「木曽の山々が隆起する前」を、想像してみる…長野県のど真ん中を「南北に貫いている断層群」から見えてくる、列島を大縦断する、壮大な仮説の中身

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宇宙で唯一の生命を育んだ「海」、あたりまえのようにそこにある「山」、そしてミステリアスな「川」……。地球の表情に刻まれた無数の凹凸「地形」。どうしてこのような地形になったのかを追っていくと、地球の歴史が見えてきます。

「地球に強くなる三部作」として好評の『 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』を中心に、地形に関する選りすぐりのトピックをご紹介します。

前回、明らかになった、成立年代のずれと、湖底と河床の高さの違いという、天竜川と諏訪湖をめぐる2つの疑問。では、諏訪湖ができる以前、まだ中央アルプスの隆起も起こる前の天竜川の流れは、どうだったのでしょうか。

その謎を解く鍵が、天竜川上流域に存在す中央構造線と糸魚川ー静岡構造線との交差点です。

*本記事は 川はどうしてできるのか 』『 海はどうしてできたのか 』『 山はどうしてできるのか 』 (講談社・ブルーバックス)の内容を、再構成・再編集のうえ、お届けします。

荒唐無稽な考えに根拠を与える、巨大な地質構造

天竜川は日本海から流れてきて、現在は分水嶺となっている峠を越えて、太平洋側に流れていた……そんな、 荒唐無稽な考えに根拠を与える可能性があるのが、フォッサマグナです*。

*そんな、 荒唐無稽な考え:至った疑問については、前回の記事をご覧ください。

ラテン語で「大きな溝」という意味のフォッサマグナは、日本が大陸から分かれて日本海ができた時期とほぼ同時に起きた、大規模な地殻変動によって形成された巨大な地溝のことで、中央地溝帯とも呼ばれています。

日本列島はフォッサマグナによって、南北方向に胴切りにされているのです。

明治時代の初めに日本にこうした大地溝帯があることを発見し、フォッサマグナと命名したドイツの地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンは、フォッサマグナの東の端は、直江津ー平塚構造線であろうと考えました(ナウマンがフォッサマグナを発見した経緯は、こちらの記事を参照。〈じつは「横柄なお雇い外国人」だったナウマン…!?本当は「ゾウ発見」よりスゴすぎる「日本初の地質図」の中身〉)。

現在では、これについてはさまざまな見方があります。しかし、西の端はナウマンが考えたとおりであろうとみられています。それが糸魚川ー静岡構造線です。ちょうど善知鳥峠と天竜川の間を通っているのです。

アフリカの大地溝帯を流れる川「ナイル川」

こうした糸魚川ー静岡構造線のような大きな断層の影響を受けた川に東アフリカ地溝帯に沿って流れるナイル川があります。

アフリカの地図を広げてみると、アフリカ大陸の東に大規模な大地の裂け目があるのが目に入ります。大地の裂け目のことを「リフト」(Rift)ともいいますが、これはスキーなどのリフト(Lift)ではなく「引き裂く」といった意味で、言葉のとおり、大地が両側から引っ張られ、引き裂かれてできた裂け目です。これが有名な「東アフリカ地溝帯」で、いわば断層の「超巨大版」です。

南北4000km、幅は広いところで250kmもあり、溝の両側には垂直に近い壁が延々とそびえ、中央と周囲の落差は1500m以上もあります。このように大きな裂け目ができたのは、地球内部に存在する熱のためです。

地下2900kmもの深さから上がってくる「プルーム」と呼ばれる高温の巨大な煙のようなものが、いまからおよそ600万年前にアフリカの大地を引き裂いたと考えられています。

そして、地溝帯の北、アフリカ最大の湖であるビクトリア湖から流れ出ているのが、世界最長の川とされているナイル川です。

地溝帯の周辺を流れる川はどれも、巨視的に見ればナイル川ですらこの大構造に支配されていて、ほぼ地溝帯の延長線に沿って直線的に流れているのです。

この東アフリカ地溝帯でも、断層は一本の線ではなく何本もが平行に走っています。

天竜川は、信濃川……!? 今は、互いに反対向きの流れ、一本だったらどっち向きか

善知鳥峠がまだ平坦だったとき、そこを流れていた川は、フォッサマグナに平行に南北に走る断層のうちの一本に沿って、北へ流れていたのかもしれません。

善知鳥峠ができる以前は一つだったその川は、峠の北を流れる犀川を経て、信濃川につながっていたと私は考えます。しかし、流れる方向は現在とは逆に、信濃川→犀川→天竜川と、日本海側から太平洋側へ流れていたと考えたいのです。

では、この川の源流はどこでしょうか。

現在の信濃川が日本海に注ぐまでの流路には、源流となりそうなところを見つけることはできません。そこで、目を大幅に転じてみましょう。その先は、日本海を越えたロシアの地です。

天竜川の源流がロシアとは、大胆な仮説です。その仮説に至った考察とは、どういったものなのでしょうか。次回で詳しく見ていきましょう。

川はどうしてできるのか――地形のミステリーツアーヘようこそ

地球に強くなる三部作! 川の面白さは、家で地形図を広げて眺めているだけで、「なぜこんな姿をしているんだ?」という謎が次々に浮かんでくるところにあります。一筋の流れにひそむ、地球のマジックの謎解き、そして数々のドラマチックな物語を追います。 【姉妹刊】 海はどうしてできたのか ・ 山はどうしてできるのか

【続きを読む】驚きの仮説。列島を縦断した天龍川は、なんとロシアへ続く…「日本列島の成立と形成に振り回され続けた」名流の、今は「消えた源流」の場所