〈北中米W杯〉「テレビでタダ」が終わる日…NetflixのWBC独占配信に続き全試合放送はDAZNだけ “スポーツ中継有料化”の波が止まらない舞台裏

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2026年のサッカー北中米W杯は6月11日に開幕戦が行なわれ、7月19日に決勝戦の開催が予定されている。日本の放映権をFIFAから獲得したのは大手広告代理店の電通グループで、一部報道によると総額は350億円にのぼるとみられている。

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前回の2022年のカタール大会が200億円強だったため、高騰ぶりには拍車がかかるばかりだ。日本ではスポーツの視聴は「無料」という伝統が根付いていたが、今年3月に開催されたWBC(2026ワールド・ベースボール・クラシック)がNetflix独占配信だったこともあり、そのモデルが崩壊する日も近いかもしれない。

NetflixのWBCは3140万人が視聴

6月11日(「日本時間6月12日)に開幕する北中米W杯はDAZNが全104試合を生配信し、NHKと日本テレビ、フジテレビが日本代表戦など注目度の高い試合を生放送する。

DAZNはW杯開催期間を含む2026年4月21日から8月30日までの申し込み限定プランとして、「DAZN SOCCER」を提供する。スタンダードプラン月4200円に対して、サッカープランは年間プランの月々払いで月2600円、年間総額3万1200円。DAZNは日本代表戦は無料で配信。

これまでの日本はW杯での代表戦が異常とも言えるほど注目度が高まる特有の文化があったが、DAZNはそうした国民感情に配慮しつつ、サッカーのコアファンを獲得する狙いがありそうだ。

2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)はNetflixが日本で独占配信した。Netflixにおける日本国内の視聴者数は3140万人に達し、Netflixとして過去最大の配信数となった。注目度が高かった日本対オーストラリア戦だけでも1790万人が視聴している。

動画配信事業者にとって、スポーツコンテンツは当たり外れのリスクが低く、多くの視聴者を呼び込むことができる。Netflixは若年層に強いサービスであり、野球に興味関心が高い中高年層を引き入れて新規契約者の属性に厚みをつけられるというメリットもあった。

こうしたプラットフォーマーによる強気の姿勢が、放映権料の高騰に一役買っているのは事実だ。

一方、プラットフォーマーの課金圧が高まり、国民がスポーツの視聴を制限されることを牽制する動きもある。日本政府はスポーツ中継の在り方を議論すべく、有識者会議を立ち上げ、5月20日に初会合を開催。

松本洋平文部科学大臣は5月22日の会見で、「収入ですとか年齢、地域などに関わりなく幅広く国民がスポーツに親しむことができるように、国民のスポーツを観る機会の確保をすることが重要だと考えている」とコメントした。

この発言の念頭にはイギリスの事例があるようだ。イギリス政府は1996年に放送法を改正、有料テレビ局の一部スポーツの独占放送を禁止した。その結果、アメリカのメディア企業が次々とスポーツ中継の放映権を独占。視聴者層が限られてしまったのだ。

この制度や考え方は、後にヨーロッパやアジアの国々にも広がり、現在は「ユニバーサル・アクセス権」として広く知られるようになった。オリンピックやワールドカップなど、国民が無料で見られるべきことが望ましい公共性の高いスポーツイベントを指定し、有料放送局の独占を禁止しようとする動きだ。

しかし、競技団体の資金調達を制限するという負の側面も持っている。2019~2022年サイクルではFIFAの総収入のうち、45%程度は放映権料が占めると言われている。放映権料は増加傾向にあるが、収入が増えることでサッカー人口の拡大やインフラの整備にも繋がっているはずだ。こうしたビジネスに国が介入するという危うさも持っている。

民放で放送することだけが国民にとって有益なのか?

いっぽうで民放のテレビ局にとっても、スポーツコンテンツを扱うメリットが薄れつつある。

アメリカ・カナダ・メキシコの3か国で開催される北中米W杯のキックオフは日本では深夜や早朝が中心で、生中継しても視聴率が限定的である可能性が高い。日本代表が決勝戦に勝ち上がれるかどうかも不明確だ。

視聴率が取りやすい日本戦でも、かつての熱狂ぶりは失われている。ビデオリサーチによると、2022年のワールドカップ日本対ドイツ戦の平均世帯視聴率は36.8%だった。2010年の日本対パラグアイ戦は57.3%、2006年の日本対クロアチア戦が52.7%である。

日本代表がドイツに逆転勝利した白熱の試合であっても、平成時代ほどの勢いはないのだ。そして視聴者の意識も変化している。

2024年にNHK放送文化研究所が行なった「スポーツコンテンツ視聴者2400人へのWEBアンケート」では、スポーツ中継を視聴するサービスとして3割が無料ネット配信と回答している。有料のネット配信も1割を超えた。10代の男性においては、ネット配信が民放地上波と並んでいる。

しかも、10代男性で「テレビでは見たい試合が放送されないから」という消去法的な選択は少なく、「テレビよりも専門的な解説が聞けるから」という回答の割合が高い。また、10代から30代では「他の視聴者の書き込みやリアクションを楽しめるから」という理由も多くなっている。

つまり、視聴者はスポーツコンテンツを見るという理由以外の付加価値をネット配信に見出しているのだ。無料で広く視聴可能な放送・配信を確保する「ユニバーサル・アクセス権」が日本にも浸透すると、若年層の楽しみ方を制限することにもなりかねない。

もしくは、民放各局が付加価値をのせたスポーツ中継に力を入れなければならないことになる。平成時代のような視聴率が期待できない中で、付加価値の高い放送をできるのかどうかは疑問の余地がある。

かつての輝きを失いつつあるビジネスモデル

日本における放映権獲得の常識も崩れつつある。2026年のワールドカップの放映権は電通が獲得したが、一時はFIFAが博報堂DYホールディングスと独占交渉していたことがわかっている。

放映権料は高騰を続け、日本は円安で相対的な割高感も高くなる。電通は2023年から3年連続で赤字であり、2025年には3000億円を超える過去最大の赤字だった。電通にとっては強気な交渉はしづらい状況だ。

それに加えて東京オリンピックでは公取委が独禁法違反行為を認定。電通グループの関与について5割加算の算定率を適用したとして独占禁止法違反に問われる不祥事も起こしている。こうしたことを受け、FIFAが新たな交渉相手を探してもおかしくはない。ワールドカップの電通モデルは崩壊寸前とも言える状況だったのだ。

FIFAは民放による無料放送に理解を示しつつも、若年層を引きつける新たな収益モデルを模索しているようだ。主催者側は視聴者のニーズを汲み取っているようにも見える。

競技団体、視聴者、放送側の視点から、スポーツの公共性について議論する時代に突入したようだ。

取材・文/不破聡