ディエゴ・フォルランがJリーグにやってくる――。年俸は6億円。セレッソ大阪も大盤振る舞いに出たものだ。「南アフリカW杯MVP」が名刺代わりの世界のスーパースターは、やはり格が違うということか。

 では、ウルグアイ代表FWフォルランの実力とは?

 世界最高峰のリーガエスパニョーラで2度の得点王(2004-2005シーズン/ビジャレアル時代、2008-2009シーズン/アトレティコ・マドリード時代)に輝いているように、天才的にボールを叩く感覚に優れている。だがそれ以前に、予備動作が卓抜。パスの出し手の動きを計算し、自らの体の向きを調整する。その結果、まるで、"ボールの方がフォルランを恋い慕っている"かのように映るのだ。

「ディエゴはいつもいて欲しいところにいて、パスを受ける態勢を作っていたね。だから、私はそこにボールを流し込めば良かった。そして無理なくシュートが打てるから精度も高い。生まれついてのゴールゲッターだ」

 そう説明していたのは、かつてビジャレアル時代にフォルランとチームメイトで、EURO2008ではスペイン代表を優勝に導いているボランチ、マルコス・セナである。

 フォルランはゴールに向かうとき、一切の無駄を省いている。体幹は非常に強く、当たり負けしないが、不必要なフィジカルコンタクトはなし。マークを外す技術が見事だ。

 たとえば、オフサイドポジションにいたかと思うと不意に消え、再び現れたときにはオンサイドぎりぎりでパスを受け、得点を奪う。素人目には偶然に映るかもしれないが、彼はそれを緻密な間合いと計算の中でやってのける。

 そして特筆すべきは、周囲と強く結びつき、巻き込みながらチームメイトの本来の力以上のものを引き出させる点にある。パスの強弱ひとつをとっても、ディテールが適切なだけに、その後のプレーがスムースになり、受け手はいかんなく実力を発揮できる。

 最善のタイミングでボールを引き出し、収め、戻し、また受ける。その繰り返しはお互いのプレースキルを確実に向上させるのだ。

 フォルランは周りの選手の能力を爆発させるスイッチになる一方、自らの才能も爆発させる。まるで「誘爆力」だ。前線の攻撃タッグではそれが顕著で、ビジャレアル時代はファン・ロマン・リケルメ、アトレティコ時代はセルヒオ・アグエロ、ウルグアイ代表ではカバーニ、ルイス・スアレスと才能を共鳴させている。フォルランの誘爆力が選手の能力を引き出す結果、彼が在籍するチームの成績は良いのだ。

 そのプレースタイルは、性格的にストライカーにありがちな狭量なエゴイズムに囚われない点も関係しているかもしれない。

「僕は教会では感謝をしても、何かをお願いしたことはないんだ」

 カトリック教徒であるフォルランはそう証言しているが、その言葉ひとつにも、彼の人生観が表出している。

 その人格形成は家庭環境に基盤があるだろう。1974年W杯に出場した父は厳格で、「献身」を人生の訓辞として与えられ、「身を挺し、人のために尽くせ」と教え込まれた。また、母からは「自分を律しなさい。自分の世話をできないような人間は、他人の世話もできません」と厳しく躾けられたという。さらに、12歳の時に交通事故で姉が車椅子生活を強いられるようになったことで、フォルランの生き方の作法は確立されていった。

 その実直な性格から考えて、大金を稼ぐためだけに極東の国に来ることは考えられない。34歳の決意は漲(みなぎ)っているだろう。

 2013年10月にウルグアイで南米各国に向けて出版された『Palabra de Hombre』(11人の男を描いたオムニバスノンフィクション)の中で、フォルランはこう語っている。

「20年以上もフットボールの世界で生きてきて、そろそろ自分が"選手として搾られてきた"というのは感じている」

 それはフィナーレに向かう言葉として聞くと、なにやら意味深長である。

 フォルランと時間を共有することで多くの選手が感化されたように、セレッソでは柿谷曜一郎、杉本健勇、山口蛍、扇原貴宏、南野拓実ら若い選手がカタルシスを得るに違いない。とりわけ前線でコンビを組むことが予想される柿谷は、至高のパートナーを得ることになった。

 さらに言えば、対戦相手のCBでさえも"最高のレッスン"を受けられるはずで、一流の駆け引きを習得するいい機会になるはずだ。

 ちなみに風貌はスマート。金髪を靡(なび)かせ、表情は甘い。過去にはウルグアイ人モデル、アルゼンチン人モデル、ミス・イタリアらと浮き名を流した。「浅黒い肌の女性が好み」という噂が巷で流れるほど。残念ながら昨年12月、11歳年下の医療を勉強する女性と結婚しているのだが。

 21年目のJリーグ、希代のゴールゲッターの到来は悪くない予感を与えている。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki