一刻を争う「肺のパンク」 血圧低下や意識障害を招く緊急サインとは? 【医師解説】

肺気胸のもう一つの主要な症状が、息苦しさです。なぜ安静にしていても呼吸が楽にならないのか、そして緊張性気胸と呼ばれる重篤な状態とはどのようなものかを知っておくことは、症状への正しい対処につながります。ここでは、息苦しさの仕組みと重症度による症状の違いについて解説します。

監修医師:
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

息苦しさの症状と肺気胸の関係

肺気胸のもう一つの主要な症状が「息苦しさ(呼吸困難)」です。胸痛と同時に、あるいは少し遅れて現れることが多くあります。この息苦しさがどのようなメカニズムで生じ、どの程度のものなのかを正しく理解することが、重症度を判断し、適切な対処を行うための鍵となります。

息苦しさが起こる仕組み

息苦しさが生じる直接的な原因は、肺がしぼむことによるガス交換能力の低下です。肺が虚脱すると、一度の呼吸で体内に取り込める空気の量が減少し、結果として酸素の摂取量も減ります。身体はこの酸素不足を補うために、無意識のうちに呼吸の回数を増やし、呼吸を速く、浅くしようとします。この「酸素が足りない」という感覚と、「呼吸努力が増している」という感覚が組み合わさったものが、私たちが自覚する「息苦しさ」です。肺の虚脱の程度が大きいほど、ガス交換の効率は悪化し、息苦しさも強くなる傾向があります。しかし、もともとの肺機能や個人の感受性によって症状の出方は大きく異なり、肺の縮小が軽度な場合は、息苦しさをほとんど感じない人もいます。そのため、「息苦しくないから大丈夫」とは一概に言えません。症状の程度にかかわらず、急な変化には注意が必要です。

安静時にも息苦しさを感じる理由

運動時に息切れがするのは生理的な反応ですが、病的な息苦しさの重要な特徴は、安静にしていても症状が続くことです。肺気胸の場合、胸腔内に溜まった空気が排出されない限り、肺はしぼんだままであり、安静にしていてもガス交換の障害は解消されません。特に注意が必要なのが「緊張性気胸」と呼ばれる、命に関わる重篤な状態です。これは、肺の穴が一方通行の弁(チェックバルブ)のようになり、息を吸うたびに空気が胸腔内に流入するものの、吐くときには出ていかない状態です。これにより胸腔内圧が異常に上昇し、しぼんだ肺だけでなく、心臓や大血管、もう片方の健康な肺まで圧迫し始めます。この状態になると、血圧の急激な低下や意識障害を引き起こし、急速にショック状態に陥ります。横になっても全く楽にならない、むしろ悪化する息苦しさは、緊張性気胸を強く示唆する非常に危険なサインであり、一刻も早い救急処置が必要です。

息苦しさの程度と肺気胸の重症度の関係

息苦しさの強さは、肺気胸の重症度を判断する上で重要な指標の一つとなります。ただし、自覚症状の強さと、実際の肺の虚脱度が必ずしも一致しないこともあり、そのギャップを理解しておくことが冷静な判断につながります。

軽症・中等症・重症での症状の違い

肺気胸の重症度は、胸部X線写真で肺の虚脱の程度(肺のしぼみ具合)によって、一般的に軽症、中等症、重症に分類されます。

・軽症:肺の虚脱が軽度で、胸の違和感や軽い痛みはあっても、息苦しさは自覚しないか、階段を上るなど軽い労作で感じる程度です。多くの場合、安静による保存的治療で自然に治癒することが期待されます。
・中等症:肺の虚脱が進行し、安静にしていても息苦しさをはっきりと自覚します。会話をするのが辛くなったり、少し歩くだけで息が上がったりします。多くの場合、入院して胸腔ドレナージ(胸に管を入れて空気を抜く処置)が必要となります。
・重症:肺が大きく虚脱し、著しい呼吸困難を呈します。血液中の酸素飽和度が低下し、唇や指先が紫色になるチアノーゼが見られることもあります。前述の緊張性気胸もこのカテゴリーに含まれ、生命の危険があるため、緊急の処置が必須です。症状は急激に悪化する可能性があるため、少しでも重症のサインが見られたら、ためらわずに救急車を呼ぶべきです。

若い方と高齢の方での症状の出方の違い

同じ程度の気胸であっても、年齢や基礎疾患の有無によって症状の現れ方は大きく異なります。自然気胸の好発年齢である若年層は、もともとの心肺機能の予備能力(リザーブ)が高いため、肺がある程度しぼんでも、残った肺で十分に代償でき、息苦しさを感じにくいことがあります。痛みが主症状で、息苦しさは軽微というケースも少なくありません。一方、COPDなどの基礎疾患を持つ高齢者の場合、もともと呼吸機能が低下しているため、わずかな肺の虚脱でも呼吸状態が著しく悪化し、強い息苦しさを訴えます。また、高齢者は日常の活動量が少ないため、息切れを「年のせい」と思い込み、受診が遅れてしまう危険性もあります。年齢に関わらず、これまでになかった急な息苦しさや胸痛は、肺気胸を含む重大な病気のサインである可能性を常に念頭に置き、軽視せずに医療機関を受診することが極めて重要です。

まとめ

肺気胸は、その名の通り「肺のパンク」とも言える状態で、突然の胸痛や息苦しさを引き起こす、決して稀ではない呼吸器疾患です。特に、痩せ型の若い男性に多いという特徴がありますが、肺に基礎疾患を持つ高齢者にも発症し、その場合は重症化しやすい傾向があります。初期症状が筋肉痛などと似ているため、見過ごされやすい側面も持っています。しかし、本記事で解説したように、片側だけの鋭い胸痛、深呼吸で増す痛み、安静にしても続く息苦しさなどは、肺気胸を強く疑うべき重要なサインです。これらの症状に気づいたときは、「少し様子を見よう」と自己判断せず、速やかに呼吸器内科や救急外来を受診してください。正しい知識を身につけ、迅速に行動することが、重症化を防ぎ、より早期の回復へとつながる最も確実な道です。

参考文献

日本呼吸器学会「気胸」

厚生労働省「第Ⅰ 胸部臓器の障害」