韓国軍のF-15Kと空自のF-15J、同じF-15の派生機に見えますが、実は機体設計からして異なる別モノです。こなせる役割も、もちろん異なります。非公式愛称「ストライクイーグル」と「K」の意味するところとはなんなのでしょうか。

同じ「イーグル」? 「K」が意味するところとは

 2018年4月5日(木)、韓国慶尚北道のゴルフ場で韓国空軍の主力戦闘機F-15Kが墜落したと報じられました。パイロット2名は緊急脱出したと見られ、現場では空軍による捜索活動が行われていましたが、その後死亡が確認されたとのことです。

 F-15Kとは、F-15シリーズの発展型F-15Eの韓国向けモデルで、主翼など機体の一部が韓国国内で製造されています。兵装では対艦ミサイルの運用能力が加えられ、レーダー類も強化されるなど、より多くの任務を行えるマルチロール戦闘機となっています。


韓国向けのF-15K、愛称は「スラムイーグル」(画像:アメリカ空軍)。

 F-15Eは、可変翼の戦闘爆撃機F-111の後継機種として、航空自衛隊でも使用されているF-15をベースに開発されました。F-15は空域を制圧する制空戦闘機として開発され、敵戦闘機に対して優位に戦えるよう高い運動性能を備えています。それに対し、戦闘爆撃機は地上攻撃に特化した戦闘機で、より多くのミサイルなどの兵器を搭載し、攻撃機としても戦闘機としても活動できます。

F-15「E」、開発の経緯とねらい

 F-15は、搭載されているエンジンのパワーが強力なため、制空戦闘用の空対空ミサイルを満載しても余力がありました。このように機動力に優れたF-15に対地攻撃の能力を付与し、戦闘爆撃機にするプランが、製造元のマクダネル・ダグラス(現ボーイング)で持ち上がり開発をスタートさせます。そして完成したF-15Eは、F-111の後継機種としてアメリカ空軍で採用が決定し、1988(昭和63)年から運用が開始されます。


F-15Eは、合計11トンもの兵装搭載が可能(2017年、石津祐介撮影)。

 地上攻撃においては、大気の薄い高高度の制空戦闘とは違い、大気の密度が濃い低空を高速で飛行するため機体への負担が大きくなりますが、それに対応するためF-15Eは機体の再設計が行われ、構造そのものが強化されています。そして機体にはチタニウムを多用し軽量化を図り、また兵器を搭載するハードポイントを増設し、兵装の搭載量も最大11tまで増やしています。

 外観は従来のF-15と変わりませんが、増槽(燃料の外部タンク)を主翼のパイロンに搭載するのではなく、胴体横にコンフォーマルタンクとして装備しているのが特徴です。これにより、従来は燃料タンクを搭載していた箇所にミサイルなどの兵装を追加することが可能となっています。

 また操縦席は複座であり、機体の操縦を行うパイロットと攻撃を行うオペレーターが乗り込み、より正確な攻撃のためそれぞれ役割分担がなされています。

 F-15Eは、湾岸戦争、イラク戦争、コソボ紛争やアフガニスタン侵攻などに参加し、近年ではイスラム国への攻撃でも活躍しており、アメリカ軍が関与したほとんどの軍事作戦に参加しています。

強すぎて輸出禁止?

 F-15は、開発当時は高性能の戦闘機であるがゆえ、アメリカとの関係が友好な同盟国にのみ輸出され、日本とサウジアラビア、イスラエルの3カ国だけが配備しました。当初、F-15Eは優れた攻撃能力から他国への輸出には慎重でしたが、F-15よりも高性能なF-22「ラプター」が開発されたことにより方針を転換し輸出を行うようになります。現在では、サウジアラビア(F-15S)、イスラエル(F-15I)、韓国(F-15K)、シンガポール(F-15SG)が採用しており、カタールも導入を予定しています。


アメリカ空軍のF-15E。「E」とその派生は胴体横、主翼付け根の下のコンフォーマルタンクが標準装備。通常型のF-15Cなどにも取り付けは可能(2017年、石津祐介撮影)。

 日本でもF-4EJの後継機種を巡る第4次F-Xにおいて、ボーイングがF-15Eの改良版F-15FXの提案を行ったこともあります。

 ボーイングはF-15Eにステルス性能とレーダーを強化した改修型F-15SE「サイレントイーグル」を開発中で、韓国空軍で次期戦闘機の候補にも挙がりましたが、結果的にはF-35Aの採用が決まり、いまだ採用国は無い状況となっています。

【写真】空自「J/DJ」の原型は制空戦闘機「C/D」


航空自衛隊のF-15Jおよびその複座型F-15DJは制空戦闘機。F-15の改良型であるF-15Cおよびその複座型F-15Dを原型とする。写真は「J」(2018年、石津祐介撮影)。