「葬儀の類は一切行わない、代わりに…」医療ジャーナリスト・長田昭二が遺言書で提示した「5つの条件」《担当弁護士インタビュー》
2025年6月、「僕の前立腺がんレポート」を連載中に亡くなった長田昭二さん。「一人の人間ががんになって、命を落としていく過程を知ってほしい」と語っていた長田さんの遺志を受け、文藝春秋編集部ではご親族の了承を得て、闘病生活にかかわった方々のインタビューを連載番外編としてお届けします。
【画像】亡くなる11日前、文藝春秋を訪れて編集者らと談笑する長田さん
今回は、長田さんの元担当編集者で文藝春秋法務部のKとともに、弁護士の藤原大輔さんにお話を聞きました。藤原さんは、長田さんの遺言について振り返ります。
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「遺言書」は、どんな手続きで作れるのか?
藤原 相談では「遺言書ってどうやって作ればいいの?」という、初歩的なところから聞かれたので、遺言には大きく言うと「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類があるという話から説明しました。

長田さんの遺産整理を担当した藤原大輔弁護士 ©文藝春秋
まず、「自筆証書遺言」は、遺言者本人が本文、日付、氏名に至るまで自筆で書いて、書面に押印をして完成する。2019年に制度が変わって、財産の目録等はパソコンで作っていいことになりましたが、基本的に遺言の内容はすべて自筆でなければいけません。自筆証書遺言は自分で完結するので一見簡単そうなのですが、難しいのは「要件を1個でも欠くと無効になってしまう」ことなんです。
――要件とは、どんなことでしょうか?
藤原 例えば、一部が自筆で書かれていないとか、押印を忘れるとか。ほかにも、日付を「3月吉日」なんてしたらアウト。そうなると、遺言書自体が全部無効になってしまう。
長田さんにはそんなリスクを説明した上で、もう一方の「公正証書遺言」を作ることを勧めました。
※編集部注(2026年5月1日) 2026年4月3日、遺言についてパソコンなどでの制作を容認する民法改正法案が閣議決定されました。改正案が成立すれば、2028年度中にも新制度の運用が始まる見通しです。
――「公正証書遺言」とは、どういう手続きで作られるのでしょうか。
藤原 証人2人が立ち会いの上、公正証書を作成する専門家の「公証人」に遺言書を作ってもらう方法です。証人は家族や相続人は不可で、弁護士は可です。こちらは専門家が確認しながら進めますから、要件を欠いて失敗することはない。公正証書遺言を一度作っておけば、遺言の内容が明確で、すぐに証明できますから、亡くなった後の銀行など各機関との手続きもスムーズに進みます。
長田さんもその提案に納得されたので、公正証書遺言を作るために必要な戸籍謄本などの書類を集めてもらうと同時に、まずはご自分で遺言を文章にしてみましょう、という話になりました。
――その証人には、藤原弁護士の他、私(連載の担当編集者)が指名されていました。その日の相談の時点で、遺言の内容は固まっていたのでしょうか。
藤原 ほぼ固まっていました。
長田さんが希望していた遺言
――長田さんは、遺言の具体的な内容について、連載のなかでも触れていますね。
〈(1)戸籍上の母親にはビタ一文贈与するつもりはない
(2)死後は大学医学部に献体する
(3)葬儀の類は一切行わない
(4)葬儀の代わりに「長田昭二さんを送る会」を盛大に開催してほしい
(5)遺骨の一部を分骨し、大好きな香港の指定の場所に散骨してほしい〉(第17回、2024年10月1日配信)
藤原 そうですね。長田さんは“おひとりさま”で、お子さんもいない。法律上の相続先はご両親になる。でも、長田さんは、連載でも再三書かれているように、(1)のとおり、お母さまに贈与したくないという意思を持っていた。つまり遺言を書かないと、その希望は実現しないんです。
――そもそもですが、上記の(2)から(5)のような内容も、遺言に書く必要ってあるのでしょうか?
藤原 この(2)から(5)は、遺言書の「付言事項」に書くはずだったもので、法的拘束力はありません。ただ、書く意味があるかないかと言われると、意味があります。
本来の「遺言」として書くべき内容は、「財産を誰にどれだけ渡すか」ということだけですが、「付言事項」は残された人に「自分の最後の思いを伝える」という意図で入れます。たとえば、母親が子ども2人に相続させる場合。半々ではなく3対2で分けるとなると、やっぱり争いが起きる。その時に「母親がどういう意図で比率を決めたか」を付言事項に書き込む。すると、母親の死後、親族が付言事項を読んで「なるほど。お母さんはこういう思いだったんだな」と納得することもあるわけです。
長田さんの場合、付言事項に死後の詳細を書き残しておけば、残された人たちが「ご本人の思う通りにやってみよう」と思えるわけです。
――長田さんの遺言の素案を見たとき、付言事項に「送る会」の責任者として私の名前を挙げられてちょっと重いなと思ったのですが(笑)、どういう気持ちで受け止めればよいのでしょうか。
藤原 先述の通り、法的拘束力は全くないですから、生前最後の希望として尊重してほしい、ということだと思います。
※長田昭二氏の本記事全文(6500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています。全文では、下記の内容についても触れられています。
・1年後に再び連絡が……
・自宅に書き残されていた遺言書
・遺言書は「書いたら終わり」という性質のものではない
(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 電子版オリジナル)
