品川でも恵比寿でもない…「大井町最強説」が現実味を帯びてきた納得の理由

写真拡大 (全7枚)

3月28日に開業した複合施設「大井町トラックス」。オープンから2ヵ月経った現在も大勢の人で賑わい、話題となっている。

前編記事『なぜ「大井町トラックス」だけ”一人勝ち”したのか…再開発で成功する街、失敗する街の決定的な差』に引き続き、さらなる大井町の魅力について、東京情報堂代表の中川寛子氏が解説する。

車両基地一望、ここにしかない立地

大井町トラックスのあった場所にはかつて今回の事業者であるJR東日本の社宅があった。そこに住んでいた人達のうちにはまだ現役という人がいることも推量できる。かつて住んでいた、大井町を知っている人達が関わっているとしたら、この街で求められるものを解像度高く設計できたのではないかとも思われるのだ。

ところで大井町トラックスの賑わいに比べて高輪ゲートウェイシティは、麻布台ヒルズはどうなんだという言い方を聞くが、高輪や麻布台は大井町のようにすでにあった、多くの人が住んでいる街の中に生まれた開発ではない。逆に人のいなかった場所につくられたと考えると人の集め方、集まり方は大井町とは異なってくる。

加えて高輪も麻布台も大井町のようにご近所、地元志向ではなく、世界、未来を意識した開発であることを考えると、つくられたもの、現状が異なるのは当然かもしれない。

もうひとつ、山手線の車両基地「東京総合車両センター」を一望する、ここにしかない眺望、立地も人を集めている要因のひとつだろう。鉄道好きでないとしても視界を遮るもののない駅直結の広場・ステーションプラザからの開放的な眺めは見ているだけで気持ちよい。

さらに26階にあるルーフトップバーからの眺望は一見の価値がある。階数だけ聞くとさほどでもないようだが、周囲には高い建物がほとんどない。都心の夜景の多くが高層ビル中心のものであること考えると一味違う風景が楽しめるのである。それを満喫するなら屋外にあるテラス席がお勧めだ。

こうした眺望については今という時代だから受けたとも考えられる。国交省などがダムや橋などを観光資源として活用する取り組みを打ち出したのが2013年から。その後、2015年の「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」でさらに本格化し、今ではインフラツーリズムはすっかりお馴染みになった。20年前だったら車両基地を売りにはしなかったかもしれない。そう考えると開発のタイミングが時宜を得たものだったといえそうだ。

戦後の闇市の風情を残す飲食店街

開発が行われる前から大井町がそもそも魅力的な場所だったというのも大きい。多くの人が認識しているだろう魅力のひとつが交通の利便性。JR京浜東北線、東急大井町線、東京臨海高速鉄道りんかい線の3線が通っており、りんかい線はJR埼京線と直通運転をしている。これらの沿線を利用すれば都心はもちろん、横浜方面、湾岸エリア、世田谷区や目黒区の住宅街エリアなどにもアクセスは容易。

さらに一駅隣の品川からは新幹線、羽田空港への京浜急行電鉄などが利用でき、日本国内、海外へのアクセスにも優れている。都心部のオフィス街への通勤、出張、そして遊びにも便利な立地というわけである。

生活の利便性もそれに劣らない。このエリアは明治後期から大正期にかけて工業地帯として発展。関東大震災直前の地図を見るとJR線路を挟んで駅周辺にはいくつもの工場が並んでいた。

それらが1989(平成元)年の大井町駅前再開発で品川区総合区民会館(きゅりあん)や大井町丸井(現在はヤマダデンキ LABI LIFE SELECT 品川大井町)などといった、現在、大井町のランドマークとなっている建物、商業施設に変わった。

阪急大井町ガーデン(それ以前は東京進出第一号の阪急百貨店)も工場跡地で、大井町では工場跡地が大型商業施設などに変わり、駅前の利便性を生んだ。商店街も大井銀座商店街、大井すずらん通り商店街、大井三ツ又商店街、大井サンピア商店街などと9か所ある。

もうひとつ、駅周辺に戦後の闇市の風情を残す飲食店街が残されているのも大井町の魅力。もっとも駅寄りには2列の細い通り・東小路があり、その先にはすずらん通り、ゼームス坂を越えた先には平和小路があり、さらに小路からは横道、袋小路が延びる。

もともとは建物疎開地(戦争中、火災が起きないようにあらかじめ建物を取り壊したエリア)だった場所に生まれた飲食店街で、昭和の佇まいを残す中華料理店、盛りの良さで知られる洋食店、元は精肉店だったという立飲みなどが並び、安くておいしい、ちょっと猥雑な雰囲気が楽しめる。

ただし、多人数で入れる店はあまりないので、出かけるときは2〜3人くらいが適当。時には入れるかと躊躇するくらい混んでいることもあるが、笑顔で声をかけてみると意外に入れるものである。

区役所の建て替え、公園直結化などの変化も

個人的には駅から徒歩圏に銭湯、サウナが複数あることもあげておきたい。大井町トラックス内にも路面電車の車内を再現したトラムサウナのあるサウナメッツァ大井町トラックスがあり、前述の阪急大井町ガーデンにはサウナ、岩盤浴もあるおふろの王様、駅南側のイトーヨーカ堂の裏側には泊まれるサウナ屋さん・品川サウナ。

駅から少し離れてはサウナとクラフトビールが売りのすえひろ湯、伝統的な宮造りの東京浴場、露天風呂のある宮城湯(最寄り駅は下神明)などなど。一風呂浴びた後の駅前で一杯はなかなか楽しい。遠くまで行かなくてもちょっとした気分転換ができる、遊べる街なのである。

さらに大井町はまだまだ変わる。大井町トラックス隣接エリアでは2029年の開庁を目指して品川区役所の建て替え工事が進められており、完成の暁には駅前でさまざまな手続きなどが行えるようになる。

また、大井町トラックスから区役所を経てしながわ中央公園へのルートも分かりやすく整備される予定。より緑やスポーツに親しめるだけでなく、防災面の安全も図られることになろう。

そうした大きな変化だけでなく、街を歩いてみるともっと小さな区画で街が動き始めていることが分かる。大井町駅から仙台坂に向かう商店街を歩いてみると数百メートルほどの間に何か所もの建て替え工事が進められており、商業ビル、住宅などが次々に誕生する予定になっている。商店街を見ると通り側は新しく見えるものの、実は古い建物も多く、ここ数年くらいで一気に更新が進みそうである。

また、駅から西、区役所通りを越えた大井二丁目地区は品川区不燃化特区対象地域となっており、細街路が残るエリアも散見される。区としては建替えを促進していきたい地域というわけで、今後はこうした街区でも変化が起きていく可能性がある。となると大井町は駅前の開発が終わっておしまいではなく、まだまだ時間をかけて変わっていくことになろう。

ただ、住むという意味では大井町トラックスである程度の数の賃貸住宅は供給されたものの、大井町自体はそれほど住宅供給が活発な地域ではない。2012年のシティテラス大井仙台坂ヒルトップガーデン(132戸)、ブリリア大井町ラヴィアンタワー(269戸)などを皮切りに大井町駅周辺でも大規模なマンションが建つようになり、現在では数棟のタワーマンションがあるものの、そうした大きな物件が建つ敷地はすでに希少。

これまで住宅に不満があっても利便性などから大井町に住み続けてきた人が多かったのだろう、大井町トラックスレジデンスには地元を中心に戸数をはるかに超える問い合わせが集まったと聞く。

新築で大規模物件でもあるため、賃料はこれまでの大井町の相場を越えてきているはずだが、それでも大井町に住み続けたいと思う人は多かった。住んでいる人達からすると大井町は離れがたい魅力的な街なのではないかと思う。

こちらも読む】丸ノ内線新宿御苑から徒歩5分!セブンイレブンの屋上に23棟の住宅街!「新宿の空中ベッドタウン」誕生の理由

【もっと読む】丸ノ内線新宿御苑から徒歩5分!セブンイレブンの屋上に23棟の住宅街!「新宿の空中ベッドタウン」誕生の理由