「女性更衣室から靴やブラウスが盗まれた」連続窃盗の疑いをかけられた男性が語る、隠しカメラが暴いた犯人の素顔
「女性更衣室のロッカーからブラウスやストッキング、靴等が無くなることがたびたびありました」
オフィスビルで施設維持管理の仕事をしていた上村さん(仮名、40代男性)は、かつて職場で起きた不可解な事件をそう振り返る。
それは各階のテナントの女性更衣室から、衣類や靴が次々と消える連続窃盗事件だった。編集部は上村さんに取材し、当時の状況を詳しく聞いた。(文:篠原みつき)
不審者ゼロ。浮上した「マスターキー」の謎
事件が起きたのは2001年頃のこと。ある大手企業の支社が入るオフィスビルで、約3か月にわたり奇妙な現象が続いていた。各階テナントの女性更衣室から衣類などが次々と無くなったが、外部から不審者が出入りした様子はなかったという。
「廊下やエレベーターホールの監視カメラには、不審者の姿は一切映っていませんでした」
被害に遭ったテナントが、「外部犯なら警察へ被害届を出す」という話にまで発展した。しかし、
「不動産管理会社の安全担当だった警察OBが『これは内部犯行だ』と主張したのです。なぜなら、ビル内のすべての扉を開けられる『グランドマスターキー』がビル全体で3本しかなく、2本はビルを所有する会社とその子会社である不動産管理会社が1本ずつ所有していました。それは役職者の許可なしには開けられない厳重な金庫に保管され、持ち出された記録はありませんでした」
残りの1本が、万が一の火災などに備えて警備員と設備員の上村さんたち数人がいる防災センターの金庫に保管されており、事実上自由に使える状態だった。
ちなみに、上村さんの所属するA社は施設の設備、警備、清掃を不動産管理会社から請け負っており、警備と清掃業務をさらに別の会社に外注していた。
「金庫の暗証番号は、我々設備員と警備員しか知りませんでした。清掃員も鍵を借りますが、貸出時には警備員の立ち会いと押印が必要で、自由に持ち出すことは不可能です」
必然的に、夜間にビル内に残る警備員と設備員に疑いの目が向けられ、上村さんたちも上司やビルのフロント担当者から、個別に事情聴取を受けることになった。
小型ビデオカメラを設置してみた結果
職場内で露骨な犯人探しは起きなかったものの、疑いをかけられた状態での勤務は重苦しいものだっただろう。
そんな中、不動産管理会社が突然、経費で女性更衣室のロッカーをすべて新品に入れ替えるという動きを見せた。
「実はその時、新しいロッカーの設置に合わせて、ワイヤレスの小型ビデオカメラがひそかに仕掛けられていたんです。現場の我々は全く知りませんでした」
その罠は確実に決定的な瞬間を捉えていた。後日、隠しカメラのSDカードには、夜間巡回中のある人物がロッカーを漁り、ブラウスや靴を盗み出す姿がはっきりと録画されていたのだ。
映っていたのは、同じビルで働く50代の警備員だった。
「少し太っていましたが、おとなしくて口数も少なく、真面目そうに見える人でした。まさか彼が犯人だとは思いませんでした」
「一身上の都合」で退職したと聞いていたが……
証拠映像を突きつけられた警備員は、対面での事情聴取であっさりと犯行を認めた。盗んだ物品を転売した形跡はなく、個人的なコレクション目的だったとみられている。
その後、上村さんが所属するA社と、その下請けの警備会社が被害女性やテナントに謝罪と賠償を行い、示談という形で事態は収束した。
「その警備員はすぐに退職しました。最初は『一身上の都合』と聞いていたのですが、2か月ほど経ってから裏の事情を知らされて、本当に残念な気持ちになりました」
懲戒解雇という結末を迎えた後、現場の大きなルール変更はなかったものの、監視カメラの運用は外部の大手セキュリティ会社へ移管された。常駐する警備会社も、別の業者へと変更されたという。
安全を守るべき立場を利用した裏切り行為。セキュリティの根本は、結局「人のモラル」なのだと痛感する事件である。
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