「優待目的で買ったのに…」投資家を震わせる“突然の廃止発表”。株主優待投資に潜む落とし穴【経済評論家が解説】
物価高が続くなか、食事券やQUOカード、自社製品などがもらえる「株主優待」に注目する個人投資家は少なくありません。優待株投資の利回りを高めるには「どの価格で買うか」が重要であり、さらに優待制度の突然の廃止や内容変更といったリスクにも注意が必要です。本記事では、株主優待を効率よく獲得する投資手法「優待取り」の基本から、利回りを高める考え方、そして見落としがちな注意点まで、杉村富生氏の著書『月々10万円、年120万円がず〜っと入ってくる 毎月配当株投資』(すばる舎)から一部を編集・抜粋し、解説します。
優待取りは「いかに安く買えるか」がカギとなる
優待取りのポイントは、「配当取りのポイント」と同じ、できるだけ安い価格のときに仕込むことです。これは、優待の価値(金額)が変わらなければ、株価が安いところで買うほど優待利回りが高くなるためです。
例えば、ウイルテック(7087)の株価は、2025年に838円でスタート、4月7日には701円の安値、9月1日には1384円の高値をつけました。最近は人気銘柄です。
[図表1]ウイルテック(7087)の週足
2025年8月末、筆者の知人Gさんの買値(300株)は1310円であり、これに対する総合利回りは5.6%(配当利回り3.1%+優待利回り2.5%)でした。株主優待制度の導入が評価されたケースです。
とはいえ、2025年の始値838円で300株買った場合はどうでしょう。購入金額は25万1400円(838円×300株)、これによる配当の総額(額面=税引き前)は1万2000円(40円×300株)になるため、配当利回りは4.8%(1万2000円÷25万1400円×100)、優待利回りは4.0%(1万円÷25万1400円×100)とアップします。
したがって、総合利回りは8.8%(配当利回り4.8%+優待利回り4.0%)になります。これは、知人Gさんが1310円で買ったときの総合利回り5.6%を3.2ポイント(8.8%−5.6%)も上回る数字です。
さらに、4月安値近辺の710円で買えた場合はどうでしょう。購入金額は21万3000円(710円×300株)で済みます。この結果、配当利回りは5.6%(1万2000円÷21万3000円×100)、優待利回りは4.7%(1万円÷21万3000円×100)となるため、総合利回りは10.3%(配当利回り5.6%+優待利回り4.7%)まで跳ね上がります。
配当株投資、および優待株投資は株価の値上がりを第一とするもの(キャピタルゲイン狙い)ではありません。あくまでもインカムゲインを目的とした投資であり、そのための取引です。
これは対象となる銘柄に共通したことですが、ウイルテックの例で示したとおり、いかに安くなったところを仕込めるか、そのタイミングが成否のカギを握っているのです。株式投資は「時を買う」というではありませんか。
個人投資家には有利に働く優待制度だが…問題は「不平等さ」
次は、優待取りの注意点について考えてみたいと思います。まず、優待品は使いやすさも大切です。その意味では、コンビニでも使えるクオカードは便利ですね。ただ、地方にはコンビニのない地域もあります。
独立系技術商社のサンワテクノス(8137)は、「近くに使える店舗がない」との抗議を受け、それまで贈呈していたクオカードを廃止しました。筆者はクオカードのほうが使い勝手がよいと思いますが、その代わりに2026年3月期より、100株所有でも2000円分のデジタルギフトがもらえるようになりました。
また、特定の場所に出かけていかないと使えないような優待も困ります。例えば、東京、大阪限定の施設利用券、チケットなどをもらった場合、高い交通費を払って行かねばならない地方在住の人は、足が出てしまいます。
さらに、最近は保有期間(1年以上など)、所有株数によって差をつける企業が増えています。やはり、配当もそうですが、株主優待制度は「長期保有」を前提にしています。その点、短期売買には向いていません。
それと、株主優待はご存じのとおり、企業が株主に対して自社製品などの優待品を贈る制度です。これは小口(個人)投資家には有利ですが、大口(機関投資家などの大手)投資家にとっては不利な制度です。最低売買単位の100株所有していればもらえる優待品が多く、この点、所有株数に応じてもらえる金額が増える配当とは、根本的な違いがあります。
このため、外国人、機関投資家、法人株主などは「不公平だ」と批判しているようです。すなわち、「不公平であること、不平等なこと」が株主優待制度の最大の問題点といえます。このような声を受け、最近は株主優待制度を廃止するケースが増えています。
全国保証(7164)は、200株以上所有の株主に対し、3000円相当のクオカードを贈呈していましたが、2026年3月期をもってこの株主優待制度を廃止することにしました。
[図表2]全国保証(7164)の週足
廃止する理由について会社側は、「当社の株主還元の方向性について社内で慎重に検討を重ねました結果、株主優待制度の目的の一つであった知名度向上に貢献できたと判断したため、株主優待制度について現状においては廃止し、今後は配当等による利益還元を行っていくことといたしました」と発表しています。
さらに、アクティビストと呼ばれる物言う株主は、この制度は「費用対効果が乏しく、成長戦略がおろそかになる」とし、会社を突き上げています。
「株主優待廃止発表後に株価が急落」したケース
とはいえ、個人投資家にとっては、配当とともにクオカードとか、米などの食料品、自社製品などを贈ってもらえるのはうれしいものです。金額はわずかでも、内容(品物)によっては親近感がわき、優待を実施してくれる企業を応援したくなることも多いと思います。
ただ、前述したように突然、株主優待制度を廃止する場合があります。日本M&Aセンターホールディングス(2127)がそうでした。かつては米が優待の対象商品で好評だったのですが、今は廃止されています。2023年3月期が最後でした。
株価はその直後に急落、令和の米騒動の前のことでしたが、それなりに楽しみにしている人が多かったのでしょうね。
投資家に衝撃を与え、大きなニュースになったのは回転寿司大手のくら寿司(2695)です。同社は2024年12月11日、株主優待の廃止を発表しました。この日の終値は3865円でしたが、この発表を受け、翌日(12月12日)の株価は終値が3255円まで売られました。この間の下げ幅は610円、下落率は実に15.8%です。
[図表3]くら寿司(2695)の日足
同社株はその後も下げ続け、2025年2月17日には2537円の安値をつけました。これに窮したのか、同社はその2日後の2月19日に「株主優待制度の再導入」を発表します。この優待復活をマーケットは素直に好感しました。この日の終値2590円が翌2月20日は500円値上がり(ストップ高)し、市場関係者の度肝を抜いたのです。想定外のポジティブ・サプライズといえるでしょう。
現在の優待は、以前のような1000円ごとに利用できる割引券ではなく、食事券(100株所有の場合は2500円分など)に改められています。ちなみに、同社株はその後も続伸し、2025年8月5日には4195円まで買われました。現在も3000円台後半で堅調に推移していますが、まさに「優待の復活が株価の復活を招いた」(市場関係者の話)といえるでしょうね。
くら寿司のケースは、配当の復配・無配転落(大幅な増減を含む)だけでなく、株主優待の廃止・復活(内容の大幅な変更を含む)も、株価に大きな影響を与えることを示してくれました。ただ、この乱高下の最中に、大株主の売買(安値での取得)があったといわれ、物議をかもしたのは事実です。
なお、株主に支払われる配当は原則、株主総会で決議されるのに対し、株主優待の廃止・変更は取締役会の決議のみで決定することができます。この点、注意すべきリスク(落とし穴)も含んでいますので、肝に銘じておく必要があります。
杉村富生
経済評論家
※本記事は、杉村富生氏の著書『月々10万円、年120万円がず〜っと入ってくる 毎月配当株投資』(すばる舎)の一部を抜粋したものです。記載内容は執筆当時のものであり、また、投資の結果等に編集部は一切の責任を負いません。

