サッカーは止まらないスポーツだと認識してきた。スピードや連続性を大切にするべきだ、と考えてきた。だから、ヒューマンエラーと言うべきミスジャッジも、それも含めてサッカーと理解してきた。
 
 だが、昨年のクラブW杯と過日のコンフェデ杯で、ビデオ・アシスタント・レフェリーが導入された。『VAR』と訳されるシステムについて、個人的には試合が止まることへの抵抗を覚えていたが、実際にはそれほどストレスを感じなかった。
  
 むしろ、主審と2人の副審(現実的には主審とボールに近いサイドの副審)では把握しきれない細かな部分が明らかにされることは、ゲームを止める価値があると受け止めた。ずるがしこい対応や反則を、選手に踏みとどまらせる効果もある。
 
 選手も、観衆も、結果に対する納得感が上がるのが、『VAR』がもたらす最大のメリットだ。ミスジャッジを防ぐことができれば、結果的に審判を保護することにもなる。
 
 7月9日に行なわれたJ2リーグの千葉対讃岐戦は、『VAR』があれば違った結果になっていただろう。千葉のふたつのゴールは微妙なもので、少なくともPKとなった讃岐の選手のハンドは、明らかにペナルティエリア外だった。
 
 同日のJ1では、大宮対札幌戦でも微妙な判定があった。
 
 福森晃斗が鮮やかな一撃でネットを揺らした札幌の1点目は、大宮のマテウスのハンドによる直接FKから生まれている。この場面でマテウスは、自陣でドリブルを仕掛けながら相手と交錯し、ボールを抱きかかえるように倒れ込んだ。相手のファウルだと判断したのだろう。だが、主審はマテウスのハンドを取り、札幌に直接FKが与えられたのだった。
 
 セルフジャッジをしてボールに手で触れたマテウスは、批判を免れないだろう。しかしながら、彼がピッチに倒れ込む直前の競り合いで、札幌の選手がファウルと判断されてもおかしくないプレーをしていたのも事実だった。もしこの場面が『VAR』で検証されていれば、札幌は直接FKを得ることができなかったかもしれない。つまり、結果は違ったものになっていた可能性がある。
 
 ゲームには流れがある。流れを失っているチームは、必要か不要かに関わらず反則を冒しがちだ。讃岐が献上したPKも、大宮が与えた直接FKも、ゲームの流れの一部だったと言うことはできる。もう少し時間を巻き戻して、そもそも違った対応ができなかったのかという視点は成り立つ。
 
 いずれにせよ、『VAR』がすでに運用されているリーグもあり、国際大会ではそれなりの効果をもたらしている。混乱は生じていない。
 
 ラグビーのトップリーグではビデオ判定が導入されており、バレーボールのプレミアリーグでもビデオ判定が活用されている。ひとつのジャッジがチームや個人のその後に及ぼす影響を考えると、Jリーグも『VAR』や追加副審の導入を本格的に議論していいのではないかと思うのだ。