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東京都江東区が2019年4月から、第二東京弁護士会と連携してスクールロイヤーを導入した。弁護士会と連携する形でのスクールロイヤーは23区では初めてで、委託料(予算ベース)は年間約211万円だ。

導入に際し、中心となってロビー活動を行ってきた鬼澤秀昌弁護士は「学校側の利益を守るのがスクールロイヤーではない。教育現場をあるべき姿に戻していくために必要なアドバイスをしたい。実現すべきは子どもの利益です」と話す。

●校長から「スクールロイヤーは絶対に必要」との声

江東区にスクールロイヤー制度を導入するべきではないか。鬼澤弁護士がそう思い始めたのは、2018年冬。子どもたち向けの「いじめ予防授業」(第二東京弁護士会主催)を通じて知り合った江東区の校長から「スクールロイヤーは絶対に必要だと思う」と言われたのがきっかけだった。

江東区の小学校の校長に任意でアンケートをとったところ、回答をもらった学校の中で、多くの学校が弁護士に相談する必要性を感じており、ニーズがありそうだと感じた。

所属する第二東京弁護士会の「子どもの権利に関する委員会・学校問題チーム」の弁護士に声かけし、新たに有志で「スクールロイヤー研究会」という任意団体を作った。研究会のメンバーが手分けして各自治体の教育委員会に制度の概要を聞き取り、区議や教育委員会など関係各所に説明した。

●「将来的には現場の先生と直接相談できるように」

悩んだのは、どのような形態にするかだ。多くは教育委員会の委託を受けた弁護士が助言や相談をおこなう形だが、既存の自治体の顧問弁護士制度を活用したり、弁護士資格をもつ教育員会職員が対応したりする導入例もある。

江東区のスクールロイヤーは、第二東京弁護士会から子どもの権利に詳しい弁護士3人を推薦。公立の幼稚園と小中学校計89校園を3人で担当することもあり、最初の相談は教育委員会を窓口とし、以後のやりとりを校長とメールですすめる形にした。鬼澤弁護士は「より早期での対応のために、将来的には現場の先生と直接相談できるようにしたい」と話す。

さらに「学校を守るためのスクールロイヤーではなく、学校へのアドバイスを通じて、子どもにとって最適な環境を作るのがスクールロイヤー」と強調する。

例えば、保護者から学校では対応が難しい要望が来た時に「それはできません」と突き放すだけでは、子どもの利益にはならない。過剰な要求の背景には何があるのかーー。目指すべきは、「学校の対応の妥当性も検討し、さらに、個々の事情も考慮した上で、学校にアドバイスできるスクールロイヤー」だという。

「親の要求を拒否してくださいと言うだけでは、教育的にいい方向性にいかない。必要に応じて、学校の対応に不適切な点があればその改善点を指摘するとともに、カウンセラーやソーシャルワーカー等の支援機関に繋ぐことまで視野に入れてアドバイスできれば、子どものためになると思っています」

●江東区「トラブル早期解決を」

江東区は「トラブルを早期に解決することで、子どもたちの心理的な負担や教員の業務負担などを軽減したい。また、法的な専門家から助言いただくことで、客観性や中立性の確保も期待している」と話している。

文部科学省はスクールロイヤー活用に関する調査研究を行なっているが、現状、その結果がほとんど公開されていない。さらに、一言に「スクールロイヤー」と言っても、中身や定義は各自治体によってバラバラなのが実情だ。

鬼澤弁護士は「ある程度、概念を統一しないといけない。既に日弁連でもスクールロイヤーについての意見書を出しているが、現場で活動しているスクールロイヤーや導入を目指す弁護士も、ただ国や自治体の政策を待つのではなく、その概念を整理した上で、あるべき制度を積極的に提案していく必要がある」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)