは事実上の中国対策です」

およそ半分を中国が消費している

日本のサンマ漁獲量は、最盛期の1958年には約58万トンと漁業資源を独占する状態だったが、2015年以降は10万トン前後まで激減している。

一方、2000年前後からは台湾の漁獲量が急増した。この時期から急速な経済成長を始めた中国への輸出を狙ったもので、2013年にはトップに躍り出た。当の中国でも、2012年ごろに共産党政府がサンマ漁への本格参入を政策的に後押しすることを決めたために、漁獲競争に一掃の拍車がかかった。

水産庁によると、2018年の漁獲量は台湾が約18万トン、日本が約13万トン、中国が約9万トンとなっており、事実上この3カ国・地域で世界のサンマを漁獲していることになる。

今年7月に東京で開かれたNPFCの年次会合。この場で日本や中国、台湾など加盟8カ国・地域の合意の下、初めて地域全体でのサンマの年間漁獲上限を導入することが決まった。

ただ、この「上限」は約55万トンと、2018年の漁獲量約44万トンを上回っており、本来の目的である「乱獲の防止」に有効とは思えない。全国紙水産担当記者によると、「ゴネる中国をなだめることが、今回の会合の至上命題だった」という。

「近年、中国はサンマの漁獲量を急速に伸ばしており、台湾、日本に次ぐ第3位まで上昇してきています。中国としては、獲れるだけ獲って旺盛な国内需要を満たしたいという立場ですから、日本が2017、18年の年次会合で国・地域別に漁獲上源を設定しようと提案した際にも猛反対しました。

水産庁も前回の感触を踏まえて、『国・地域別の漁獲枠にこだわると何も前進しない』と考え、今回は全体枠を設定することでよしとする戦略をとりました。中国側も枠が増える分には問題ないと考えたようで、合意にこぎ着けることができました」

台湾は、漁獲したサンマ18万トンの大部分を中国向けの輸出にあてており、中国の漁獲量9万トンと合わせると、現在北太平洋のサンマの半分程度を中国が消費していることになる。

中国では、元々サンマをかば焼き風に調理して食べるのが一般的だったが、近年の日本旅行ブームもあり、上海など都市部では日本と同様に塩焼きにして食べるケースも増えている。こうしたサンマ人気の上昇が中国の漁獲増の直接の原因と考えられるが、沿岸部の海洋汚染や乱獲により、「安心して食べられる食品」への需要が高まっていることも背景にあると考えられる。

日本で獲れたサンマが食べられなくなる

前述のように、台湾が漁獲を本格化する以前は、サンマを常食していたのは日本やロシアなどごく一部の国だけだった。中国という「もう一つの大消費地」が生まれたことが状況を一変させたわけだ。自民党の水産族議員がこう話す。

「中国に売り込もうと思って公海での操業を強化した台湾を、国際ルール上は批判できない。当初は日本食の普及にも役立つと思われていたのに、いまでは日本人の取り分まで脅かすことになっているのだから、皮肉なものだ。日本の漁師が獲ったサンマが高くて食べられず、『日本近海で取れた台湾産冷凍サンマ』を食べるなんてことになれば、笑うに笑えない。

今後もNPFCで粘り強く交渉していくしかないが、漁獲トップの台湾は自分たちの取り分さえ確保できれば文句は言わないし、ロシアも同じ立場。韓国は大勢になびくから、中国を包囲していけば、日本の漁業者に申し訳が立つ程度の漁獲枠なら勝ち取れる。

ただしサンマの資源量全体は減っているとみられるため、交渉が遅れたり、環境保護団体が騒いでサンマが絶滅危惧種に指定されてしまうようなことがあれば、『ウナギやマグロに続き、サンマまで食い散らかした』として日本が批判されるのは必至だ。資源管理を進めつつ自国の取り分も確保しなければならないという、非常に難しい交渉を水産庁は強いられている」

筆者は9月22日の記事「クジラ、ウナギの次は『マグロ』が食べられなくなる可能性」で、かつて隆盛を極めた「水産王国・日本」が「利潤追求と食欲」によって支えられてきたと指摘した。手頃な値段のサンマもまた、ウナギやマグロと同様、東アジアで日本が圧倒的な経済力を誇った時代の産物だった。

トランプ米大統領の誕生と米中の対立や、日中・日韓関係の悪化など、国際情勢の変化が如実に影響するのが漁業の世界である。日本は現実を直視し、強まる制約の中で他国と折り合いを付けていくしかない。