俳優として第一線を走りながら、地元・大分で畑仕事に汗を流す財前直見さん。還暦を迎えた今も、「やりたいことがたくさんある」と目を輝かせます。「60歳といえば昔はおばあちゃんのイメージだったけど…」、歳を重ねながらも前向きに今を生きる、財前さんの揺るがない、しなやかな「強さ」とは。

【写真】「惚れ惚れする美しさ」人気作品『お水の花道』出演時の財前直見さん(9枚目/全10枚)

「自分が誰かわからなかった」多忙な30代の記憶

歳を重ねるにつれ、演じる役の幅が広がり「ワクワクする」と話す財前直見さん

── 財前さんは41歳で地元・大分に移住する以前は、俳優として多忙な日々を送られていました。

財前さん:30代は仕事一筋で、正直に言うと忙しすぎて当時の記憶がほとんどないんです(笑)。特に女優は他人をずっと演じる仕事です。続けるうちに生活の中に「自分」がいなくなってしまって。「自分はいったい何者なんだろう」と足元が揺らぐこともありました。

忙しさと緊張で気持ちが張りつめて、心が折れそうな時に、自分を繋ぎ止めてくれたのが「書道」でした。毛筆で自分を勇気づける言葉を書き続けるんです。

相田みつをさんのような味のある字が書きたくて、わざと左手で書いたりもしていました。でも書きすぎたせいで、左手で書くことに慣れてうまくなっちゃって(笑)。「逆もまた真なり」とか、心にとどめておきたい言葉や自分を励ます言葉をたくさん書いていましたね。

「皺もいい味」と言える女優でありたい

── 年齢とともに演じる役柄が変わることへの葛藤はありましたか?

財前さん:オファーされる役柄が切り替わった時期はありますが、悩むことはまったくなかったですね。若い頃から「皺もいい味になる女優さんになる」ことがひとつの目標でした。武士の妻でも農民でも、どんな役でも演じていきたい。年齢を含めたその人の人生を演じられるほうが、ワクワクします。

── 移住された地元・大分では農業もされていますよね?俳優という仕事柄、肌のケアはどうされているのでしょうか?

財前さん:ほぼしてないです(笑)。紫外線がお肌の大敵だと言われていますが、大分では日焼け止めを塗って農業をするくらい。事務所の人には「今日は取材なので、さすがにメイクさんは入れましょう」と忠告されることもありますが、見た目にはあまり気を遣っていません。

「自分で自分の食い扶持を賄う」という強さ

俳優業を続けながら、地元・大分では畑仕事に汗を流す。採れたきゅうりを手に

── 俳優という華やかな世界にいながら、大分で土に触れる生活を続けています。その根底にはどんな価値観があるのでしょうか。

財前さん:昔からなんですが、容姿やお金などのステータスに興味がないタイプでした。変わっているんだと思います。お金を持っている人よりも、自分の食べるものを自分で作れる人のほうが最終的には強いと思ってますし。だって、何かあっても生き残れるじゃないですか(笑)。「自分でちゃんと生活できる人が強い」という価値観でずっと生きています。

── 歳を重ねて気付いたことはありますか?

財前さん:今年で60歳になりましたが、やっぱり最後は「人間性」です。歳を重ねるほど、表面的な笑顔だけではごまかせなくなります。本当に心から笑っているのか、本音はどうなのか、取りつくろえなくなってくる。バレちゃうんですね。

だからこそ、心から笑えるように毎日を満たしたい。もし、つらい時は「つらい」と素直に出せることも、立派な人間性だと思うんです。

前向きに歳を重ねるために見る「ちょっと先の未来」

── 今後の展望はありますか?

財前さん:昨年から息子が大学に進学をし、自分の時間が増えました。60歳というと、昔は「おばあちゃん」というイメージでしたが、私も含めてみなさんとても元気。体もまだまだ動きます。今は「大分の在来種を守る活動」に挑戦しています。ミトリ豆や白なすなど、大分にしかない農作物を守り育て、次の世代に引き継いでいきたいです。

── 前向きに歳を重ねるために必要なことは、なんだと思いますか?

財前さん:過去を振り返りすぎても心が老いますし、遠い未来ばかりを見ていても余計な不安が出てきます。だから私は、ちょっと先の未来を見て、やりたいことをたくさん考えるようにしています。今はきんかんの収穫時期なので、「種を取らなきゃ」とか「水をやらなきゃ」とか、そんなことばかり日々考えています(笑)。

取材・文:大夏えい 写真:財前直見