可動リアウイングだけじゃない ゼンヴォ・オートモーティブ ゼンヴォTSR−S
目玉のアクティブ・リアウィングtranslation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
世界的に見ても最も際立ったハイパーカーのひとつだといえる、ゼンヴォTSR−S。まったくのニュータイプといえる、アクティブ・リアウィングがその目玉でもある。ゼンヴォ・オートモーティブ社はデンマークを拠点とする唯一の自動車メーカーであり、ゼンヴォの生産台数は、すわなちデンマークの自動車産業のすべてでもある。
ゼンヴォ・オートモーティブ社は2009年から活動をしているが、生産台数はごくわずか。今回、スパ・フランコルシャンでわれわれがドライブしたTSR−Sは、同社が生み出した15番目のシャシーとなる。もちろんゼンヴォは生産の拡大を計画しており、創設者のトロエルズ・フォラツェンはTSR−Sの生産台数を年間5台にまで増やしたいと考えている。会社としては大きな飛躍だが、パガーニやケーニグセグなどの例もあるから、夢物語ではないだろう。
ゼンヴォ・オートモーティブ ゼンヴォTSR−STSR−Sは、2017年に発表したTS1−GTをベースにしている。エンジンは5.8LのV型8気筒で、ツイン・スーパーチャージャーにより最高出力は1193psを繰り出す。この途方も無いパワーは、ドグミッション・スタイルの7速シーケンシャルへと伝えられる。今回の試乗は、走行会も開かれていたサーキットに限られていたが、TSR−Sはストリートリーガル。車名の2番目のSは「Street」の頭文字だ。
ゼンヴォTSR−Sの注目ポイントが、先にも触れたアクティブ・リアウィング。ウイング中央を支点に動き、リアアスクルへかかるダウンフォースを変化させる。コーナリング中にイン側のタイヤへかかるダウンフォースを減らすことでクルマをフラットに保ち、空力的なアンチロールバーのように機能する。
加速力はマクラーレン・セナと同等
車重はライバルと目されるクルマよりも重い1475kg。カーボン製のボディの内側にある、金属製のコア・ストラクチャが影響しているのだろう。だが先述の強烈なパワーにより、0-100km/h加速は2.8秒。0-200km/hのダッシュも6.8秒という極めて短時間でこなす。マクラーレン・セナとほぼ同値だ。
今回は、1台のTSR−Sでトランスミッションの不具合が発生し、2台を試すことになった。初めに乗ったのはスパルタンなロールケージが組まれ、ベアメタル製のダッシュボードにスイッチ類が盛大に並んだ、黄色のプロトタイプ。その後に、仕上がった青いロードカーで、スパを数周ずつ走行した。走らせてみると極めて速いのだが、サスペンションの設定もミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2というタイヤも同じものながら、両者のサーキットでの振る舞いは明確に異なっていた。
ゼンヴォ・オートモーティブ ゼンヴォTSR−S黄色のプロトタイプは、ロールケージのおかげでレースカー然としており、換気対策も防音処理も充分ではない様子。エンジンは余りにうるさく、サーキット上にはLMP2カテゴリーのレースカーも走っていたが、コースの音量制限を超えるほど。
V8エンジンの実力を試せた時間は、極めて短時間だった。このエンジンはGM製のLSXブロックをベースにしているが、ビレット・クランクシャフトと鍛造ピストンを備えている。スペック通り、パフォーマンスは凄まじく、7700rpmのリミッター目がけて、気持ち悪くなるほどの加速力をTSR−Sに与える。
軽いドリフト状態をキープする安定性
カーボンセラミック・ブレーキの効きも強力。わたしが勇気を振り絞ってブレーキングポイントを遅らせても、鋭く制動力が立ち上がり、実際はまだまだ余裕が残っていた。シーケンシャル・トランスミッションも、間髪入れずに、瞬時に変速が完了する。
反面、ステアリングフィールはコミュニケーション不足で良いとはいえない。低速コーナーでは驚くほどのアンダーステアが発生してしまう。このステアリングのおかげで、プロトタイプのTSR−Sを可能な限り攻め立てたいと思える自信が湧いてこなかった。左右に大きく傾斜しているリアウィングの効果も、はっきり体感することはできない。
ゼンヴォ・オートモーティブ ゼンヴォTSR−Sだが、量産スペックの2台めの青いTSR−Sは見違えるほど良くなっている。フォラツェンの説明によれば、アクティブ・リアウィングはクルマを路面に押し付けるだけでなく、ダウンフォースの最大30%がフォースベクトルとして機能。コーナリング中のイン側のタイヤに掛かる力を減らし、ボディロールを打ち消してくれるのだという。
信頼感のあるステアリングフィールのおかげで、フロントタイヤの操縦感も正確性が高まっており、はるかに運転しやすく限界付近まで迫れるものだった。クルマとの一体感も高くなることで、周回速度も自ずと高くなる。TSR−Sを穏やかなオーバーステア状態にまで持ち込むことができ、スパの高速コーナーでも臆することなく抜けていける。
恐怖感とも戦いながらアクセルを踏んでいくと、ゼンヴォは手に負えないほどの酷いテールスライドに陥らないこともわかってくる。リアウィングとスタビリティコントロール・システムがクルマをコントロール下に収めてくれ、軽いドリフトに近い状態を保ってくれる。
SF90を買えるビリオネアには魅力的?
おかげで実際以上に恐怖感を感じずに、サーキットをドライブできる。一方で遊びすぎてリアタイヤが加熱し、グリップ力が低下してしまうまでも、それほど時間を要しなかったけれど。
インテリアの仕立ては良好で、スイッチ類も他メーカーからの流用ではなく、ゼンヴォによるオリジナル。車内はうるさいものの、黄色のプロトタイプよりは防音も断熱も、しっかり考えられているようだ。
ゼンヴォ・オートモーティブ ゼンヴォTSR−STSR−Sの量産モデルを見る限り、サーキットでのスーパースター級の走りは素晴らしい。だた、一般道でどのような振る舞いを見せるのかという疑問は、解決できていない。エンジンは低回転域でも扱いやすいものだが、ドグミッションという相当に攻めたトランスミッションは、実社会の交通環境には適していないだろう。
さて140万ポンド(1億8200万円)の価格を見て驚かれるかもしれない。ゼンヴォは販売台数の向上を狙っていくつかの試みをしているが、実になってはいないようだ。確かにTSR−Sはブランド初期のモデルよりも競争力が高いクルマだとは思うものの、直接的なライバルと比較すると、強気の価格設定だともいわざるを得ない。
もしマクラーレン・セナやアストン マーティン・ヴァルキリー、フェラーリSF90などを手にすることができなかったビリオネアなら、魅力的な選択肢になるのだろう。あるいは、もしこの3台を既に購入予定でも、ゼンヴォTSR−Sは異彩を放つ存在として惹きつけられるクルマにもなりそうだ。
ゼンヴォTSR−Sのスペック
価格:140万ポンド(1億8200万円)
全長:4815mm
全幅:2038mm
全高:1198mm
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:2.8秒
燃費:−
CO2排出量:−
乾燥重量:1475kg
パワートレイン:V型8気筒5.8Lツイン・スーパーチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:1193ps/7700rpm
最大トルク:−
ギアボックス:7速シーケンシャル
